積ん読は放置すると地層を形成する。
だが今読むべき本は上にあるとは限らない。
興味はまさしく過去からやってくる。
第二回積ん読王決定戦
この記事を読んだ。
それぞれが自分の積ん読本を一冊選び、それについて語るというものである。その中で俺が最も共感したのは、電子書籍を積みまくっているダ・ヴィンチ・恐山の発言である。
俺も既読を含めるとKindleライブラリに1000冊ちょっとある*1ので、持っている全ての本を把握はできていない。セールとかで「この本は面白そうだな」と思ってクリックしたら、例の表示がされるのは何度もある。
そんなわけで読まれずに放置される本が年々増加の一途をたどっているわけだが、最近これに対する一つの解を見つけたので記事を書くことにした。
開始時にライブラリをシャッフルする
きっかけは10月にあったプライムデーでKindle Paperwhiteを購入したことである。積ん読が増え続けた結果、以前から使っていたKindleのストレージでは不足するようになったので、新たに32GB版を購入したのだ。俺は未読の本を全て持ち歩きたい。
ストレージが8GBから32GBに増えたことで、容量の問題は解決された。だが、Kindle端末を新しくしたことによって、新たな仕事が生じる。未読本のダウンロードだ。残念ながらKindleには、iPhoneのようなデータ移行機能は無い。もちろんアカウントが同じなら、前のKindleで買った本をダウンロードできるし、進捗やメモは同期される。しかし、ライブラリの状態をそっくりそのまま移植することは不可能なのだ。
仕方が無いので、1冊1冊心を込めて手作業でダウンロードした。あの応答速度の遅いeインク端末で。未読の本は約300冊。新しいKindleは防水なのをいいことに、湯船に浸かりながら無心でタップとスワイプを繰り返した。この行為が思わぬ効果を引き起こしたのだが、これを説明するには先にライブラリの振る舞いについて語る必要がある。
俺はKindleライブラリの表示順を「最新」にしている。これはファイル管理における「変更日で降順」だ。新たにダウンロードしたり、読み進めた本が上に来る。こうするとライブラリはスタックのように振る舞う。つまり後入れ先出しだ。
新しく購入した本は、ライブラリのトップに積まれる。新たに本を読もうとした場合、目につくのはライブラリの上にある本だ。なので最近買った本を読む確率が高い。必ず1番上を読むというわけではないが、リストの「1ページにある本」は「10ページにある本」よりも読まれるからだ。
しかも上のスタック解説図では積まれたノードは全て解決されるが、俺のライブラリではそうならない。読むペースより買うペースが速いからである*2。
新たな本が上に積まれていくため、買ってすぐに読まなかった本、読むのを止めた本は、目にする確率が低下していき、そのまま忘れされれる。かつて栄華を誇ったトロイアが、いつしか架空の存在だと思われたように。
本によって形成された地層が、今回のKindle変更で掘り起こされたのだ。ダウンロードはライブラリの先頭から行った。するとライブラリの上にある本ほど先にダウンロードが行われる。全体としては古い本ほどライブラリの上に来るようになったのだ。
実際にはここまできれいに順序の逆転は起こらない。本によってダウンロード速度は異なるため、後に開始した本が先に完了することもあるからだ。なので正確に言えば、古い本ほど上に来る傾向を持ちつつも、ある程度ランダム性のある順序となった。ライブラリはシャッフルされたのだ。
これにより、自分でも買ったことを忘れてた本がライブラリの上に来た。目についたので「そういえば昔こんな本を買ったな」と思いつつ、読んでみることにしたのだった。
4年半前に買った本を読む
それで現在読んでいる本が『傭兵の二千年史』である。
ヨーロッパにおける傭兵の役割や取り巻く政治情勢の移り変わりを書いた本である。なぜ人々は他人のために命を賭けたのか。端的に言えば「金のため」だが、その背景にはそれぞれ異なった理由がある。その理由が、これまで学んで来た様々な知識と結びつくところに面白さを感じてる。
しかし、購入当初に読んだ時はそれほど面白いと思わなかったらしい。10%程度読んで放置していたからだ。なぜ読むのを止めたのかは覚えていない。なにせ本書を購入したのは2016年5月。4年半以上も前である。冒頭をちょっぴり読んだ本のことを忘れていても仕方がない。
そんな本を現在は「面白い」と感じながら読んでいる。4年半前と今で何が変わったのか、それは周辺知識の量である。
積み上げたもの
本書の第一章は「クセノフォンの遁走劇」から始まる。ギリシア人傭兵1万人による 6,000kmの撤退だ。その記録は『アナバシス』の名で現代にも伝わっている。
