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マキアヴェッリの風俗レポ 1509

500年以上も読み続けられている風俗レポを紹介しよう。
舞台はルネサンス期イタリアのヴェローナ。
著者は『君主論』のニコロ・マキアヴェッリである。

風俗レポこそ最強のコンテンツである

俺がブログで一番参考にしているところの最新記事がこれであった。
http://wasasula.hatenablog.com/entry/2016/06/26/231049

これが引き寄せの法則か*1と読んで感心していたのだが、その内容にふさわしいと言うべきか、Twitterでそれなりに拡散されたようである。そして後日、彼はこうツイートしていた。

https://twitter.com/wasasula/status/748438884757827584

全くの同意見だ。それどころか俺は常々こう思っている。ネットにおいて、風俗レポこそ最強のコンテンツである、と。もちろんそれよりもPVを集める記事があることは百も承知だ。しかし、それほどの特技もアイデアも持たない一般人が文章で受けるなら、風俗レポほど成功が約束されているジャンルは無い。小飼弾が著書で人気作家になりたければ伝記を書け*2と言っていたが、ネットで人気になりたければ風俗レポを書け、と俺は言わせてもらう。

この説を実感したければTogetterで「風俗レポ」と検索してみればよい。例えばこちらの風俗レポ。

執筆時点で 548,516 viewもある。俺の記事で一番読まれたのは聖書のやつ*3だが、それでも累計で20万に達しない。そこまでのアクセスが無い他のレポについても、とりあえず目を通してみるといい。素人が垂れ流すつぶやきの寄せ集めだというのに、ちゃんとストーリーが出来ている。風俗を語る時、人は物語を紡ぐのだ。

1509年12月8日ヴェローナにて

この後は満を持して俺の風俗レポを書く、というのが普通の流れだろう。しかし残念ながら俺は遺伝子の囁きに耳を貸さないタイプなので、これまでもこれからも行くことはない。なので代わりに彼の風俗レポを紹介する。

Santi di Tito - Niccolo Machiavelli's portrait.jpg
By Santi di Tito - Cropped and enhanced from a book cover found on Google Images., パブリック・ドメイン, https://commons.wikimedia.org/w/index.php?curid=934421

タイトルにも冒頭にも書いたとおり、ニッコロ・マキアヴェッリである。マキアヴェッリというと『君主論』が有名であり、「人に損害を与えるときは、恐怖のあまり復讐できないような損害でなければならない」などと書くものだから、人の情というものが無い冷酷な人間と誤解されることがある。なにせ『君主論』は禁書目録の第1回から記載され続けたほどなので、仕方ないとも言えよう。

そんなマキアヴェッリであるが、彼は『君主論』や『ディスコルシ』のような政治・軍事だけの人間ではない。例えば喜劇『マンドラゴラ』がその筆頭として挙げられ、生前はむしろこっちの方で有名だった。

だが、ネット向けのコンテンツということならば、やはりここはマキアヴェッリ風俗レポを推したい。とは言ってもこれは書籍ではなく、友人に宛てた手紙である。1509年12月8日ヴェローナから投函されたその手紙は、RTにRTをされ、今ならネットで読む事ができる。イタリア語が分かる人はここの#170を見ればいい。

Niccolò Machiavelli - lettere ante res perditas (a cura di Giuseppe Bonghi)

このブログを読む多くの人はイタリア語が分からないと思うので、『我が友マキアヴェッリ』を引用しつつ紹介しよう。だが先に言っておく。この風俗レポはココアお姉ちゃんが出てくるタイプではない。こっちのタイプだ。

http://wasasula.hatenablog.com/entry/2015/06/29/231703

時は1509年、カンブレー同盟戦争でヴェネツィアが列強の全てを敵に回していた頃、マキアヴェッリは公務でヴェローナに来ていた。

そんなある日のこと、シャツを洗ってくれる老婆から「家に寄らないか」と誘われた。「新しいワイシャツを見せるから良かったら買わないか」と。そこでマキアヴェッリはホイホイ付いて行く。

老婆の家に入ると、暗がりに女が一人縮こまっている。老婆は言った。「これがそのワイシャツですよ。後払いでいいから試してみな」そうして自分は外へ出て扉を閉め、暗闇の中にはマキアヴェッリと女の二人が取り残された。

で、つまり、結局のところ一気にやった。太ももは張りがなかったし、性器はじっとりとぬれていて、吐く息は臭かったんだが、なにはともあれ、わたしは絶望的な欲望に駆られていたのだ。あっという間に行ってしまった。
わが友マキアヴェッリ―フィレンツェ存亡 (塩野七生ルネサンス著作集)

