本しゃぶり

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最新メタ自己啓発本を読んで意識を高次元へ引き上げろ

現代は変化の激しい時代である。
生き残るには今より高次の視点が必要だ。

これが最新の自己啓発トレンドだ。

メタ自己啓発本の年

自己啓発本は好きだろうか。俺は大好きである。読むだけで成功した気分を味わえ、簡単に気持ちよくなれる。あまりにも自己啓発本が好きすぎて、今年5月にこんな記事を書いたくらいだ。

これは「ビジネス書100冊の教えをまとめた本」「自己啓発書100冊の教えをまとめた本」の教えを一つにまとめた記事である。ちょうど同時期に似たような宣伝文句の本が出ていたので、統一させたくなったのだ。

だが2022年に出版されたメタ自己啓発本は、この2冊だけではない。

先行すること3月、"反自己啓発の書" こと『地に足をつけて生きろ!』が発売される。4月に上記の2冊が発売。8月には近代日本における自己啓発150年史を書いた『「修養」の日本近代』が参戦。そして10月に『なぜ、自己啓発本を読んでも成功しないのか?』『自己啓発の罠』か満を持して登場した。2022年はメタ自己啓発元年と言っても過言ではない*1

現代は変化が激しく予測が困難なVUCA時代と言われている*2。そんな時に個別のハウツーを学んでもすぐに陳腐化してしまう。今読むべきは「高次の視点」を獲得できるメタ自己啓発本である。

ということで、2022年に発売されたメタ自己啓発本を紹介していく。

『ビジネス書ベストセラーを100冊読んで分かった成功の黄金律』

上の記事でも紹介しているが、改めて書いておこう。日本で売れているビジネス書を100冊選び、それらを厳選した27の教えにまとめた本だ。この1冊があれば他にはいらない。組入書籍として採用されたのは刊行が2016年以降*3推定発行10万部以上*4など、複数の条件*5を満たした本であり、その内訳は国内82%外国18%となっている。

そうやって厳選された教えを使い、本書はビジネス書全般を小馬鹿にする。教えが互いに矛盾しているのもあれば*6、一つの教えの中で具体的な行動が矛盾しているのもある*7。同じ方針でも取るべき行動がまるで違うこともある。本書を読めば、ビジネス書を比較すると教えが矛盾してしまうことが分かって学びがある。ゆえに本書は、先輩から「ビジネス書くらい読んだら」と言われた学生や新入社員に勧めたい。きっとワクチンとして機能するだろう。和製ビジネス書フォーマットで書かれているので簡単に読めるのも良い。

なお「自己啓発本ではなくビジネス書じゃないか」という人もいるかもしれないが、その指摘は当たらない。どちらも多く読んできた俺に言わせれば、大した違いはない。実際、本書で取り上げられている100冊のうち6冊は『自己啓発の教科書』でも使われている。「自己啓発本 ビジネス書 違い」でググって出てきた強調スニペットの記事を読むと、もっともらしい説明がされているが、画像のキャプションが逆になっていた。それくらい似たようなものである。

『自己啓発の教科書 禁欲主義からアドラー、引き寄せの法則まで』

こちらも改めて紹介しておこう。古今東西の自己啓発本を100冊選び*8、それらを厳選した10の教えにまとめた本だ。この1冊でだいたい分かる。

これだけ書くと『ビジネス書100冊本』と同じに見えるが、中身は真逆と言ってもいい。こちらは教えをまとめることに力を入れており、分類するだけでなく、教えがどのように変化・発展していったのかを説明している。また、中身が文字だらけ右開きという点も、『ビジネス書100冊本』と真逆である。

そんなわけで本書もワクチンとして使えるのだが、文字の多い本を読むのに慣れていない人には向かない。むしろ俺のように自己啓発本をそれなりに読んできた人の方が楽しめるだろう。読むと「あの本の元ネタはこれだったのか」という発見がある。そして読み終えた後に自己啓発本を手に取ると、「これはアレとアレの組み合わせだな」と、まさにメタな視点で読むことができるはずだ。

『地に足をつけて生きろ! 加速文化の重圧に対抗する7つの方法』

タイトルにもある通り、アンチ加速文化の本だ。加速文化とは、「変化と効率」を求める風潮のことだ。それこそ上でVUCAがどうとか書いたように、多くの自己啓発本では「変わらなければ生き残れない」なんて書いて読者を煽る。なんなら俺もその一人だ。

