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合理的なヒロインは「ちょろく」なる

ライトノベルのヒロインは「ちょろい」とよく言われる。主人公と接した彼女らは1,2話もあればデレるからだ。しかし、それは感情的にではなく合理的に判断した結果なのである。

この記事では石鹸枠のヒロインが取るべき行動を検証するとともに、『ハンドレッド』の展開がいかに理にかなっているかを説明していく。

2016年春アニメの中で

新しく始まったアニメを一通り確認し、どれを残してどれを切るか決まりつつある今日このごろ。気になる作品は人それぞれだろうが、俺が興味を持ったのは『ハンドレッド』である。特にこの作品のメインヒロインであるエミール・クロスフォード改め、エミリア・ハーミットの行動が面白い。

『ハンドレッド』1話より

彼女のとった行動は、石鹸枠のヒロインとして最適解ではないかと思う。つまり、最初から主人公への好感度がMAXで、ルームメイトであり、当然着替えも見られる。にもかかわらず現段階では決闘するどころか、サポートする側に立つ。このムダのない行動を見ると、彼女が実は二周目であると聞かされても俺は驚かない。

俺から見るとエミリアは合理的な存在にしか見えないが、この手の作品に詳しくない人にとってはそう見えないだろう。なので、まずは彼女の行動について解説する前に、類似作品からこれからの展開を予想し、それに対する最適解を導き出す。

石鹸枠

さて、先ほどしれっと「石鹸枠」という用語を使った。ニコ生発のこの用語について知らない人もいるだろうから、まずはこれから説明しておこう。この言葉はラノベ原作アニメの中でも、特にテンプレと揶揄されるような作品に対する総称である。直近から例を挙げるならば、前期に放映されていた『最弱無敗の神装機竜』がわかりやすい。4コマで説明するならばこんな感じだろう。

『最弱無敗の神装機竜』1話、12話より

ある程度アニメを見ている者であれば、これ以上の説明は不要なはずだ。これでもまだ良くわからないというのであれば、ニコニコ大百科の記事を読むといい。発祥の地であるだけに、経緯も含めてかなり詳しく書いてある。

そんな石鹸枠にはいろいろな要素が含まれているが、今回取り上げるのはすでに書いたとおり、上の画像で言う4コマ目である。いわゆるハーレム展開というやつだ。なぜこの手の作品のヒロイン達はこうも「ちょろく」なるのか。それはその方が読者にとって都合がいいとか、作者がそう書いたから、と言う人もいるだろう。確かに資本主義に取り込まれているラノベにおいては、そういったカルヴァン派的な予定説の方が正しいのかもしれない。

しかし、人間に自由意志があることを信じたい俺としては、たとえ創作の人物であったとしても、その行動が考えた末のものであって欲しい。物語の都合によってではなく、合理的な判断の結果としてでだ。では何を持って彼女らの行動を合理的であると判断するのか。それには宗教ではなく、経済学を使うのだ。彼女らが置かれた環境とインセンティブを理解すれば、その取るべき行動が見えてくる。

セックスと恋愛の経済学

俺がいくらヒロイン達の行動が経済学的に考えて理にかなっていると言っても、オタクの妄想乙と言われて終わりだろう。現実の女性はそうではない、と。そこで説明の裏付けとして、この本を使いたい。

恋愛、セックス、婚活、結婚、不倫、離婚といったテーマに経済学の考え方を取り入れ、学生たちがその成果を私生活に生かし始めた人気講義、待望の邦訳。これまでの思い込みを次々とひっくり返す、経済学・心理学の最新研究!
セックスと恋愛の経済学: 超名門ブリティッシュ・コロンビア大学講師の人気授業

この本は引用した説明にあるとおりの本で、学生の恋愛事情からネットでの婚活、さらには離婚までとセックスと恋愛に関係する様々な事柄について、経済学と統計を利用して解き明かしていく。この本の特筆すべき点は、著者が学者であると同時に女性であるということ。「高学歴の女性は結婚しにくい」なんて内容を男性が書いた場合、それが統計的に正しくとも批判は免れないだろう。しかしこの著者の場合「統計ではっきり出ている。私もその一人。」と言い切れるのだ*1

この本を読んでいると、現実世界にも石鹸枠とよく似た環境があることに気がつく。それはカナダの大学である。

86.

