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【書評】フォームチェンジの謎を解く / “孤独なバッタが群れるとき―サバクトビバッタの相変異と大発生”

きっかけ

フォームチェンジするたびに皮を被るので。

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今年も頭おかしい / 仮面ライダー鎧武 1話より

また新しい仮面ライダーが始まってもう4話。今年の仮面ライダー鎧武も平成ライダー基本要素の一つであるフォームチェンジを行っている。無知が言う「仮面ライダーなのにバッタじゃない」という文句があるが、このフォームチェンジという要素はバッタから始まった仮面ライダーにふさわしいギミックではないだろうか。

バッタという昆虫はフォームチェンジする。見た目だけでなく行動までも変化する形で。そんなバッタのフォームチェンジ(転移相)について研究しているのがこの本の著者だ。俺がこの人を知ったのはこの記事。
33歳、無収入、職場はアフリカ バッタ博士の「今週のひと工夫」第1回
読んで思った。この人おかしい。しかし記事は面白いし、その上無収入だというので印税収入に貢献してみた。

内容とか

この本はサバクトビバッタのことしか書いていないのに面白い。たぶん著者が変な人だからだろう。

闇堕ちするバッタ

この本のメインはバッタ、それもサバクトビバッタのフォームチェンジについてだ。サバクトビバッタがフォームチェンジする条件について一般向けの本としてはかなり詳しく書いてある。ところでこのバッタのフォームチェンジだが、完全に闇堕ちである。あのアナキンがダース・ベイダーになるアレだ。しかしバッタはやはり人間と違う。人間が闇堕ちするときは孤独になるが、バッタの場合群れることで闇堕ちするのだ。

サバクトビバッタは通常の緑に茶なフォームでは単独性でおとなしく、移動も大してしない。しかし黒にオレンジへとフォームチェンジすると大群となりすべてを喰らい尽くしながら移動を続ける。この時の移動距離は4000kmに及んだこともあるそうだ。こうなるともはや生ける災害であり、神罰である。昔は緑のバッタと黒いバッタは別の生き物だと思われていたようだ。姿も行動も異なるから仕方ない。母親がオレンジとパイナップルを別のライダーだと勘違いするようなものだ。しかし人類もバカではない。バッタから人類を救うため、多くの昆虫学者たちによってその秘密が明かされてきた。そして著者もバッタを人類から救うため、この戦いに身を投じる事になった。

全ては愛するがゆえ

この著者はバッタを愛している。なにせ夢がバッタの大群に着ている服を食べられたいというものだ。だからバッタのことは全てのことを知ろうとする。その為に数々の実験を行う。この実験がどれもこれも一般人である俺からしてみれば頭おかしいと思ってしまう。しかしよく考えて見ればどれもこれも合理的だ。研究者たるもの頭が柔らかくないとダメだと思い知らされる。特に面白かったのを3つ紹介する。

1. 卵を絞りだす
孤独相(緑)と群生相(黒)ではサイズが卵の時点で異る。そこで著者は考えた。大きい群生相の卵の中身を減らしたら孤独相になるのではないかと。そして卵に穴を空けて中身を少し減らすことで小さくするという実験を行った。そしてみごと孤独相のバッタが生まれた。こんな無知な子供が考えそうな方法をとりあえずやってみるところに感心せざるを得ない。

2. 簀巻きバッタをこすりつける
群れるとバッタは群生相になるが、どの程度バッタ同士が触れ合えば群れたことになるのか調べるために、バッタ同士を自らの手でこすり合わせる実験を行った。メスのバッタの目を修正液とマニキュアで塞ぎ、オスのバッタとティッシュで簀巻きにしてメスにこすりつける。5分おきに3時間も。研究者には体力も根気も必要とわかるエピソードだ。

3. 闇に光らせる
先に書いておくとコレは著者ではなく著者の先生が思いついた方法だ。群生相には接触だけではなく光が必要かもしれない。確かめるために暗闇でバッタに光を当てるという一見矛盾したことを行う必要がある。ここで動き回るバッタにピンポイントで光を当てるため、バッタそのものを光らせるというアイデアを出す。そしてバッタに夜光塗料を塗ることで達成した。やはりこの師あってこその弟子か。

バッタの国へはるばると

生産現場でよく使われる言葉に三現主義というものがある。これは「現場」「現物」「現実」という「3つの現」を重視する考え方のことだ。要するにグダグダ言ってないで自分で見てこい的なやつである。著者はこれをきちんと行っている。無収入にもかかわらず、砂漠で野生のバッタを調べるために単身アフリカのモーリタニアへと行ったのだ。この本ではこの三現主義の大切さがわかるエピソードが載っている。著者はバッタを野外で見つけ、思わず捕まえようと手を伸ばす。すると手に痛みが走り、見ると植物のトゲが刺さっている。これが発端でサバクトビバッタが生息する植物についての論文が生まれた。まさに現場に行ったからこそである。

さらに著者は現場になじむのが上手い。インディアンと会うツアーに参加すれば中古のフンドシを購入し、身につけてインディアン達と同じ格好になり一緒に踊る。モーリタニアに行けば“ウルド”の名前をもらう。モーリタニアの研究所長の名を授かったのだ。現地の人と仲良く慣れる人は多くいるだろうが、ミドルネームを貰える人はそうそういない。

まとめ

面白い人が書くと地味なはずの話も面白い。

こんな人におすすめ

  • 昆虫に興味がある人
  • フォームチェンジが好きな人
  • 研究者だけど金のない人

コイツは孤独相なのか群生相なのか