本しゃぶり

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2015年に読んだ中からおすすめの10冊を紹介する

12月ということなので、去年に引き続き今年もやる。

まだちょっと早い気もするが、現時点で120冊以上は読んだので、すでに去年より多いから良しとする。


アウグストゥス: ローマ帝国のはじまり

今年読んだ本を振り返るにまず選ぶならこれだろう。初代ローマ皇帝アウグストゥスの伝記である。この本は以前にも紹介している。だが一度取り上げたからといって、今回選ばない理由にはならない。

同じことの繰り返しになってしまうが、やはりこれを選んだ理由はアウグストゥスという主人公がキャラとして完璧だ、ということになる。アウグストゥスは偉大な人物であるし、政治に長けてたというのも間違いないのだけれども、最初からそうであったというわけではない。彼が共和制を帝政にゆっくりと変えていったのと同様に、彼自身もまた成長していったのである。言うなれば彼の人生は「友情・努力・勝利」を体現していたのだ。特に「友情」については男性女性に関わらず、人気の出そうな「設定」と言わざるをえない。塩野さんも「私をしばらくとりこにしそうで怖ろしい」なんて書いていたぐらいだし*1

奴隷のしつけ方

ローマの栄華を縁の下で支えていたのが奴隷である。この本は、ローマ貴族マルクスによって書かれた、という設定でケンブリッジ大の研究者が書いた本である。俺も以前、調子に乗ってローマ人視点で書くというのをやったことがあるけれども、やはり専門の研究者がやると説得力が違う、と思い知らされた。

この本はタイトルを見ただけで即ポチった記憶がある。絶対にブログ向きな本であるな、ということで。俺自身はこの本をメインに取り上げた記事を書くことは無かったけれども、他のところで取り上げられているのを何度か見かけた。やはり考えることは皆同じか。

さて、日本において奴隷というと、大航海時代以降の黒人奴隷をイメージする人が多いのではないかと思う。あるいはエジプトの石切り場で働かされたユダヤ人奴隷か。どちらにせよ異民族の集団を重労働に従事させる、というものになる。しかしながらローマの場合は少々異なる。ローマもそのような奴隷もいたが、その一方でホワイトカラーな仕事に従事していた奴隷も多くいる。東大教授が「ちょうどサラリーマンみたいな存在と考えてもいいんじゃないですか」*2と言ったほどだ。

そんなわけでこの本は奴隷をサラリーマン*3として読み替えることが十分にできる。もう少し正確に言えば「サラリーマンの部下」と読み替えてと。例えばいかにして奴隷のモチベーションを高めるか、なんて話は十分参考に出来ると思う。かと言って上司が部下の前でこの本を読むのはやめたほうがいいだろう。

なお、もう一つのよくある奴隷のイメージ像である性奴隷。そんなのを求めている人のためにもちゃんとマルクスはページを割いている。章のタイトルは「奴隷と性」。

ローマ世界の終焉──ローマ人の物語

ついにローマが滅びてしまった。もちろん西ローマが滅びたのは1500年前であるし、東ローマにしても560年前のことであることは知っている。しかしKindle版『ローマ人の物語』が完結したのは今年であるため、俺の中でローマ帝国が滅びたのは2015年なのである。ちなみにローマが誕生したのは2014年である。

俺がローマにハマるきっかけとなったこのシリーズもついに読破してしまった。ふとamazonの注文履歴を見てみると、この2年間で「ローマ」と一致するのが27冊、「カルタゴ」で3冊、「ガリア」が2冊だった*4。他にも関連本は買っているので、それなりに使ったと言えるだろう。

今更この有名な作品について解説することは無いと思うが、一つ言っておくとしたらこれ。めちゃくちゃ読みやすい。1巻を読んでいる途中から感じていたのだけれども、その後も歴史関係の本を読む度に思わされる。この本も塩野さんが書いていたらすんなり頭に入るのに、と。これが万人になのか俺に合っているだけなのかは不明だが、この読みやすさだけでも評価に値すると言える。

