本しゃぶり

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【書評】間違っていたのは俺じゃない、設計のほうだ / “誰のためのデザイン?―認知科学者のデザイン原論”

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きっかけ

俺のいる部屋の電気を消そうとしたら、違う部屋の電気が消えると同時に声が聞こえた。
慌てて点け直し、別のスイッチを押したらまた別の違う部屋の電気が消えた。
こんどこそと3度めの挑戦をしたら換気扇が回り始めた。

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操作で失敗した時、俺が悪いことになっていいはずがない。

1ヶ月以上前だが、こんな記事がちょっと話題になった。
【UI調査】スマホ・アプリのスイッチの意味をユーザは理解できているのか? | アプリオ
特に頷いてしまったのがここで紹介されたこのコメント。

  • ボタンの上に| ◯マークを付けるのはいいけど、背景に| ◯マークを表示すると現在の状態か押すとその状態になるのか判別しづらい。
  • 見えてるのが現在の状態なのか、見えてないのが現在の状態で、見てる方に切り替えられるという意味なのか、迷うことがある
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すごくよく分かる。スイッチの記号自体は知っているが、結局どう動くかの判断に困る。これがすぐに結果がわかる設定ならまだいい。別のコメントにもあったが、接続などのワンテンポ遅れて結果が出る場合だと「繋がらない」→「もう一度押す」→「一瞬ONになってOFFになる」→「FFFFFUUUUUUU」どうしてこうなった。

また、別の装置だとこんなこともあった。複数の動作プログラムを入れられる装置なのに、現在どのプログラムが選択されているかは4ステップかけて設定画面を開かないとわからない。そして実行するためにまた4ステップかけてメイン画面に戻る。設定が昨日のままだと思って実行したら、別の人が使っていたようで予想外の動きをし、サンプルが破壊された。事前に確認しない俺が悪いのか。

このようなミスを作業者のせいにするのは簡単だ。しかし、元々のデザインが悪いのではないか。その答えがこの本にあった。

やっぱり俺は悪くない

著者はまず上記のような失敗談を取り上げる。初めて使うもので失敗するという話だ。こういった話を聞くと人のせいにする人がいる。例えば「注意して見れば分かることだ」「説明書をよく読め」「ちゃんと確認しろ」こんな感じに。

しかしこの本では郵便局の二重扉に閉じ込められたという話が出てくる。まさかお店に入る前にドアの開け方の説明書を読もうと考える人はいない。クールな見た目だったらしいが、ドアの左右どちらが開く方でどちらが支柱側なのかはわからなかったようだ。他の例として大量のボタンがついているが一度も押されない洗濯機や、意図した方向と逆へスライドトレイを射出するプロジェクターなんかが紹介されている。

人は失敗すると自分を責めがちだ。他の人は問題なく使えているのになぜ自分はうまくできないのだと。それに対して著者の主張は「人が誤る前にデザインが誤っている」というものだ。俺もそう思っていた。

優れたデザイン

ではどんなデザインが優れているのか。それは次の「4条件」を満たしているかだ。

  • 可視性
  • よい概念モデル
  • よい対応づけ
  • フィードバック

それぞれを簡単に説明する。

  • 可視性:状態を目で見れる。(中身が見えるとか)
  • よい概念モデル:対象の原理を簡単に理解できる。(頭の中でシミュレートできるか)
  • よい対応づけ:入力と出力の関係がわかる。(入力と出力の動作が同じとか)
  • フィードバック:入力に対してすぐに反応がある。(実行中と表示されるとか)

ここで気にすべきは「シンプルであること」という条件がないことだ。最近は「見た目がスッキリしている」とか「ボタンの数が少ない」というのが優れたデザインという風潮があるが、この本ではそれは間違いとしている。重要なのは悩まずに使えるかどうかだ。だからiOS7のロック解除なんかは完全に失敗例ということになる。よい概念モデルを提供できていないのだ。

この本は例も多いこともあってそこそこの分量がある。しかし重要なのは上記の「4条件」であり、残りは全てコレがいかに大切か、欠けているとどうなってしまうのかということに費やされている。だから機械的なもの以外でも何かを作る人は「4条件」を満たしているかを考慮しながらデザインした方がいい。フラットデザインでジェスチャーが豊富なアプリを「優れたUIだ!」と評価しちゃう人もこの条件について考えたらどうだろうか。

まとめ

この本が書かれたのは20年以上前だ。だから例も今は見かけないものだったりする。しかし、使われているものが違っていても同じ問題を抱えていることは非常に多い。少なくとも俺はよく経験するし、イラつくことになる。決して俺が愚かなわけではない。ではなぜこの時代でもクソみたいなデザインが氾濫しているのか。

一つはデザイナーがわかっていないからだ。わかっていたらこんな事にはならない。「美」を第一優先にしてしまっている。この本ではデザインをけなす時「たぶん賞でもとっているんでしょう」と書く。

もう一つはユーザーもわかっていないということだ。失敗した時、デザインが悪いのではなく自分が悪いと考える。だから文句を言わない。文句を言えば自分はバカですと宣言するようなものだからだ。するとデザイナーに不満は届かず、また「美しい製品」が作られる。そして賞をとる。だから世界を良くするためにもミスを犯した時にその製品は「4条件」を満たしているかを考えるべきだ。欠けているものがあるならば、あなたは何も悪くない。満たしていたのなら…… お前はバカだ。

こんな人におすすめ

  • デザインする人
  • 道具を使う人
  • 説明書を読まない人

初代は2006年のレッドドットデザイン賞、2007年のiF賞を受賞。

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