これからの人生は長く変化に富んだものとなる。
どうしたら変化に適応し、充実した人生を送れるのか。

変化し続けるのが大事というのは正論かもしれない。しかし、それをプレッシャーに感じる人もいる。実際、上の記事にもこんなブコメがついた。

その着せ替え人形でシフトする - 本しゃぶり

ずっと勉強、ずっと変化、ずっと仕事、とかツライ。主人公は高校生だから、ここぞの集中力も気力もあっただろうけど。年々最低限の仕事をこなすのですら辛くなっている。そろそろ安楽死かベーシックインカムが必要。

2022/02/01 11:03

たしかにこの世界観だと安息日は訪れない。変化に適応するためには常に学習し続ける必要がある。僅かな寸暇を惜しんで学ぶため、情報を流し込むイヤホンは常時着用*9。もちろん休日も無駄にはできないのだから、きっちり管理していく*10。それで精神が摩耗するようであるならば、マインドフルネスで回復だ*11。こんな追い立てられた人生が幸せと言えるのか*12

そんな加速文化に嫌気が差した人のために本書がある。ストア派の教えを活用し、「心の平穏」を目指してやるべきことを提示する。それは加速文化で求められる行為に対して真逆と言っていい。各章のタイトルを見れば、それが分かるはずだ。

第1章 己の内面を見つめたりするな
第2章 人生のネガティブにフォーカスしろ
第3章 きっぱりと断れ
第4章 感情は押し殺せ
第5章 コーチをクビにしろ
第6章 小説を読め 自己啓発書や伝記を読むな
第7章 過去にこだわれ

もちろん本書で提示される教えも万能ではない。なにせ本書の中でさえ一見すると矛盾した主張が行われている。「ネガティブにフォーカスしろ」と書いた後で「ネガティブな感情を抑えろ」とは、結局どうしろというのか。

言うまでもなく、どちらの対応も常に一義的に正しいわけではない。ポジティブ思考など特定の解決策を勧めがちな一般的自己啓発書と異なり、本書のメッセージは、現実は複雑であり、決して単純な答えはないということだ。
スヴェン・ブリンクマン. 地に足をつけて生きろ! 加速文化の重圧に対抗する7つの方法 (Japanese Edition) (Kindle の位置No.1058-1060). Kindle 版.

本書は「これが正しい」と主張しているのではない。自己啓発の主流に対して反対の立場を取ることで、バランスを取ろうとしているのだ。ゆえに本書を読むべきは、加速文化を常識として身に付けた、自己啓発に染まりきった人であると言える。

『自己啓発の罠:AIに心を支配されないために』

上記の『地に足をつけて生きろ!』は、「反自己啓発」と言っても、やっていることは自己啓発本そのものである。なぜなら「自分を変えること」で問題を解決しようとしているからだ。これはある意味で当然だ。ストア派の哲学者エピクテトスは、自分でコントロールできるものできないものを区別することが大事だと述べ、自分でコントロールできる心の反応を管理せよ、としている。ストア派を主軸に置いた『地に足をつけて生きろ!』の対象が自分自身であることは当然だ。

そんな考え方に対し、『自己啓発の罠』は警鐘を鳴らす。現代の自己啓発産業は、問題を「個人レベルで解決しなくてはいけない」という考え方を推進させることで搾取している。構造的な政治・社会問題を個人の問題として扱っているのだ、と。これは本書でも言及しているAmazonの絶望クローゼットこと「AmaZen」を考えると分かりやすい。

AmaZenはAmazonの配送センターや職場に設置された瞑想ブースである。この狭い個室の中には椅子とモニター、そして観葉植物がある。従業員はこのブースに入り、音声ガイドに従ってマインドフルネスなどを行う。これでクソ忙しい職場でも正気を保てるというわけだ。

これが大炎上した。Amazonの配送センターは過酷なことで有名である。記事にも書いてあったが、ノルマが厳しすぎるためにトイレすらまともに行けない。イギリスの同センターに潜入したジェイムズ・ブラッドワースによれば、従業員の中にはトイレの代わりとしてボトルを持ち歩いていたという*13。そんな劣悪な労働環境なのに「回復の手段は与えた、後はお前たち自身の責任」とでも言うようなブースを設置したわけだ。