仁義なきキリスト教史

ローマが滅びてもキリスト教は滅ばず。寄生蜂のごとくローマ帝国の中より生まれ、ローマ帝国を乗っ取り、そしてローマ帝国滅亡後の現代も力を持つキリスト教。その歴史を知りたければこの本を読むべきだ。正しい詳しい知識を身に着けたいというならともかく、キリスト教の全体的な流れを知りたいというのであれば、この本は入門書として最適と言えよう。

この本は宗教を一つのヤクザの組として捉えている。つまり、大親分としてヤハウェ(神)がいて、その下に構成員である信徒がいる、という形に。例えばヘレニストについての説明はこう書かれている。

ヘレニストとはギリシア語を母語とするユダヤ人やくざである。
仁義なきキリスト教史

終始この調子である。一応各章の終わりには作者の解説もあるのだが、そこでの説明もずいぶんと軽い。ニカイア公会議で行われた論争も、作者の手にかかればこうなる。

要はどちらの意見が心にグッと来るか、どちらのイエスの方が好きになれるか、という勝負である。
仁義なきキリスト教史

こんなのでキリスト教の歴史がわかるか、と言われそうだが、これが逆にわかりやすいのだ。なぜなら出てくる登場人物は皆キャラが起っているため、印象によく残る。これを読んでからちゃんとしたキリスト教の本を読むと、「ああ、アイツか」とすんなり頭に入るというわけだ。

今年の「本しゃぶり」にとって、これは避けることの出来ない本である。なぜならこの本を読まなければ、あの記事を書くことは無かったと言えるからだ。

聖書、強い。

命のビザを繋いだ男 小辻節三とユダヤ難民

宗教関係でもう1冊。「命のビザ」を知っている人は多いのではないかと思う。映画も放映中であるし。

しかしながら、日本へやってきたユダヤ人達がどのようにして次の目的地へと旅立っていったのかを知っている人は少ないと思う。多くの「命のビザ」を書いた話では、杉原千畝がビザをひたすら書くところがクライマックスで、その後はエピローグ的な扱いとなる。こうしてユダヤ人達はビザを手に入れて、無事に日本を通って脱出できました、と。そして多くの人はこれで満足する。俺もそうだった。

しかしこの著者は違った。いきなり多くのユダヤ人が日本にやってきて対応はとれたのか。言葉は通じないし文化も違う。そして日本からその先への渡航手段どころか行き先さえ決まっていない。一体どうやってユダヤ人は逃げ延びることができたのか疑問を持ったのだ。そして調べた結果、そこには一人の日本人ユダヤ学者の活躍があった。

はっきり言ってこの疑問を持った時点で勝ちだし、それを調べあげて本にしたのだから偉い。そしてその疑問を解消できたのだから、この本は読んだ価値があったし、ここで紹介する価値もあるということだ。

小池一夫のキャラクター新論

先に挙げた5冊はどれも振り返ってみるにキャラが起っているな、と思ったのだが、この何かにつれキャラを意識するようになったのは間違いなくこの本の影響だ。このキャラを意識する、というのはなかなか役に立つ視点で、先に挙げた石鹸枠の記事でも使ったし紹介もしている。俺は別に漫画も小説も書くつもりは無いが、それでもこの本は読む価値があったと思った。末永く人気を維持したいなら、何よりもキャラを起たせることを重視すべきである。

よく、物語を書く上で何が一番大切であるか、という質問がある。そして挙げられるのが「キャラ」と「ストーリー」がそのツートップになるだろう。プロの漫画家の意見でよく目にするのは「キャラ」である。俺はこれに疑いを持っていたが、今では違う。この本では「キャラ」を重視することの合理性が実にわかりやすく説明される。例えば人気の出た作品があったとしよう。その続編を作るとなった時、「キャラは同じで新しいストーリー」と「新しいキャラで同じストーリー」のどちらが人気となるか。ファンを繋ぎ止めたいなら同じキャラで行くべきだ*5

