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【書評】王の資質とは脅すこと / “海賊の経済学 ―見えざるフックの秘密”

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きっかけ

予想通りにONE PIECEだ。
集英社コミックカレンダー2014 ONE PIECE(壁掛け型)

まあ、世の中に海賊ネタの作品はいろいろあるけど、やっぱり今の日本人ならONE PIECEを思い浮かべる人が多いだろう。もちろん俺もその一人だ。あれだけの人気漫画だと当然ながらアンチも多い。そしてずっと言われている批判にこんなのがある。
「ONE PIECEは本当の海賊じゃあない」
麦わらの一味の行動は海賊らしくないというのだ。アレは別に尾田栄一郎もわかって描いていることなので別にいいが、逆に本当の海賊ってどんなのだろうとは前から思っていた。

この本は海賊の行動について、経済学を通すことで説明出来ると言う。掟も髑髏も残虐性も全て合理的な理由があるということだ。海賊の行動だけでなく理由まで分かるというので読んでみた。


内容とか

最初に書いておくが、この本における「海賊」とは17世紀から18世紀にかけてのもの、特に大海賊時代と呼ばれる頃のカリブの海賊だ。フィクションで言えば、ONE PIECEやパイレーツ・オブ・カビリアンなどが当てはまる。(もちろん元ネタという意味でだが。)間違っても現代のソマリア沖の連中みたいなの、BLACK LAGOONや範馬刃牙のゲバルなどは対象外なのでよろしく。

覇気は海賊にふさわしい

この本を読んでわかったこと、それは海賊は相手を『脅す』のが基本戦略だということだ。『戦う』でも『殺す』でもない、『脅す』だ。残虐な行為に手を染めるのも、ドクロの旗を掲げるのも全ては脅すためなのだ。海賊は対象とした船を捕まえたらまず脅す。「こちらが要求するものを全てよこせ、さもなくば皆殺しだ」といった感じに。そして獲物が無抵抗に差し出すのであれば、船員に手出しはしない。だが、非協力的だった場合は別だ。海賊旗に描かれるドクロが示す通り、その武力で殺し、拷問し、積み荷を略奪する。これが海賊のやりかただそうだ。

従って海賊にとっての理想的な仕事の流れとは、脅したら要求が通るというものだ。この戦わずして相手を屈服させるというのを知った時、俺はONE PIECEの『覇気』を思い出した。

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覇王色の覇気 / [asin:4088743148:title]より

覇気には種類があるけど俺が言いたいのは『覇王色の覇気』のことな。説明はWikipediaを見てもらうとして、登場してから賛否両論あるこの能力は、トップクラスの海賊が持つ能力としてふさわしいと言える。なぜなら上で説明したように海賊の理想は脅すだけで要求が通るものであり、有名な海賊ほどこれの成功率は高くなる。覇王色の覇気とはこの、恐怖を知らしめる → 脅す → 要求が通るというのを一瞬に縮めたものだと言えるからだ。覇王色の覇気は強者には通用しないが、これも当然だろう。戦える者に対して脅しは通用しない。海賊漫画としてなかなか良く出来ている能力だと思う。

狙うは利益の最大化

ではなぜ海賊は脅すのか。それはコストを抑え、利益を最大化させるためだという。あたりまえのことだが、同じ収入を得られるならコストが低いほうが得だ。海賊にとってのコストは何か。それはターゲットの船に反撃され、傷つくことだ。基本的に海賊船は商船より戦闘に特化しているため、戦えば勝利する。だが戦ってしまえば海賊だってダメージを受けるし、戦力も低下する。こうなっては次の獲物を狙う時に支障が出る。略奪を生業としている以上、戦力が低下してはいけないのだ。

だから海賊はまず脅すことで無傷のまま収入を得ようとする。そして無抵抗の船員に手出しをしないのも、次の船にも無抵抗でいてもらうためだ。海賊は抵抗しなければやさしいという評判が広まれば、それに従うのが商船にとって得策となる。船のオーナーにとっては海賊を増長させるだけなので気に喰わないかもしれないが、実際に海賊と接する船員にとっては自分の安全が第一だ。こうなれば海賊に抵抗することはしないだろう。誰だってそーする、おれもそーする。

正論よりコスト

脅すことに全力を尽くしていた海賊だったが、絶頂期を迎えてからわずか5年程度で姿を消してしまった。別に商船がいなくなったわけではない。商船は今までどおり航海を続けていたし、襲えば以前と変わらない収入を得られた。海賊が消えたのはコストが増加したためだ。ようするに海賊行為が割りにあわなくなったのだ。

戦争が収まった一方で、海賊が増えた事により海上で最も厄介なのは海賊となった。そこでイギリスを始めとした海軍は海賊への反撃に全力を尽くすことにした。これによって海賊は以前よりも拿捕されやすくなり、そしてそれは縛り首の可能性が増えることに繋がる。収入は以前と変わらないのにコストだけが上昇したので、海賊行為は利益が少ないものとなった。もともと海賊をするのは悪いことをしたいからではなく、まじめに働くより儲かるからだ。こうなってしまえば海賊である理由はない。こうして海賊は消えたのだ。

ここから言えることは、悪を止めるのに有効なのは正論ではなくコストだということだ。善人だろうと悪人だろうと、行動するかどうかはそのコストで決める。同じ行為をする人間としない人間がいるのは、同じ行為に対するコストが人によって違うからだ。ついでに書いておくと昨日書いたこの記事。

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読んだ。この手のことには言っておくことがある。16歳の女の子が語った「勉強することの意味」 - いつか電池がきれるまで『○に近い△を生きる』(鎌田實著/ポプラ新...

嬉しい事にこれには賛成と反対の両方のコメントが来たが、それらを読んだ今でも俺の基本的な考えは変わらない。悪いことを無くすには悪いことのコストを上げるしかない。


まとめ

ルフィみたいなコスト度外視で動く奴はマジに厄介。


こんな人におすすめ

  • 海賊が好きな人
  • 規則を作る人
  • 利益が欲しい人

ONE PIECEの商品はなんでもありだな
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