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【天使のはね】小学生をめぐる終わりなき戦い【フィットちゃん】

「ランドセル」に相対する二つの流派あり。
一つ、セイバンのランドセル「天使のはね」
一つ、ハシモトのランドセル「フィットちゃん」

長きに渡る戦いの軌跡がここにある。

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終わりなき戦い

「ニチアサ」の根幹には戦いがある。『スーパー戦隊』『仮面ライダー』『プリキュア』は言うまでもなく、今は無き6時30分枠*1や『ヘボット!』で終わる7時枠*2についてもバトル要素のある作品が多い。その戦いは深夜アニメ基準からすると長く感じるが、それでも大抵は1年でケリがつく*3

そんなニチアサで、長年に渡って終わりなき戦いを続けている者達がいる。
天使のはね」と「フィットちゃん」である。

この記事ではニチアサ民が知っておくべきランドセルの基礎知識を紹介する。

天使のはね

そもそも「天使のはね」とは何か知っているだろうか。これはセイバンが開発したランドセルのパーツである。実用新案登録第3106687号を見てみよう。

従来のランドセルの取付具は、金属板を二つ折りにした連結体に略三角形状の連結環を取り付け、そこに肩掛けベルトを取り付けるという構造になっていた。

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実登3106687 図10、11より

このような構造のランドセルを背負うと、連結環でベルトが使用者側の方へ回動し、ランドセルが背中から離れて後方へと傾く。

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実登3106687 図12より

こうなるとランドセルが重く感じてしまう。さらにランドセル下端部が背中に当たることで痛みを感じるといった、使用感における課題もある。

そこでセイバンは、ランドセルの背当て部が背中に密着し、安定して使用感の良い構造を開発した。

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実登3106687 図5、2より

この図の “5” が「天使のはね」である。弾性力のある合成樹脂板で作られているこのパーツは、肩掛けベルトを立ち上がらせた状態にする。しかも弾性力があるため、肩掛けベルトが使用者の肩に添うように曲がる。そうすることでランドセルは使用者の背中に密着する。

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実登3106687 図9より

これが「天使のはね」の構造およびメカニズムである。これによってセイバン知名度を上げ、今ではランドセルのシェアの約半分を占める*4ことになった。今のCMでは「天使のはね」の解説が無いため、最近ニチアサを見始めた人は知らなかったのではないだろうか。昔のCMだとパーツであることや背中に密着するということがわかったのだが。

ちなみにランドセル関係のサイトを見ていると「『天使のはね』はセイバンの特許です」と書かれていることが度々あるが、それはちょっと違うようだ。正確に言えば「天使のはね」は実用新案である。最初は特許として出したようだが、特開2003-339419や特開2004-081800では審査請求が未請求となっており、最終的に特願2004-211182の変更という形で実用新案になっている。

フィットちゃん

では対する「フィットちゃん」はどうなのか。「これについては知ってる。肩ベルトが左右べつべつに動くのが特徴だろ」CMを見ている人ならこう言うだろう。残念、これでは50点だ。ハシモトのサイトを見てみると「フィットちゃん背カン」は特許第3524547号と書いてある*5。だが肩ベルトが左右別々に動く構造を権利化したのはこれより前の実用新案登録第3055205号だ。出願日は1998年6月22日とかなり昔である。

では特許第3524547号は何が変わったのか。新旧の取付具の構造を比較してみよう。

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旧型 実登3055205 図1(ロ)より


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新型 特開2004-237072 図1より

取付環の形状が変わり、その肩ベルトの回動が規制されるようになったのである。

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特開2004-237072 図2より

上の図では左側が使用者側となるのだが、この角度α°は25°以下となる。こうなることで肩ベルトが立ち上がり、ランドセルが背中にフィットするようになるのだ。これが「フィットちゃん背カン」である。

ところで「天使のはね」が発売されたのはいつだったか? 2003年だ。「フィットちゃん背カン」が出願されたのは? 2003年7月だ。もう一つ質問…… やめておこう。