この「キャラ」と「ストーリー」というのは物語に限った話ではないと、今では強く思う。俺に関係する分野ならまさしくブログで、やはり個性的なブロガーは強いと実感している。特別大したことは書いていなくても、この人が書いているからということで、ファンが毎回読みに来る。これが没個性だけど記事のネタで勝負となると、一時的に受けることはあっても安定は望めない。長期的にウケたいというのであれば、自分自身のキャラを起たせることを重視すべきだ。

ヤバい経済学

著者のキャラが起っていて、内容も面白いと新しいジャンルが出来上がるという好例。この身近なものに焦点を当てて、専門的な知識を用いて解説していくというジャンルの最初は何か知らないが、この本がマイルストーンであることは間違いない。なにせこれ以降、似たような本が出る度に『ヤバい◯◯学』と名付けられるのだから。

このうち上2冊は読んでいて、求めていた通りの面白さだった。原題は全く別物なのでこれは日本の出版社が二番煎じを狙って、ということなのだろう。俺としてはその思惑にハマった上で楽しめたので、これからも続けて欲しいと思う。ただし一定のクオリティの本だけにしてもらいたいが。

これらの本のいいところは、やはりちゃんとした裏付けがあるところだろう。何を説明するにしても著者自身や他の研究者による論文、そして豊富な統計データが裏付けとして出てくる。そのような「ちゃんとした」方法を用いているにもかかわらず取り上げる内容は身近なことばかり。そして結論は一般的な思い込みと真逆ということも多々ある。この重なったギャップが『ヤバい◯◯学』の強みというわけだ。

データの見えざる手

大量のデータを使って分析する、と言ったらこの本も外せない。ここ数年の流行りであるビッグデータとウェアラブルを組み合わせることで何が分かるのかをこの本は教えてくれる。著者自身が研究者であるため、内容に独自性があるのが実に良い。これがジャーナリストの書いたものだと、どうしてもどこかで聞いたような話の集合体になりがちだ。なので、この本だからこそ読める*6というのが強い。

この本で取り上げるのは、どのようにしたら物が売れるのかといったありがちなのもあるけれど、「幸福」や「幸運」そして「コミュニケーション」といった定義することすら難しい事柄を定量化していくところに面白みがある。そしてどうすればそれらが上昇するのかまで実証していくのだ。結局は定義の問題と言えばそれまでだが、それでも納得できるレベルである。なので幸運の話関係で、以前にも紹介したことがある。

個人的には会社内でのコミニュケーションを測定し、活性化させていく話を管理職の人にぜひとも読んでもらいたい。とりあえずあいさつ運動をすれば活性化するとかいうのはもう止めよう。物事は定義を決めて、定量化して、分析をしていくべきだ。というかこの本に出てきた社内のコミュニケーションを測定するってやつ、普通にコンサルタントの新しいサービスになりそう。

Yコンビネーター

新しいサービスと言えばこの本だ。シリコンバレーでスタートアップがどのように生まれるのかを教えてくれる。ここまで猛烈に働くのか、と。タイトルにもなっているYコンビネーターというのはベンチャーキャピタルである。その特徴はWikipediaの説明がうまくまとめているので引用しよう。

他のスタートアップファンドと比較した場合、Yコンビネータは非常に少ないお金 (2万ドル前後) を提供するのが特徴である。3カ月にわたって集中的に指導し他のベンチャーキャピタルなどから投資を受けられる状態まで育てる。
Yコンビネータ (企業) - Wikipedia: フリー百科事典(2015/12/06 14:25 JSTの最新版)