カナダの大学では男女比が4:6と偏りがあり、それにより女子学生達の振る舞いは石鹸枠ヒロインと同じようになっているのだ。身も蓋もなく言ってしまえば、ちょろい。特に女性の比が高いほどその傾向があり、それは数字に現れている。

学生のうち女子比率が47%である学校では、在学中に彼氏を持ったことのない女子学生の69%が処女であるのに対し、女子比率60%の学校では54%に減ります。恋愛対象になる男が少ない学校の方が、特定の彼氏のいない女子学生は性体験を持ちやすくなるのです。


在学中に少なくとも1人の彼氏がいたことがあるという女子学生の場合でも、性的に活発な人とそうではない人のギャップは同様に大きいのです。男子学生の方が多い大学の場合、こうした女子学生の45%が処女ですが、その逆の場合、処女の確率はわずか30%しかないのです。


女性の方が多い学校の女子学生で、かつて彼氏がいたがいまは独り身である女子学生のうち過去1カ月以内にセックスをした経験がある学生は27%いるのに対し、その逆の男女比率ではわずか20%です。男が相対的に少なくなると、独り身の女性はより性的に活発になるのです。
セックスと恋愛の経済学: 超名門ブリティッシュ・コロンビア大学講師の人気授業

こうなる理由を説明していこう。

需要と供給

まずは誰でも知っている「需要と供給」の話だ。

男女関係においては互いが互いを求めるため、両者とも消費者(需要)であり生産者(供給)でもある。そこで女性比率が高いとどうなるか。経済学で言うところのワルラス安定が起きる。つまり女性の価値は下がり、男性の価値が上がるのだ。そして、交際において女性は交渉能力を失ってしまうことに繋がる*2

この男女比率の差を解消する手として、大学の外で相手を探せばいいではないか、という人もいるだろう。しかし、ここで厄介な壁が立ちふさがる。学歴の壁である。女性は伴侶に自分以上の学歴を求める傾向があるのだ。

学歴を求める最大の理由は賃金の問題である。現代においては学歴が高いほうが賃金も高くなりやすく、そのうえ男女格差も縮まっている。一方で日本でも欧米でも、長いこと男性が働き女性は家事というスタイルが続き、女性が働くようになっても男性のほうが稼ぎが良かった。そのため男女共に、夫婦の間で稼ぎは男性の方が高くあるべし、という考えが今もなお根強く残っているのである。すると、女性は自分以上の学歴を相手に求めることになるのだ*3

また、金の問題を抜きにしてもなお、学歴というのは重要であるというエビデンスがある。それはハリウッドスターの結婚状態だ。グスタフ・ブルースの調査によれば、ハリウッド俳優においても男女を問わずして自分と同等の学歴の相手と結婚している。彼らの場合、学歴と収入は結びついていないのにだ。この場合、学歴というのは自分と相手との共通項が多いことを示し、結婚においてはその共通性が重要となっているのだ。

Stanford Graduation

したがって、自分と同等以上の学歴を求めている限り、高学歴な女性にとって選択肢は少なく、男女関係において不利となってしまうのである。

学びから戦いへ

ここで石鹸枠に話を戻そう。石鹸枠の世界においては学歴・学力が話題に上ることはまずない。だがその代わりになるものならある。それは戦闘力だ。石鹸枠では戦いにおける強さが、人を測る絶対にして唯一の指標なのである。

『学戦都市アスタリスク』1話より

このブログを読む人ならば知っての通り、石鹸枠での学校の役割とは、戦闘技術を磨くための機関である。そのため、ランキングがあれば戦績によって決まり、学校内での立場も強さによって決まる。現実における学力の話は、そのまま戦闘力に置き換えて考えればいいのだ。

そうすると分割二期目が現在放送中である『学戦都市アスタリスク』のメインヒロイン、ユリスの言い訳が興味深い。彼女はタッグ戦で組むパートナーがいないことを指摘された時、こう言った。

「単純に私のパートナーとして合格基準に達した者がいないというだけだ」

『学戦都市アスタリスク』2話より

まさに高学歴で相手がいない典型例と言えよう。ユリスは先に貼ったランキングにもその名があるように、序列5位の実力者である。つまりこの学園において彼女を凌ぐ実力の持ち主は4人しか無く、男性に限って言えば2人しかいない。あのレスターさんですら9位なのだから。さらにユリスのようなヒロインは、正々堂々を良しとして、パートナーにも高潔さを求める。ただでさえ少ない実力者でさえも、これによって選択肢から外れてしまうのである。

