一般的に芸術作品ならば裸体に対する忌避感が薄くなる。
それが人間世界の常識だからだ。
しかしAIが相手ならどうだろう。
センシティブな画像
これはウジェーヌ・ドラクロワの『民衆を導く自由の女神』である。
いや、おっぱいをクリックする必要はない。実験はすでに終了している*1。
押したくなるのは分かる。前回の結果に対するコメントにもあったように、この絵は構図や明度の差によって女神の胸部に視線が行きやすい。そのためか、昔はこの絵の掲載が拒否されたこともある。「昔」と言っても1年ちょっと前のことだが。
結局この対応は「誤り」だったとFacebookは認め、掲載することができるようになった。
しかし、この問題はまだ終わったわけではない。現在、様々なプラットフォームに画像を投稿する機会がある。その際、自分では「アート」だと思っていても、AIは「ポルノ」と判定するかもしれない。掲載が拒否されるだけならいいが、運が悪ければアカウントを凍結される恐れがある。
我々ユーザーはどうするべきか。上の事件のように、アートの掲載を求める声を上げるのは当然として、並行して自衛すべきである。自衛の第一歩は現在のAIの判断基準を知ることだ。何がアートで、何がポルノなのか。それを知らなくてはいけない。
だからGoogleに尋ねることにした。
グーグル・チャレンジ
Googleには「画像で」検索できる機能がある。
これを使うと検索に使った画像の「キーワード候補」や「類似画像」が出てくる。例えば『民衆を導く自由の女神』で検索するとこうなる*2。
この機能を使えば、AIが画像をどのように認識したのか分かる。もちろんGoogleの判断とFacebookの判断、あるいはTwitterの判断は異なるだろう。しかし天下のGoogleがアートと判断できなければ、他のプラットフォームでも判断できない確率は高いだろう。第一ステップとしては「あり」ではないか。
さて『民衆を導く自由の女神』についてGoogleは正しく認識できた。しかし、この結果は背景があってのものかもしれない。画像そのままだったから判断できたが、女神だけくり抜くと違う結果になっては困る。なので試した。
これでも正しく『民衆を導く自由の女神』だと認識している。さすがGoogleだ。
しかし、これが全裸のキャラだったらどうだろう。
ビーナスの挑戦
「自由の女神」は上半身こそ露出しているが、下半身はしっかり服を着ている。アートの中には全裸の作品も多い。Googleは全裸でもアートと認めてくれるのか、確認する必要がある。
そこでGoogleに挑戦するドリームチームを用意した。
ビーナスバースの皆さんである。
これから彼女たちには一人ずつGoogle画像検索に挑戦してもらう。あなたはAIの判断を当てることができるだろうか。
サンドロ・ボッティチェッリのビーナス
彼女を描いたのはサンドロ・ボッティチェッリ。サイゼリヤでたった一人のビーナス…… と言いたいところだが、同じくボッティチェッリ作の『プリマヴェーラ』にもビーナスは登場している。とはいえビーナスの絵画と言えばこの『ビーナスの誕生』だろう。そんな彼女の結果は以下の通りだ。
キーワード候補は「afrodita hija de quien」(誰のアフロディーテ) とあり、ちゃんとビーナスであると認識されている*3。
類似画像についても先頭はちゃんとビーナスだ。一見すると出自のよく分からないキャラも混じっているが、それらはアフロディーテ繋がりで出てきたようだ。
とりあえずボッティチェッリのビーナスはグーグル・チャレンジをクリアしたと言っていいだろう。
ウィリアム・アドルフ・ブグローのビーナス
裸婦像や若い女性の多く書いているウィリアム・アドルフ・ブグローによって描かれたビーナス。彼女は前年に描かれた『ニンファエウム』にも登場している。今で言うスターシステムに通じるものがある。複数作品に登場したことが、吉と出るか凶と出るか。
キーワード候補は「nude photography」(ヌード写真) となった。幸い類似画像はポルノ感の少ないものとなったが、アート判定とはならなかったので、グーグル・チャレンジ失敗だ。
アントニオ・マリーア・エスキベルのビーナス
これを描いたアントニオ・マリーア・エスキベルはスペイン人の画家である。彼は病でほとんど目が見えなくなり、自殺しようとしたことがある。しかし友人や同僚たちの支援によって見事回復。このビーナスはその後に描かれたものである。まあ、Googleは絵を判断するのにそんなことを考慮しないが。
残念ながらキーワード候補はまた「nude photography」(ヌード写真) である。ただし類似画像は赤ちゃんだらけ。エスキベルのビーナスはどう見ても成人女性なのだが、いったいGoogleは彼女のどこに赤ちゃんを見出したのか。
ポルノ要素はほとんど無い結果ではあるが、正しく認識できていないのでグーグル・チャレンジ失敗。
アレクサンドル・カバネルのビーナス
アレクサンドル・カバネルが描いたこのビーナスは、サロン・ド・パリで「芸術の王道」と称賛され、ナポレオン三世が買い上げた。前三者と違い寝た体勢なのが、功を奏するか。
さすが王道。キーワード候補は「birth of venus」とタイトルそのもの。類似画像も『ビーナスの誕生』関連で占められている。間違いなくグーグル・チャレンジ成功だ。
ルイ・タヴィドゥーのビーナス
フランス人画家ルイ・タヴィドゥーによって描かれたビーナス。なんというか他のビーナスと違って「神々しい」というより「生々しい」と言いたくなるのは俺だけだろうか。今回選んだ中では唯一おっぱいが見えていないため、期待できる。
他よりも知名度が低いからキーワード候補が「nude photography」(ヌード写真) になるのは仕方ない。だが類似画像がことごとくマッチョなイケメンなのはなぜだ。しかも類似画像を見ていくと、男性器を露出させている画像も多々ある。これは完全にアウト。
予想とは別の方向だが、グーグル・チャレンジ失敗。
結果まとめ
ビーナスバースによるグーグル・チャレンジの結果をまとめた。
成功率は40%。この結果から何が言えるだろうか。正直なところ俺には分からない。いかにも絵画らしいボッティチェッリのビーナスが成功するのは分かる。だがカバネルのビーナスが成功して、残りの3人が失敗する理由は何なのか。一番ありえそうなのは知名度だと思うが、ブグローもかなり有名なわけであるし。あとタヴィドゥーでマッチョが召喚される理由が全くもって分からない。
結局、凍結されたくないのなら「チキンレースは止めておけ」というのが結論になりそうだ。
終わりに
大いなる力には大いなる責任が伴う。
GoogleやFacebookなどのプラットフォーマーには、人々を守る責任がある。だからポルノ画像を見て不愉快になる人が多い以上、フィルタリングを厳しくするしかない*4。しかも全てを人力のみでやることは不可能なため、AIに判断させるのも当然だ。だから俺は『民衆を導く自由の女神』フィルタに引っかかるのは仕方ないと考えている。
なので俺としては「ちょっとやそっと裸体があるからといってガタガタ言うな」という方向に世論が進んで欲しい。だからこのブログでは積極的に「アート」を貼っている。
裸体表現関係の記事
男性の裸も貼っていく。