創設者はポール・グレアム。『ハッカーと画家』の著者と言った方が分かる人も多いだろう。

そんなポール・グレアムの下に金は無いが、技術と情熱を持った者達が集まり、起業のために密度の濃い3ヶ月を過ごす。この本はそんな彼らの行動をまとめたものというわけだ。この本は今回紹介する中で、最も人を選ぶものだと思う。身近でもなければ教養というわけでも無いし。だが逆に言えばスタートアップに興味を持っている人ならばかなり楽しめるだろう。というか興味を持っているのにも関わらず、2年前に出版されたこの本を読んでいないのはどうかしている。これはそういうたぐいの本だ。

最も興味深かったのは起業に向いている人の特徴。

スタートアップの創業者になるのに最適の時期を選べといわれれば、われわれのところへの応募者で見るかぎり20代の半ばだ


32歳はおそらく25歳より優れたプログラマーだろうが、同時に生活コストがはるかに高くなっている。25歳はスタミナ、貧乏、根無し草性、同僚、無知といった起業に必要なあらゆる利点を備えている
Yコンビネーター

この利点の中でも、Yコンビネーターにおいては「同僚」が必須となっている。それも互いに相手のことをよく知っている人物、大学の友だちがふさわしいと言う。そして「アイデアを変えてよいが、共同創業者は変えてはいけない」であると。アウグストゥスが偉大になった理由の一つはこれかもしれない。

申し訳ない、御社をつぶしたのは私です。

せっかく起業しても潰れるということは良くある話だ。しかしその原因が経営コンサルタントに従った結果だとしたら?この本は経営コンサルタントによる懺悔の書だ。自らの経験を踏まえつつ、いかに経営コンサルタントが戦略や手法に傾倒するか、そして本当の問題に目を向けないかが記されている。問題のある企業というものは戦略や方針といったものよりも、状況に反応する人間にあることが多いというのだ。

結局これは経営コンサルタントの商売方法に問題があるのだろう。彼らは問題を見つけて解決するというよりも、新しい流行の経営手法を販売する、というのが仕事であるらしい。その方が単純だし、クライアントへの説明も楽だ。しかしこれを実行したところで本当の問題、現場で人間が引き起こしている問題は何も解決していない。なのでクライアントとなった企業は弱り、力尽きる。だからこそ面倒で泥臭くても現場で何が起きているのか確認し、その問題を解決していかなければいけないのだ。

ではあらゆる企業に共通で使える手法は存在しないのか。それがあるにはある。マネージャーと部下が良い関係を築くこと。これに尽きる。きちんと現場の人間と管理者が情報を交換し、現実を直視すればいいのだ。とはいえもう少し具体的なツールを知りたいと思う人が多いだろう。そこで使えるのが「ブラウンペーパー」である。これはまず大きな模造紙にその現場で行われている作業のフローチャートを書く。そして関係者全員で、々が気づいた点を付箋に書き、貼っていくのだ。この〝ふれあいとローテク〟のメソッドが非常に有効であるらしい。

この本は主に著者の経験で構成されているが、俺はかなり信頼できるのではないかと思う。というのも、次々と新しい経営手法を取り入れることによる問題は先に挙げた『ヤバい経営学』に書かれていたし、社内の情報伝達がスムーズに行われることの効果は『データの見えざる手』に書かれていたからだ。こうして振り返ってみると2015年に読んで良かった本は、「人」の比重が大きいと言えるだろう。

終わりに

以上が2015年に読んだおすすめの10冊である。他に読んだ本はここに記録してある。

ともあれ、新刊はKindle化すべきであると考える次第である。

*1:男の肖像 (文春文庫)

*2:東大教授「古代ローマの奴隷は今でいうサラリーマン」にネット衝撃 「社畜は過労死するから奴隷以下」の声も

*3:このサラリーマンという単語が古代ローマの市民兵から来ていることを考えると、サラリーマンの地位も随分と落ちたものである、と言わざるをえない。

*4:重複は除外。

*5:一方でニチアサのように視聴者が入れ替わることが前提ならば、ストーリーを同じにしてキャラを入れ替えるべきだろう。

*6:正確に言えば論文出しているしネット上でいくらか語ってもいるけど気にしない。