ところがその狭き門をくぐり抜ける者がいる。主人公だ。主人公は往々にしてランキングの対象外であることが多いが、その代わりに決闘を行う機会が与えられる。

『最弱無敗の神装機竜』1話より

この決闘は多くの場合、引き分けという結果になる。つまりヒロインにとって、主人公が自分と同等の実力者であると判明するのだ。さらにその後、主人公には他とは違う能力があることが明らかになり、その強さはヒロインを超える。

『最弱無敗の神装機竜』12話より

また、主人公はお人好しでいいやつであり、強い男性ほど性格が破綻している石鹸枠において、その存在はエスパーより貴重と言っていい。だからこそ主人公の周囲にヒロインは集まるし、彼女たちのスペックは高いのである。もはや選択肢は一つに絞られているために。そしてそれは、ヒロインが交渉能力を失っていることも意味するのだが。

デレスパイラル

需要と供給の関係から、高学歴の女性や石鹸枠のヒロインに交渉能力が無いことを述べた。ではその次に起きることは何か。それは競争である。経済学で重要なのは、人々があたかも費用対効果を高めるがごとく行動するということだ。したがって相手に自分を選ばせようとするならば、取るべき手段は二つとなる。他と比べて費用を下げるか、効果を高めるか、だ。

現実においてはこれが男性優位の場合であると、やらせてくれるか、求めに応じてくれるかとなる。得られる効用が同じならば、より安く済む方が選ばれる。このような競争に参加するのであれば、勝つために「ちょろく」ならなければいけないのだ。

この状況は石鹸枠を見ていても確認できる。複数のヒロインが登場する場合、後に出てくるヒロインほど過激で積極的となりがちである。これは当然の流れで、後からレースに参加するならば先行者よりも自分がお得であることを示さなくてはならない。そうでなければスイッチングしてもらえないからだ。逆に一番手は現状に甘んじていると、後発に立場を奪われ、空気となってしまう。継続した努力が必要なのだ。

『最弱無敗の神装機竜』12話より

とはいえ何も気を引くために脱ぐことにこだわらなくてもいいではないか、と考える人もいるだろう。すでに流れが出来てしまっている現実ならともかく、最初は誰も脱いでいない石鹸枠ならばその手段をとる必要は無い、と。確かにそれは一理ある。しかし、その状況は開始3分で破られる。ラッキースケベによって。

『最弱無敗の神装機竜』1話より

主人公にもヒロインにもその気がなくとも、この偶然起きてしまった事故は重大な意味を持つ。なぜなら初体験は以下の様な性質を持つからだ。

初体験は経済学的にいえば固定費用を払うことと心理的に似たところがあります。一度支払えば、2度目からはそのコストは生じないのです。青年期の女性はこの固定費用の支払いを避けようと当初は性体験を拒むでしょうが、一度純潔を失ってしまうと、その後も性行動を取りやすくなります。既に固定費用は支払ってしまったからです。
セックスと恋愛の経済学: 超名門ブリティッシュ・コロンビア大学講師の人気授業

つまり一度見られたならば二度も同じとなり、次からは自ら見せることもいとわなくなるのだ。

『最弱無敗の神装機竜』1話より

こうなってしまえば流れはもう止められない。後発者達は先行者に対抗すべく、最初から自ら脱ぐことになる。その競争に勝つために。言ってしまえば、最初の脱衣こそ神のいたずらによって起きるが、それ以降は神の見えざる手によって脱がされるというわけである。

ハンドレッド

以上に述べたように、石鹸枠のヒロインを取り巻く環境は過酷である。自身が優秀であるために、それが足枷となってしまうのだ。では彼女たちはどのような行動を取ればいいのだろうか。その指針はピーター・ティールがその著書で語っている。具体的な計画によって成し遂げられる独占である。

主人公という市場は将来性は抜群だが、スタートした地点ではその価値はあまり知られていない。したがって早いうちにその市場を独占し、その後競争が起きないようにするのが望ましい。独占することで余裕が生まれ、その力をライバルを蹴落とすよりも有意義なことに使える。

もちろん「早いうちに」とは言っても、後から来たものにその座を奪われては意味が無い。幼馴染はまさに最初の参入者でありながら競争に巻き込まれ、追い出されてしまう典型例である。

そういったことを踏まえた上で『ハンドレッド』のエミリアが取った行動を振り返ってみよう。

『ハンドレッド』3話より

主人公の価値を最初から知っていた彼女は、無駄な行動を一切とっていない。ヴァリアントである主人公は必ずスレイヤーになると確信し、世界中のハンドレッド反応試験を監視、発見したところで自らも同じ学園へと入学する。ここに運命の出会いなんてものは無い。確率100%の出会いである。

