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なぜARIAカンパニーにはマネージャーがいないのか

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水先案内店ARIAカンパニーにはマネージャーがいない。
なぜ分業にせず、プレイヤーだけの構成としているのか。

それは、最高の顧客体験を提供するためであった。

火星(アクア)の観光都市ネオ・ヴェネツィア名物である水先案内店。本記事では、その中でも特に珍しい会社であるARIAカンパニーに焦点を当て、あのような会社形態となっている理由を解き明かしていく。

プレーヤーによる経営

ARIAカンパニーは珍しい会社形態となっている。現役のウンディーネが経営を兼任し、マネジメント専門の役職が存在しないのである。小規模な水先案内店は他にもあるが、このような会社形態をとっているのは、ARIAカンパニーだけである*1

普通に考えたらウンディーネを接客に専念させるため、マネージャーを用意した方が望ましい。非合理であることが観光資源であるアクアにおいても、「効率」は会社経営において重要なファクターである。実際、水先案内業界最大手のオレンジぷらねっとは、ユニバーサルネットを用いた24時間予約受付を最初に導入し*2、その利便性を武器に短期間でトップに躍り出た。

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それなのになぜARIAカンパニーはアダム・スミスに喧嘩を売るがごとく分業を捨て、非効率経営を選択したのか。それは、顧客体験には上限が無いからである。

顧客体験が原動力

伝説の大妖精にしてARIAカンパニーの創業者である天地秋乃は、独立後に接客数を制限するようになった。姫屋在籍時には1日6組まで受け付けていたのに対し、ARIAカンパニー設立後は1日4組までとしたのである*3。おそらく彼女には数をこなすことによる限界が見えていたのだろう。

ゴンドラの公定料金は昼間だと30分80ユーロ (延長20分ごとに+40ユーロ) である*4。8時から19時まで休みなく効率的に働くことができれば1,760ユーロの売上となるが、これは現実的ではない。ゴンドラを漕ぐには体力を使うし、体を壊して休業すると売上は0になる。天地に必要だったのは、少ない労働量で大きく稼げる戦略だった。

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そこで天地は1グループごとのサービスを厚くし、客単価を上げることに注力した。数については体力や時間といった制限があるのに対し、サービス向上による顧客体験には上限が無い。そして体験を売上に繋げることができれば、収益も限界なく伸ばすことができる*5

また、優れた顧客体験は客単価を上げるだけでなく、リピーターと口コミによって次の顧客に繋がることも期待できる。独立したことで、大手のように広告や宣伝にお金と時間をかけることはできない。代わりに自分のファンを作り、彼らに無料で宣伝をしてもらうのである。

したがってARIAカンパニーの戦略は顧客体験が根幹にすえられた。優れた顧客体験を提供することから全てが始まり、高い収益性に繋がるのである。これを実現するには、自ら経営者となるのが最善の選択だった。

現場に権限

優れた顧客体験を提供する方法はマニュアル化できない。顧客が求めているものは一人一人異なるからである。その「求めているもの」を知ることができるのは、顧客と直接触れ合う現場の人間だけだ。

ところがウンディーネの多くは、顧客からの個別の要求に応えることができない。そのような権限が与えられていないからである。

例えば、お客の空腹に気がついた時、ウンディーネはどう振る舞うべきだろうか。お客に軽食を無償提供するなら、その料金は誰が出す? 食事をしたことによる延長時間分の料金は請求すべき? 会社の統一見解は? 現場に強い権限が与えられていないと、行動に繋げられないのである*6

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一方ARIAカンパニーでは、このようなことでウンディーネが頭を悩ませることは無い。責任は全て経営者である自分にあるからだ。そのため、現場で素早く判断を下し、状況に応じたサービスを提供することが可能である。これで「特別扱い」された顧客は他では受けられない体験に感動し、リピーターとなるのだ。

この現場の判断による優れた顧客体験の創造という戦略は、ARIAカンパニーをプレミアムな人気店へと押し上げた。あまりの人気に予約がとれず、わずかな可能性にかけて直接店に訪ねてくる人もいるくらいである。しかし、この戦略には一つ問題があった。それは、ウンディーネ個人の技量に依存するということである。

選ばれし後継者

ARIAカンパニー創業時、このことは課題ではなかった。なにせ会社ただ一人のウンディーネが伝説の大妖精である。接客技術はネオ・ヴェネツィア随一なのだから当然と言えよう。

しかし天地がいつまでも現役で働けるわけではない。ARIAカンパニーを持続可能な会社にするためには、後継者を用意する必要がある。天地は大妖精である自分に匹敵するほどの技能を持ち、企業文化を継承するウンディーネを育てなくてはいけなかった。

ARIAカンパニーが創業時からの小規模主義を選択しているのはこのためである。才能を見極め、ARIAカンパニーのウンディーネとしてふさわしい技能を叩き込む。特に接客技術。顧客には他社でなく、「ARIAカンパニーでなければいけない」となる体験を提供できなくてはいけない。このような教育は他人任せにはできず、自ら時間をかけて行うしかない。扱える人数が限られるのは当然の成り行きだった。

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努力のかいあって、天地はそのキャリアの最後にアリシア・フローレンスという後継者を作り上げた。ここで今をときめく白き妖精(スノーホワイト)について語る必要は無いだろう。

地球(マンホーム)歴2303年現在、ARIAカンパニーの社員数は2名である。師匠が一人に弟子が一人。「二人の掟」とでも言うべきこの形態は、ARIAカンパニーの伝統となりつつある。

「弟子」である水無灯里は、入社前からメルマガを精力的に発行し、居住者に対してもネオ・ヴェネツィアの見どころを売り込むほどのセールスアニマルだ。ARIAカンパニーの新たなる後継者として申し分ない存在と言えるだろう。

終わりに

ヴェネツィアの始まりは、異民族の侵入を恐れた人々がラグーナの島に安全を求めてやってきたのが始まりである。資源が無いため交易に力を入れたことで、様々な文化が混じり合った。あの都市の形態がこうもユニークなのは、合理的な理由と経緯があってのことだ。

企業もまた同じである。水先案内店ARIAカンパニーの形態は、優れた顧客体験を創り出すことに注力した結果なのである。

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参考書籍

ARIAカンパニーを知るための一次資料。


水先案内店業界を知るために必須。


本記事の本当の意味での元ネタ。主に顧客体験のくだり。ザッポスにはマネージャーいるけど。

フィクションの経営記事

*1:月刊ウンディーネ [マンホーム版] 2302年13号

*2:月刊ウンディーネ [マンホーム版] 2302年18号

*3:月刊ウンディーネ [マンホーム版] 2302年13号

*4:本記事では分かりやすいようにマンホームの通貨価値に換算している。

*5:もちろん収益にも顧客の懐事情という限界はある。しかしマンホームからアクアまで観光に来る人々は富裕層が多い上、1泊5万ユーロするホテルに滞在するような超富裕層をターゲットにすれば、ウンディーネの売上としては上限が無いと言っても過言ではない。

*6:とはいえ立場が強ければ、ウンディーネでもかなりの裁量を持つことはできる。姫屋のエースである晃・E・フェラーリが客いじりを得意とする。それができるのは彼女の接客技術が優れているのもあるが、三大妖精という立場がそれを可能にしているのだ。