何を求めるのか

ここまで読んだところで「天使のはね」と「フィットちゃん」どちらの方が優れていると思うだろうか。他にランドセルの知識が無いのなら、肩ベルトが左右別々に動く分だけ「フィットちゃん」に軍配が上がるように思える。だがランドセルはそんなに単純なものではない。

「天使のはね」こと実用新案登録第3106687号にはもう一つポイントがある。それは肩ベルトが左右連動するということだ。

「フィットちゃん」の言う従来の背カンのダメな点は、左右の取付具が一つのバネで制御されている、というところである。これにより片側のアームが開こうとすると、反対側のアームは閉じる方向へより強く引っ張られてしまうのだ。

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実登3055205 図5より


対して「天使のはね」の背カンはバネが二つあり、アーム同士が内部で噛み合う構造となっている。

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実登3106687 図7より

アーム同士が噛み合うことで、片側のアームが開けば反対側も同じように開く仕組みになっている。セイバン曰く、同じ角度で開閉することでいつも重心が背中の中心にあり、安定した姿勢を保つことができるとのこと。俺としてはこの点をCMでアピールして欲しい。それも「フィットちゃん」の前後で。ちなみにこの機能は1990年の「フリフリ」からなのでハシモトの「左右別々に動く背カン」より古い。

こうなると背カンに関してはどちらも似たようなものである。耐久性、カラバリ、反射材など他のアピールポイントでも同様だ。細かいところでは片方にしか無いものもあるが、基本的な要素について大した違いは無いのが現状だ。しかしCMの時間は限られているため、アピールする点は絞る必要がある。なのでそこで差別化が行われる。

ここで今の「天使のはね」のCMをもう一度見てみよう。

背負いやすさ耐久性をアピールしている。30秒しか無いため根拠については語らない。そして今年になって耐久性をさらに推すようになった。

新たなる天使を追加で召喚し、3つの観点から長く使えることをアピールしている。なぜブランド名でもある「天使のはね」よりも耐久性を宣伝するのか。おそらく親へのアピールだと思われる。

ベネッセが2016年にとったアンケートによると、ランドセルを選ぶ時に重視するポイントは「色」「耐久性」「価格」の順である*6。また別のサイトでは「もう一度ランドセルを買うとしたら何を重視するか」というアンケートで1位が「丈夫さ」となっている*7。このように親は耐久性を求めており、それに対してのアピールと考えるべきだろう。

ちなみに天使がアピールしている「対外部応力」と「対汚れ」だが「フィットちゃん」にもほとんど同じ機能がある*8*9

一方「フィットちゃん」のCMはこれだ。

伝統の「肩ベルトが左右別々に動く」と「安ピカ」で別のCMを用意している。「安ピカ」のCMでは全部で30種類あると、機能だけでなく色・デザインもアピールしている。しかも男女別のCMだ。本日のニチアサで「フィットちゃん」のCMは『スーパー戦隊』『仮面ライダー』『プリキュア』で各1回ずつ流れたが、これらの番組が対象とする性別は完全に分かれている*10。そのため子供の性別に合わせて用意したのだろう。

このことから「フィットちゃん」は子供へアピールしていると思われる。これからランドセルを買う幼児の場合、一番気にするのは色やデザインだ。そして子供の意見はそれなりに重視される。ランドセル専門店の「ふくふくらんど」では祖父母が高級品を買おうとしても、子供が安くてかわいいものを求めるのなら、子供の意見を優先するように勧めている*11。ゆえに「フィットちゃん」は子供から落とそうとしているのだろう。

なお「安ピカ」は60m手前から反射材で視認できるとアピールしているが、「天使のはね」は100m手前から視認できるとうたっている*12

このように同じ機能を持っても、ターゲットによってアピールするポイントは変わるのである。

終わりに

以上がニチアサを見る上で知っておきたいランドセルの基礎知識である。ニチアサは何年も見続けるのが基本だ。そこでCMにも向けておくと、年単位での変化を楽しむことができる。しかしそのためには少しばかりの知識が必要となる。諸君らには日々高みを目指して学び、変わってもらいたい。

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