ではこのようなAmazonからの仕打ちに対し、従業員はどうするべきか。自分でコントロールできるのは「心の反応」と言って、ありがたく瞑想するのが正しいのか。現在の自己啓発産業は、まさにそのような主張をしている。ひたすら効率的に働くことを求め、問題は自己解決しろ。上手く行かない責任は自分にある。他責NGと。

本書はそんな風潮にNOを突きつける。やるべきは瞑想でも効率的なピッキング方法を習得することでもない。周囲の人々を巻き込んで、職場環境を変えるために働きかけることだ。著者は真の自己啓発は、「社会経済の搾取関係を終わらせて初めて可能になる」と考えている。

このように、本書は自己啓発産業が提示する物語を根本から見直すことを求める点で、より上位のメタ自己啓発本と言えるだろう。間違っているのは自分ではなく、世界の方だと考えている人におすすめ。

『なぜ、自己啓発本を読んでも成功しないのか?』

著者はもともと出版社に勤める編集者であり、自己啓発本も多く手掛けてきた。そんな作る側の人間が、自己啓発本の問題を指摘し、どう読むべきかを提示する。なにせ著者には実績がある。ただ自己啓発本を作るだけでなく、その教えを徹底的に実践していった。その結果がこれだ。

  • 年収は30倍以上
  • 家賃100万円以上の部屋に住む
  • 海外と日本の二拠点生活
  • ハワイにコンドミニアムを所有

ここまで読んで「あれ?」と思ったのなら正解だ。本書、ただの自己啓発本だった。文庫化にあたりタイトルがメタ自己啓発本っぽくなっているが、元は『超一流の二流を目指せ!』である。絶対元のタイトルの方が中身にふさわしい。まあ、改題したから俺が購入してしまったわけで、マーケティング的には現タイトルで正解なのだろうが。

これで中身が良ければまだ救いがあるが、その内容はごく普通。「眼の前のことに集中する」「感情を動かせ」と続いて「安定よりも情熱を」など、上で紹介した『地に足をつけて生きろ!』で否定されたことばかり。主流ど真ん中である。 何が『序章 「世界一 "残酷" な成功法則」へようこそ』だ。

方針だけでなく、具体的なステップも読んでいてげんなりする。

  • 親と距離を取れ
  • いらない人間関係は手放せ
  • お金を使い果たせ
  • 会社を辞めろ

こんなのが次々と登場し、最後には「著者に会いに行こう」「オンラインサロンに入ってもいい」となる。華麗にコンボが決まって笑いが止まらない。買ってしまったからネタとして紹介しているが、本書は買わなくていい。

『「修養」の日本近代 自分磨きの150年をたどる』

本書は明治以降の日本における、修養の歴史を紐解いたものである。「修養」は聞き慣れない言葉だが、要するに自己啓発と同じ意味だと思っておけばだいたいあっている。本書では以下のように説明されている。

修養とは、主体的に自己の品性を養ったり精神力を鍛えたりすることで、人格向上に努める思考や行為をさす。自分の努力によって能動的に自己のより良い状態を目指そうとする「自分磨き」の志向と言ってもよい。
大澤 絢子. 「修養」の日本近代 自分磨きの150年をたどる (NHKブックス) (Japanese Edition) (p.11). Kindle 版.

従って本書は「日本の自己啓発の歴史」を書いた本であると言える。我が国において自己啓発の文化はどのように発展し、浸透してきたのか。そしていかに宗教が深く関わっていたかも。

そう、宗教である。冒頭で貼った記事「黄金律の教科書」は『完全教祖マニュアル』を参考に構成した。

それは『自己啓発の教科書』を読んでいて「やっぱり自己啓発って教えも展開も宗教っぽいな」と思ったからである。ただし俺は、自己啓発が宗教と似ているのは、収斂進化的な要素が大きいのかと思っていた*14。どちらも「教え」を授ける構図であり、人の願いを叶えるために存在している。だから似たような流れをたどるのではないか、と。

だが『「修養」の日本近代』を読んでその考えが間違いだと知る。日本における自己啓発は宗教家からスタートしていたのだ。

まず最初に動いたのはキリスト教系の論者だった。彼らは自分たちが信仰する宗教が、いかに国のためになるか示す必要に迫られていた。そこで彼らはキリスト教の教えを根幹に据えつつ、宗教色を薄めた上で、主体的な精神的向上の方法を提示していく。これこそが新時代にふさわしい、形式的な教育に代わるものである、と。

