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【書評】高スペックは正義 / “はたらきもののじょせつしゃけいてぃー”

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今週のお題特別編「素敵な絵本」とやらがあるので。
今週のお題は特別編「素敵な絵本」です - はてなブログ

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そういうわけでこのブログとしては珍しく絵本を取り上げる。この本は『ちいさいおうち』で有名なバージニア・リー・バートンが書いたものだ。

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この人の作品はWikipediaにもあるように自然の大切さを描いている事が多い。

野菜や果物を栽培したり羊を飼育したりなど、自然を慈しんだ生活ぶりが、そのまま絵本の創作主題につながっている。素朴さをや自然との調和を尊重する一方で、文明のもたらす自然破壊に対して懐疑を投げかけている。
バージニア・リー・バートン - Wikipedia

だが、この『けいてぃー』は違う。この本はマシンスペックの高さをもって人々を災害から守る、言わば小さな街のサンダーバードというべき作品だ。

高いスペックと汎用性

主役の「けいてぃー」は小さな赤いトラクターだ。モデルはInternational Harvester TD9 Bulldozerと思われる*1*2

この本のすごいところは開始早々「けいてぃー」のスペックを説明するところだ。乗り物を擬人化した絵本は数あるが、スペックが書かれた作品は珍しい。そしてこれがそのスペックだ。

  • 引く力55馬力・ディーゼルエンジン
  • 前方5段・後方2段変速
  • Uターンできること
  • 悪路用・舗装道路用キャタピラ

これがわかりやすく絵で示される。特に重要な「55馬力」については馬が55頭きっちり描かれ、どれだけ凄いかということが子供でもわかるようになっている。さらにそれだけでは飽きたらず、その力の有効さを示すエピソードまである。池に落ちた自分より大きいスチームローラーを引き上げるという、ゴングと磁力牽引車みたいなこの話を見れば、数字の分からぬ子供でもその凄さがわかるというものだ。

そしてアタッチメントを切り替えることによる汎用性も魅力的だ。夏の間はブレードを取り付け土を押し、冬になれば除雪機を取り付け雪をかく。そして後部にはスチームローラーを引き上げるときにも使ったウィンチを装備可能となっている。これでも書いたが組み換え好きの俺としてはたまらない設定だ。 【書評】代わりのモノはいくらでも / “「ものづくり」の科学史 世界を変えた《標準革命》” - 本しゃぶり

この作品には他にも「コンクリートミキサー車」とか「1トン半~7トン積みトラック」などいろいろな車が登場する。だが最強はあくまでも「けいてぃー」なのだ。

ストーリーは降雪災害からの救助

メインストーリーは架空の小さな街「じぇおぽりす」に大雪が振るところから始まる。今年2月の大雪はまだ記憶に新しいが、この作品でも同じ問題が起きる。つまり交通網の遮断とインフラの被害だ。積雪は2階の窓にまで届いたと書いてあるので相当なものだろう。その結果「じぇおぽりす」では誰も彼も、何もかも動けなくなってしまう。ただ一人「けいてぃー」を除いては。

ここからが主人公「けいてぃー」の出番だ。除雪機を装備して街へと繰り出す。その55馬力で雪をかきのけ道を作っていき、行く先々で依頼を受ける。

今度は、「北じぇおぽりすで、水道の本管がわれています」と水道局の局長さんがいいました。
「私についていらっしゃい」
北じぇおぽりすまで道をつけました。

この作品の面白い点として街が復活していく様子が見えるというのがある。まず冒頭で「じぇおぽりす」の全景が描かれる。そして雪が積もるとそのほとんどが埋まって見えなくなる。だが「けいてぃー」が出動してからは道が現れ、交通量も徐々に増えていく。これがRTSのマップ開拓を見ているようで楽しいのだ。

そしてクライマックスでは飛行機から救助を求められる。空港も雪で埋まり、着陸することができないのだ。この大雪が降っていた中どうやって飛んでいたのか不思議だが、やはり救助といえば着陸不能の飛行機に限るからか。サンダーバードも初回はこれだった。そして無事に救助活動を終えた「けいてぃー」は帰還し、この物語は終わる。

この物語は完全に「けいてぃー」のスペックの高さによって話が進むのがいい。体が小さな主人公の話、特に子供向けの場合は「小さくて弱くてバカにされてた → 大きなことを成し遂げて皆に認められる」みたいのが多いが、これは違う。最初から住民は「けいてぃー」が高スペックであるがゆえに敬意を払い、そして「けいてぃー」も自らの力を人々のために使う。正にノブレス・オブリージュ。あまりにも素晴らしいので絵本なのに曲まで作られている。


"Katy and the Big Snow" by Virginia Lee Burton ...
これを見ればストーリーもざっくり分かる。英語だが絵本なので問題ないだろう。

一街に一台

この作品は防災の観点から見ても良くできている。舞台の「じぇおぽりす」には「けいてぃー」が1台しか配備されていない。おそらく値段の問題ではなく、使う頻度の問題であろう。いくら「けいてぃー」が高スペックでも所詮はトラクター、スピードは大したことがない。そのためパワーがたいして必要とされないことには向かないのだ。話でも雪が降り始めた段階では「けいてぃー」は出動せず、除雪トラックが何台も動いていた。「けいてぃー」の出番は他では無理な時だが、そういうことはそうそうない。

現実の世界でも、雪があまり降らない地域では本格的な除雪車は配備されていない。使う機会が無いのだから当然だろう。だからこの前みたいな予想外の大雪で苦しむことになるのだ。しかし、いざという時のためだけにコストをかけるのは難しい。このへんのバランスはいつの時代でも問題になる。

ここで「けいてぃー」の汎用性の高さが意味を持つ。上で書いたようにアタッチメントを付け替えることで一年中使える。だから「じぇおぽりす」のような小さな街でも配備しておくことが出来るのだ。備えというものは安価だが用途の限られた物より、高価でも汎用性の高い物にしておくべきであろう。

ここまで読んだ人はきっと「けいてぃー」のスペックと汎用性に惚れ、欲しくなったに違いない。そんな人に朗報。ebayにあった。

 International T9 Bulldozer Rubber Tracks Farmall Caterpillar Crawler Deere TD9 | eBay International T9 Bulldozer Rubber Tracks Farmall Caterpillar Crawler Deere TD9 | eBay

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車体を特殊耐熱合金で覆い、ニトログリセリン弾を発射できるすごいやつ

*1:参考:はたらきもののじょせつしゃ けいてぃー | 水戸市大場町・島地区農地・水・環境保全会便り

*2:外見・性能ともに近いが、これは前方5段・後方1段変速。けいてぃーの方が多い。