さらに彼女は男装して入学する。これによる利点は2つ。寮で主人公と同室になれるということ。主人公に他の女性を寄せ付けないということ*4。これによって彼女は地の利を得た。この行動はまさしくカエサルの言うところの「成功は戦闘そのものにではなく、機会を上手くつかむことにある*5」を実践している。彼女は「その動き(情報)の行き着くところ」を読み、優位な場所を自分が先回りして手に入れたのだ*6

もちろん主人公の価値をわかっている彼女は決闘なんて無駄なことはしない。最初から味方であることをアピールする。そしてとどめに彼女はラッキースケベさえも計算で意図的に起こした。

『ハンドレッド』1話より

エミリアは主人公が同室であることを最初から知っており、主人公が妹の見舞いに行っていたのも知っていた。したがっていつ主人公が帰宅するのかも検討がついていたはずである。にもかかわらずそのタイミングで風呂から上がり、入り口から見える位置で着替えている。これは意図的なものに違いない。彼女は事故に見せかけて、自分が女性であることを主人公に教えるためにこのようなことをしたのだろう。

だが知っての通りこの戦略は主人公の鈍感さによって失敗する。次の回で「先手の秘策には失敗したけど……」とぼやく始末。それもそのはず。あれほどまでに緻密な計算によって積み上げてきたこの状況、そこに邪魔者が入ってきたのだから。生徒会長クレア・ハーヴェイである。

『ハンドレッド』2話より

彼女は2話で主人公と決闘し、見ての通り乳を揉まれる。そして3話で主人公の実力を認めてデレる。この流れに既視感を覚えた人は多いはずだ。そう、石鹸枠のメインヒロインの流れである。これを見た時に俺は気がついた。『ハンドレッド』の1話は実は0話だったのではないかと。

『ハンドレッド』の1話を見た時に訓練された視聴者達は口々に脱ぐのが遅いと言っていた。通常、石鹸枠においては3分以内でラッキースケベが発生する。にもかかわらず『ハンドレッド』の場合はカトゆー式*7で19分もかかっている。3分アニメでは40秒で脱ぐ*8今の環境では、あまりにも悠長であると言われてもしかたない。

しかしこれも1話が実質0話であったとするならば納得がいく。本来の偶然起きるラッキースケベではなく、あえてその前に起こしたというのであれば、むしろ圧倒的に早いと言えるだろう。エミリアは主人公を手に入れるため、誰よりも先に動いたのだ。

3話にてエミリアは幼馴染であることがはっきりした。そう、もはや呪いと言ってもいいほどに敗北を決定づけられた幼馴染である。つまりこの『ハンドレッド』という物語は、敗北の運命に知力を持って抗うエミリアと、運命に選ばれたその他ヒロイン達による戦いを描いているのだ。計算は運命に勝てるのか、まさに経済学的な作品なのである。

終わりに

テンプレと揶揄されがちなこの手の作品であるが、俺に言わせればそれは読解力が足りないだけだ。楽しんでいるならともかく、本気で文句をつけているのであれば、その前に本を読んだほうがいい。娯楽というものはそれを味わうために、ある程度の教養が必要なのだから。

参考にした本

英訳された

http://manga.tokyo/report/rational-heroines-are-easy/

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続き

*1:ジャレド ダイアモンドが『文庫 人間の性はなぜ奇妙に進化したのか』で度々言い訳を書いていたのと対照的である。

*2:無論、男女比率が逆ならば交渉能力は女性にある。オタサーの姫はまさにその典型例と言えよう。

*3:このことはロデリック・ダンカンの論文にデータとして現れている。高卒女性の結婚相手の学歴は1940年では高卒修了未満が多かったのに対し、1990年になると大卒以上の学歴を持つ男性の方が多くなっている。

*4:正体を隠せるというのも無くはないが、これは無視していいだろう。

*5:ガリア戦記 (講談社学術文庫)

*6:成功は「機会の活用」で決まる連戦連勝だったカエサルの戦略思考|戦略は歴史から学べ|ダイヤモンド・オンライン

*7:ラッキースケベ発生時間ランキング - カトゆー家断絶

*8:下着の少女が40秒で目の前に現れる 〜『ワガママハイスペック』が更新した少女の脱衣速度について〜 - うらがみらいぶらり