本しゃぶり

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けものフレンズで失ったIQはこの本で取り戻せ

アルジャーノンに花束を。
フレンズには書物を。

今こそ知の高みを目指すのだ。

『けものフレンズ』3話より

深刻なフレンズ化

2017年冬アニメの中で『けものフレンズ』がすごい。最初はその作風についていけず、開始2分で切り捨てた人も多かった。しかしその価値はしだいに認められ、覇権であると口にする人が増えている。その結果が如実に現われているのがニコ生のアンケートだ。

価値が認められるのは喜ばしいが、一方で懸念すべき事態が進行している。それは、視聴者の知能低下である。通称「フレンズ化」と呼ばれるこの症候群は『けものフレンズ』にハマった人が発症する。主な症状として知能が《コツメカワウソ / Small-clawed otter》(ネコ目イタチ科ツメナシカワウソ属)と同等にまで低下し、発言が「すごーい!」「たのしー!」などで占められるのが特徴だ。詳細は下記レポートを読んでもらいたい。

俺の影響はわずかながらとはいえ、布教した一人として責任を感じなくもない。そこで、フレンズ化した者達の知能および語彙力を取り戻すべく、処方箋として本を紹介することにした。やはり語彙を増やすには読書が一番だ。もちろん紹介する本はどれも『けものフレンズ』に関係のある内容となっている。獣であるフレンズでさえも図書館に行くのだ。人類なら本を読め。

動物絵本をめぐる冒険

『けものフレンズ』は最近のアニメ、特に深夜アニメには見られない構成となっている。人間の子供である主人公が、擬人化された動物たちと出会い、交流を深めながら冒険していく。このような作品を視聴履歴から探そうとしてもなかなか見つからず、説明に苦労しているオタクを多く見かけた。

だが、視点を変えてみれば『けものフレンズ』のような作品が多いジャンルが存在することに気がつく。それは絵本の世界だ。絵本には人間の子供と動物が交流する話が数多くある。そこでこの本が物語の構造を理解するのに役立つ。

その名の通り、動物絵本の分析・解説が書かれた本である。動物絵本がどのように成り立っているのか、ラスコーの壁画から進化論に至るまで、様々な文化的・歴史的背景から説明が展開されていく。動物絵本の内容は、その民族の動物観が色濃く出るものであり、その民族の宗教生活様式によって異なるのだと理解できる。

これを読むと、動物が人間に変身して対等な立場で交流する『けものフレンズ』が実に日本らしい作品であると気がつく。動物を下僕とし、人間との間に明確な線を引く聖書=西洋の文化ではまず無い展開だ。

『けものフレンズ』3話より

この本によれば、動物絵本とは「動物-人間学」を子供に教えるものである。人間と動物を対比させることで、その類似性と差異性を明らかにし、そこから「人間とは何か」を学ぶのだ。また、絵本というメディアは、物語の場面展開にともなう動的な存在の絵と、音読されることを前提とした聴覚に訴えかける文章によって構成される。このことから『けものフレンズ』は動物絵本を引き継ぐものであると言えるだろう。

人体六〇〇万年史

人間とは何かを学ぶ、と言ったらこの本は外せない。人間の身体的特徴を知り、運動機能の点で他の動物に対する優位性を知るのだ。

この本は人体がどのように進化してきたのか、その成り立ちを《サヘラントロプス・チャデンシス / Sahelanthropus tchadensis》(サル目ヒト科ヒト属)にまで遡って説明していく。特に知っておくべきは人間の持久力についてだろう。『BORN TO RUN』で有名になった、獲物が倒れるまで追いかける持久狩猟。何を隠そう、その提案者の一人が著者のダニエルEリーバーマンであり、この本ではそれについて解説している。これが『けものフレンズ』でどう描かれているかは、前の記事で説明したとおりだ。

ところで、人類史の本というと、今なら「けものフレンズ考察班」概況でも取り上げられていた『サピエンス全史』を思い浮かべる人もいるだろう。

とりあえず上巻を読んでみたが、『けものフレンズ』を語るにはまだ早い内容だと言える。その名の通り《ホモ・サピエンス / Homo sapiens》(サル目ヒト科ヒト属)についての本であり、他の人類との違いがメインだ。これが考察に役立つのは、この先カバンちゃんがフレンズ達を統率・文明化し、黒王と呼ばれるようになった時である。

2017/02/11追記

統一への道はまだまだ先と予想していたが、6話でヘラジカとライオンの部族抗争が描かれると判明した。フレンズ達の文明化はこちらの予想以上のスピードで進んでいる。もう『サピエンス全史』を読んでおいたほうがいいかもしれない。

動物園の文化史―ひとと動物の5000年

こんどは舞台設定の方に目を向けてみよう。『けものフレンズ』はジャパリパークという架空の巨大な動物園が舞台となっている。そこでジャパリパークが動物園としてどのような位置づけにあるのか、それを知るならこの本だ。