そして満足したマキアヴェッリは女の顔が見たくなり、カンテラに火を入れた。女の顔が暗闇に浮かび上がった。

ぼんやりした色合いかと思っていた前髪は真っ白で、頭のてっぺんときたらはげなのだ。そのはげの場所には、幾匹かのしらみが散歩しているのまで見える。髪の毛がこれほども少ないのに、それでも眉にまでつながっている。小さくてしわだらけのひたいの真中には火の輪があり、まるで、祭りの日に市場の円柱につながれる、烙印つきの動物のようだ。眼に向ってたれている眉の毛には、その一本一本にしらみの卵がくっついている。
眼は、一方が高くついていて、もう一方は低くついている。そのうえ、一つは大きく、他は小さいときている。またそのうえ、まつげの抜け落ちたまぶたの縁は、眼やにであふれんばかりだ。鼻は、しわだらけのひたいと境を接し、鼻の穴の一つは、いっぱいの鼻汁でふさがっている。唇ときては、ロレンツォ・デ・メディチの口そのものだ
わが友マキアヴェッリ―フィレンツェ存亡 (塩野七生ルネサンス著作集)

Lorenzo de' Medici-ritratto.jpg
By Girolamo Macchietti - 不明, パブリック・ドメイン, https://commons.wikimedia.org/w/index.php?curid=734123

ロレンツォ・デ・メディチ参考画像

これだけにはとどまらず、彼女の口にはヒゲが生え、そこから放たれる口臭はペストが逃げ出す臭さであり、マキアヴェッリは思わず吐いてしまったという。

しかし、このような目にあってもポジティブに捉えるのがマキアヴェッリという男である。この風俗レポは次のように〆られる。

きみは、神に感謝すべきだよ。愉しい経験をさらにつみ重ねさせてくれるのだから。そして、わたしも、神に感謝するね。ただ、わたしの感謝は、しようとしたってなかなかできるものでもないほどひどい経験を、させてくれたってことに対してなのだが。
わが友マキアヴェッリ―フィレンツェ存亡 (塩野七生ルネサンス著作集)

以上がルネサンス期に書かれた風俗レポである。これから風俗レポを書こうと考えているならば、ぜひ参考にしてもらいたい。諸君らに《力量 / Virtu》《幸運 / Fortuna》が備わっていれば素晴らしいレポが書けるだろう。

プロブロガー・マキアヴェッリ

ところで、俺はこのマキアヴェッリによる風俗レポを読んだ時、一つ確信したことがあった。マキアヴェッリはネット時代の今だからこそ、参考にすべき人物である、と。特にブロガーはマキアヴェッリを見習うべきである。なにせ彼の人生は以下の通りだ。

  • 書記官として各地に取材に行ってはレポートを書く
  • そのレポートがフィレンツェ政庁でバズる
  • チェーザレ・ボルジアのイタリア征服を実況
  • 風俗レポ
  • フィレンツェ政庁を辞めて*4フリーランスになる
  • まだフィレンツェで消耗しているの?
  • フランチェスコ・ヴェットーリとのリプライ合戦 (後にトゥギャられる)
  • 単著を出す
  • サロンに入って若者達に講義する

このように書くと、俺が恣意的にマキアヴェッリの人生を取り出しているのでは、と疑う人もいるかもしれない。そんな人がマキアヴェッリについて知ることが出来るように、俺が読んだマキアヴェッリ関連の本を紹介しよう。ぜひ自分の目で確かめてもらいたい。

[asin:4106465078:detail]

この記事を書く上で一番参考にした本。これを読むとマキアヴェッリが冷酷どころか愉快な人間に見えてくる。なお、読む時は『チェーザレ・ボルジアあるいは優雅なる冷酷』も用意しておくこと。


[asin:B00I7PNS6S:detail]

言わずと知れたマキアヴェッリの代表作で問題作。有名な割にコンパクトなので一気に読めるのがよい。この本から一つだけルールを学ぼうというのであれば、人から恨みは買わないようにする、といこと。なので人に対しては好遇するか叩き潰すかどちらかであるべき。


このブログで紹介するのは何度目か分からない。順番としては、まず『君主論』を読み、次にこれを読み、そしてもう一度『君主論』を読むのを薦める。


[asin:4480093524:detail]

これを読む前にロムルスからカエサルまでのローマの歴史を学んでおくこと。そうしないと登場キャラが分からずに挫折する。


最後に一つだけ言って終わりにしよう。

知性の訓練のためには、君主は歴史を読み、傑出した人物の行動を研究しなくてはならない。


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