このアナバシス一つとっても、4年半前と今で俺の知識量は違う。当時すでに『アナバシス』自体は読んでいたが、他には特に読んでいなかった。対して現在は『ギリシア人の物語』を読んでいる。
クセノフォンの登場は第3巻にちょびっとだけだが、重要なのはクセノフォンそのものではない。そこに至る過程の方だ。なぜペルシア帝国を撃退し、繁栄を極めたアテナイの人々が、傭兵としてアジアへ出稼ぎに行く状態になってしまったのか。そうした背景知識を現在の俺は持っている。
この数年間で手に入れた背景知識は他にもある。例えば第四章は「イタリア・ルネッサンスの華、傭兵隊長」と題して、分裂したイタリア都市国家の傭兵依存の話となる。こうなると当然出てくるのが『君主論』で有名なニコロ・マキアヴェッリだ。
マキアヴェッリについては『よいこの君主論』をきっかけに関連する本を何冊か読み、記事のネタにも使っている。
彼は借り物の力である傭兵を嫌い、市民兵の創設を主張していた。さらには自ら農民を徴兵し、訓練を行い、それなりの形に仕上げてまでいる。このようなマキアヴェッリの逸話を知っていると、イタリア傭兵事情について読んだ際に「なるほど、共和政ローマ推しマキアヴェッリが文句を言いたくなるのもうなずける」となる。
第七章に出てくる「ドイツ農民戦争」の話を読んでいる時は、マルティン・ルターについて調べた時のことを思い出した。
この記事を書く中でドイツ農民戦争のことを知ったが、それはあくまでもルターに関係がある範囲の話。対して今回は傭兵を中心に語られるわけで、一つの出来事を別角度から見ることができ、理解が深まる。あの戦争の裏には、こんなことがあったのかと。
細かい点を挙げれば、他にもこれまで読んだ本との繋がりを見つけることができる。この4年半の間に『傭兵の二千年史』とリンクする知識は増えていたのだ。上でも書いた通り、既存の知識に本の内容が結びつくのは面白いものである。その結びつく知識が増えたのだから、本書の面白さも増えたわけだ。
また、この本に対する意識の変化は、前回の記事*3で解説した知覚的流暢性からも説明がつくだろう。
人は、ある程度の「馴染み感」のあるコンテンツを好む。読むのを中断してからの4年半、俺は一度も『傭兵の二千年史』を開いていない。だが関連する知識が増えたことで、本書に対する馴染み感は増していたのだ。
なんにせよ、本そのものは変わっていないが、俺の方が変わったことで、本書の面白さが増したのである。
ライブラリを耕せ
今回の話から言えることは何だろうか。まず言えることは、本と人との関係は固定されたものではないということだ。本の中身は不変だとしても、人の方は変わっていく。すると相対的に本の価値は変化するのだ。前は合わなかったとしても、今もそうとは限らない。読むのを止めてから時間が経っているならば、再挑戦してみてはどうだろうか。
もう一つ言えることは、たまにはライブラリをシャッフルすべきということ。長い期間放置しておくと地層は押し固められ、下にある本が日の目を見ることが無くなってしまう。なので畑を耕すがごとく、ライブラリを掘り返し耕すべきなのだ。
冒頭に貼った第二回積ん読王決定戦で、恐山はこうも言っていた。
これについては俺も同感である。何年も前に買った本が、購入時には思いつきもしなかった形で役立ったことは何度もある。しかも電子書籍は検索ができるのでそれをしやすい。
だが、所有していることを忘れた本は、必要な時に取り出せない。なのでライブラリを掘り起こし、自分が何を持っているか確認することが重要となるのである。
終わりに
このように、ライブラリの下に眠った本と触れ合うのも悪くない。それは再会ではあるけれども、新たな出会いとも言える。新しい本との出会いは店だけでなく、自分のライブラリにも存在するのだ。
とはいえ、特に理由もなくライブラリをシャッフルするのは面倒なものである。そこで一つ朗報だ。今週金曜日の11/27から12/1までAmazonでブラックフライデー&サイバーマンデーのセールが開催される。
そのセール対象にはKindle端末も含まれているのだ*4。この機を逃さず買ってライブラリを耕そう。
読書に関係する記事
*1:本のみをカウントした場合。
*2:2019年は読み終えたKindle本が93冊に対し、購入したKindle本は190冊だった。
*3:『鬼滅の刃』大ヒットの理由が見つかることは無い - 本しゃぶり
*4:記事執筆時点ではPaperwhiteは含まれていない。たぶん安くなるとは思うので、俺と同じように32GB版が欲しい人は当日確認しよう。 5日間のBig Sale: Amazon ブラックフライデー&サイバーマンデー 2020