本しゃぶり

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【書評】基本相互作用に逆らう / “静電気・ホコリ[ゼロ]革命―世界の工場からホコリが消える日”

きっかけ

ホコリ対策をしようかと。

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決して俺の部屋だけが汚れているわけではない / Global satellite-derived map of PM2.5 averaged over 2001-2006. Credit: Dalhousie University, Aaron van Donkelaar より

なんか気がつくと机にホコリが溜まっている。わりとおおらかな性格をしているのでホコリの一つや二つでいちいち目くじらを立てることはしないが、指の跡がつくとさすがに気になる。別に姑と一緒に住んでいるわけではないので自分が触らなければいいのだが、触らないともっとホコリが溜まる。それにホコリは精密機器に害をなす。百害あって一利なしだ。

そんなところにこの本だ。ホコリゼロとかすごい。英語で書いたらDust/Zeroだ。あのホコリを無くすことができるのか。いつの間にかどこにでも現れるホコリを駆逐することができるのか。なんか凄そうなので読んでみた。


内容とか

この本の内容は大体次のような感じ。

  • トヨタのすごさについて
  • TRINCの歴史について
  • TRINCの製品について

あと静電気についてちょっと詳しくなれる。

工場とホコリの切っても切れない関係

工場、すなわち製造現場ではホコリは大敵である。精密機器や塗装の現場ではホコリを敵視していると言ってもいい。しかし、ホコリはワークに付着する。たまたま上に落ちるのではない。わざわざワークに引き寄せられ、付着したら勝手には落ちない。静電気、つまり帯電しているためクーロン力が働くからだ。クーロン力は自然界の四つの力(基本相互作用)の一つ、言わば力の四天王。しかも最弱ではない。もはや神が製造現場を否定してきているレベル。

これに対処する方法は2つある。ホコリを無くすこと、静電気を無くすこと。このうち静電気を無くす、つまり除電するために使われるのがイオナイザー(除電器)なのだ。

イオナイザーの例

このイオナイザーだが様々なメーカーから出ているが、効果がなく、すぐに壊れてしまうものが多いらしい。少なくともTRINCが除電器の開発を始めた頃はそうだったらしい。何しろ本の中でこんなセリフが出てくる。

なにしろ除電器は、効果があるというだけで売りになる妙な商品ですからね。

お守りやパワーストーンみたいな扱いだ。それでも除電のためにと使わざるを得ない。そんなところに効果のあるイオナイザーを作って殴りこみをかけたのがこのTRINCという会社なわけだ。そして繰り出したパンチがトヨタにクリーンヒット。その結果この本の目次には「トヨタ」という単語が14個も登場する。トヨタすごい。

敵は風の流法

この本では既存の静電気・ホコリ対策をdisることが多い。もちろん根拠があって言っているわけで、それだけ今まで間違った知識の元に静電気対策が行われていたわけだ。中でもクリーンベンチの話は面白いので紹介する。良かれと思ってやったことが逆に状況を悪化させてしまっているという話だ。金と手間をかけてやっていたのに悪くなるなんてかわいそうだが、知らないのが悪い。情弱は罪。

クリーンベンチの例

こういったクリーンベンチ内にはイオンを飛ばすブロアー型イオナイザーが置かれることが多い。手元のワークを除電するためだ。クリーンベンチでホコリの少ない環境を用意し、漂う僅かなホコリもイオナイザーによって付着させない。完璧な作戦だ。不可能という点に目をつぶれば。

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ブロアー型イオナイザーの例

ブロアー型イオナイザーの何が行けないのか。それはワークに異物を吹き付けてしまうという点だ。本来クリーンベンチ内は天井に設置されたHEPAフィルターを通じてきれいな空気が作業者の方へ吹いてくる。これによってクリーンベンチ内から外へ向けて気流ができ、ワークや作業者に付着したホコリがクリーンベンチ外へ押し流される構造となっている。しかし、ブロアー型イオナイザーを設置するとどうなるか。HEPAフィルターから供給される空気よりイオナイザーが流す空気の方が多い。その結果、「この風のイオナイザーはまるで換気扇よ!除電をするどころか逆に周りのホコリをすいこんでいくぜッ!」となってしまい、作業者からホコリを回収し、ワークに向けて発射してしまうわけだ。

この問題に対してTRINCの解答は実にシンプルだ。イオナイザーで風を使わない。そうすれば気流が乱れることはなく、クリーンベンチ本来の効果が得られる。風を使わずにイオンをワークへと飛ばす方法として、TRINCはイオンでイオンを飛ばすことを選択した。プラスとマイナスのイオンをそれぞれ別のところで発生させ、クーロンの斥力でイオンを飛ばしていく。この除電方法は周知のものでありTRINCオリジナルではないらしいが、世間はこの方法の価値を理解していなかったらしい。TRINCは原理原則に基づいた結果、うまいことやったようだ。

上記の内容について俺の文では何を言っているのかわからない人はこのTRINCのページを見ろ。

委員会は大抵ろくでもない

読んでいて笑った後に呆れてしまったのは静電気委員会の話。大抵の場合において、「◯◯委員」というものはろくでもないものが多い。300人委員会とか希望相互扶助委員会とか。この静電気委員会も邪魔な存在らしい。少なくともTRINCにとっては。この本で一番文句というか恨みがこもっている。というかそれらだけで構成されている感じ。

ざっくり言うと昔から静電気と戦ってきた企業には静電気対策の専門家集団がいて、それが静電気委員会なのだ。で、その専門家たちはTRINCから見ると効果がいまひとつな対策ばかりをやっている。そしてより効果的なTRINC製品を説明しても聞く耳を持たない。お前らが入る余地はないと言わんばかりに。だから静電気委員会についてボロクソに書く。俺は別に静電気委員会に恨みはないけどダメだこいつらと思ってしまう。新しいことを評価もせずに否定して、自分たちが製造現場を支えているのだと誇りだけは持っている。誇りはいいからホコリをどうにかしろよ。一方でこういうのは仕方のない事かもしれないとも書かれている。TRINC製品を導入するということは既存の対策を否定するということ、つまり今まで自分達がやっていたことは無駄=静電気委員会は無駄ということになるからだと。

この手の話を聞くたびに思うのは、今までの行為を否定することになってもより優れた方法を自分から提供できるなら、そのほうが自分の株をあげることになるのではないかと。例えば自分が否定したとしても他の人が試して導入の提案をしてしまった場合、自分は本当の価値に気が付かなかったマヌケということになってしまう。逆に自分がより優れた方法を見つけ出しましたという形にして導入すれば、それは自分の成果にできる。ならばより優れた新しい方法を見つけたのなら一刻も早く自分から提案するのが賢い選択だ。ただ、新しいことはスイッチングコストがかかるから気持ちはよく分かる。逆に言えば自分はこうならないように気をつけたい。

その他

TRINC製品の名前は空目しやすいのが多い。「バートリンク」とか最初見たとき精神を加速させるのかと思った。そもそも「トリンク」という名前が色々と連想させやすい気がする。文句を言うつもりはないが。

今回は除電を中心に記事を書いたけど、この本はあるベンチャー企業の成功物語なわけだが、その視点から読んでもそれなりに面白い。経営に関するところとか。ただ、【企業事例】はちょっとくどい。

楽天のアフィリエイトをベタベタ貼ったけどあれは図のかわり。さすがに売れるとは思わない。売れないだろーなー(チラッ


こんな人におすすめ

  • ホコリを無くしたい人
  • 静電気でメモリを壊したくない人
  • ビリビリしている人

フィギュアってホコリが溜まりやすいよね