近代日本で最初の自己啓発本とされる『西国立志編』は、サミュエル・スマイルズの『自助論』*15の訳書だ。当然、その教えにはキリスト教の文脈があるし、当時の日本は西洋文明の強さの根幹にキリスト教があるという考えがあった。キリスト教系の論者が修養を語り始めたのは、自然な流れと言えよう。

修養の機運が高まり始めると、他の宗教家も黙ってはいない。次は仏教が自分たちの教えに合わせて修養論を展開していく。それこそ現代でも自己啓発に瞑想が取り入れられるくらいなのだから、仏教と修養の相性はいい。それこそ仏教学者の加藤咄堂は、精神だけでなく身体も修練することの必要性を訴え、その方法として坐禅も取り上げている。

さらには伝統的な宗教家からだけでなく、様々な宗教から使えそうな要素を抜き出して修養論を語る者も現れた*16。そのような「宗教っぽい」思想・運動は続々登場し、中には今も伝わるものがある。

このように、日本において自己啓発はその始まりからして伝統宗教や「宗教っぽいもの」との結びつきが強いわけで、その教えに宗教っぽさを感じるのは当然なのである。やはりどのような分野でも、物事の成り立ちを知るのは面白い。

また、本書は宗教との関わり以外にも、「教養と修養 (自己啓発) の対立」など、興味深い切り口がある。自己啓発が好きな人にも反自己啓発な人にもおすすめの本。

終わりに

これまでもメタ自己啓発本と言えるような本は散発的に出版されていた。だが一年にここまでメタ自己啓発本が次々と出たのは、珍しいと言えるのではないだろうか。メタ自己啓発本を読むのは、自己啓発本を多く読んできた人だろう。つまりそんな人が一つの市場を形成するほど自己啓発本が浸透したのだと言える。

この「教え」があふれる時代に我々はどうすればいいのか。見てきたように教えは玉石混交で、相互に矛盾するものも多くある。下手な教えを掴んでしまっては、夢を叶えるどころか破滅してしまうかもしれない。

そんな心配を抱える人におすすめなのが、こちらの有料マガジンだ。

多くの自己啓発本およびメタ自己啓発本を読んできた著者が、その興味関心や考えをほぼ毎日更新で執筆中。わずか500円/月で知見が得られるなら安いもの。しかも初月無料でお試しできる。今こそ行動する時だ。

メタ自己啓発本を元に書いた記事

様々なエビデンスを武器に、対立するどの教えが正しいのかを探っていくメタ自己啓発本『残酷すぎる成功法則』を使って書いた記事。

*1:真のメタ自己啓発元年がいつなのかは、VR元年が確定してから考える。

*2:VUCAとはVolatility(変動性)・Uncertainty(不確実性)・Complexity(複雑性)・Ambiguity(曖昧性)の頭文字をまとめたもの。

*3:2015年以前に刊行されたものでも、いまなお読みつがれている一部のベストセラーは採用されている。

*4:一部例外あり。

*5:条件の詳細は著者のnoteを参照。ビジネス書を100冊読んでうっすらバカにする大仕事【2年ぶり2回目】が決まったので、プロセスエコノミー的な告知。|堀元見@衒学者|note

*6:教え23「ひとつのことをやり続ける」と教え24「ひとつのことをやり続けない」など。

*7:教え2「雑談で話すべき内容は?」で雑談で話す内容を「意味のあるもの」とする本がある一方で「意味のないもの」がいいとする本もある。他の教えでもいろいろある。

*8:100冊はAmazon商品ページにある『本書で取り上げている「自己啓発本」一覧』をカウントしたもの。ここには含まれていないが、本以外にも映画なども一部取り上げられているので、作品数としてはもっとある。

*9:骨伝導ヘッドセット着けっぱなしな生活を始めて1年が過ぎた - 本しゃぶり

*10:充実した休日を過ごすタスク管理術 - 本しゃぶり

*11:暇だから瞑想で象使いを鍛え上げる - 本しゃぶり

*12:もちろん俺はやりたくてやっている。ただ勉強というよりは娯楽のためだが。

*13:英アマゾン倉庫に潜入! 従業員はトイレに行かずビンに…… | Business Insider Japan

*14:もちろん明らかに宗教の教えが取り込まれているのもあるので、ある程度は参考にしているとも思っていた。

*15:『自己啓発の教科書』でも最初の自己啓発本は『自助論』であると書いてあった。スマイルズの影響はでかい。

*16:読んでいて親近感がわいた。