この本は動物園の歴史、特に西洋の動物園の歴史を書いている。狩猟採集時代を振り返るところから始まり、古代メソポタミアから中世ヨーロッパの動物コレクション、近世ヨーロッパのメナジェリー、そして近代・現代の動物園と話を展開していく。そして、その歴史とは支配の歴史であったということが見えてくる。権力者による民衆と自然の支配。古代より動物園はその象徴だった。それは自然を征服した証であり、野生動物を支配下に置くことで民衆に王の偉大さを思い知らせようとしたのである。

この基本的な構図は時代が進み、文明が移り変わっても同じであった。例によって西洋では聖書の影響が強いため、動物を集めて管理するというのは、神から与えられた使命でもあったからだ。しかしその流れも近代に入って変化が始まる。進化論が人間と動物の垣根を破壊し、自然保護運動によって動物の権利を意識し始める。現代においては、動物を対等な存在とまではいかないが、尊重すべきという段階にまでは来ている。

そういう観点から『けものフレンズ』を見ると、ジャパリパークが放棄されたことで、ようやく人間とフレンズは対等になったのだと言える。

『けものフレンズ』4話より

これはソシャゲ勢とアニメ勢が自らをどう呼称しているかで見えてくる。ソシャゲからの人は自らを「ジャパリパーカー」と呼ぶことが多い*1。あくまでも自分はプレイヤーであり、フレンズとは別の存在という意識が見える。一方アニメからの人は自らを「フレンズ」と呼ぶ。もはや人間であろうしていない。むしろ獣の方へ自ら歩み寄っているのだ。支配の象徴の崩壊から生まれた対等な世界。アニメ『けものフレンズ』はまさしく動物園の行き着く先を描いていると言えるだろう。

この世界が消えたあとの科学文明のつくりかた

パーク崩壊後という世界。『けものフレンズ』を語る上でポストアポカリプス要素は外せない。なのでそれにまつわる本を紹介する。これは今回紹介する中でカバンちゃんに一番読んでもらいたい本だ。

この本はポストアポカリプスの世界において、文明を復興するための手引書である。1年前に『このすば』の記事を書いた時に教えてもらった。

異世界へ転生する前に読んでおくべき5冊 - 本しゃぶり

「この世界が消えたあとの科学文明のつくりかた」も入れよう。

2016/02/22 10:51

確かにこの本は異世界転生時にも役立つが、そのシチュエーションでは真価を発揮できない。なぜならば文明の遺産がまだ残っていることを前提として書かれているからだ。つまりこういう状況だ。

『けものフレンズ』2話より

この本があれば朽ちゆく施設も資源の山に見えてくる。いきなり高度な文明社会を構築するのは難しいが、それでも進むべき方向が分かるというのは大事だ。発明王エジソンの「天才は1%のひらめきと99%の汗」という名言。この本はその「1%」を手に入れることで、最短ルートで文明を発展させようというものである。

書いてある内容は生活に直結しているものが多く、衣食住に始まり電気工学や化学の知識も含まれている。各分野については本当に初歩的なところから、例えば建築なら粘土を活用するところからスタートするので、カバンちゃんのような素人でも活用できるはずだ。特に公衆衛生の内容はカバンちゃんに読んでおいてもらいたい。人獣共通感染症の存在を知っていたら、こんな恐ろしいことはしなかっただろう*2

『けものフレンズ』1話より

特に世界が滅びる予定が無くとも、この本は身の回りで使われている技術の基本部分を解説してくれるので、読む価値はある。技術が発展した結果、素人には魔法にしか思えないようなものでも、その基本原理はシンプルであったりする。そういった背景・歴史を学べるのがよい。

オフィシャルガイドブック

あまりに知能の低下が著しく、上で紹介した本は難易度が高い。あるいは、より高純度なけものフレンズ分を欲する。そんな人にはこれしかない。

わずか3780円(税込み)でアニメを永久的に楽しむことができる。まずはリハビリとしてスタッフインタビューやCVたちの”迷”解説から頭脳を慣らしていこう。

おわりに

『けものフレンズ』は頭を空っぽにして見ても楽しい。それを否定するつもりはない。しかしこの作品は、知識を持っているとより楽しめるというのもまた事実である。手前味噌になってしまうが、一度見るのを止めた人が俺の記事を読み、視聴を再開してハマっているのを何度か見かけた。知識があることで物事の見え方は変わるのである。

今回紹介した以外にも、『けものフレンズ』に関連する本は多くある。例えばSFは様々なタイトルを目にした。これを機会に興味のある分野の本に手を伸ばしてはどうだろうか。

けものフレンズの記事

似たような記事

*1:他には「けもフレおじさん」「けもフレ勢」などを見かけた。

*2:実は感染症の問題も、サンドスターの力で解決している気がする。