本しゃぶり

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ガールズ&パンツァーが有機を教えてくれた

こんな格言を知っているだろうか。

I am the bone of my carbon.
(体は炭で出来ている)

もちろん、これは我らが軍神、西住殿のことである。

f:id:honeshabri:20161127090715j:plain 『ガールズ&パンツァー』9話より

この西住殿カーボン説はネタとして扱われることが多いが、これは本質であると言える。西住殿はカーボンそのものなのだ。俺の見立てでは西住殿の乾燥重量のうち、その2/3をカーボンが占める。そして西住殿をよく見てみると、カーボンの特徴が随所に見受けられる。なのでこれについて説明しようと思う。最初に西住殿単体で、次に仲間との関係、そして最後に対戦相手との関係を見ていく。

単体として:偏りがない

まずは西住殿単体ということで、外見からわかることを述べていく。公式にあるキャラクター紹介の画像を見てみよう。
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ガールズ&パンツァー(GIRLS und PANZER)|西住 みほ

ここからわかる事と言えば、彼女が女子高生であるということ。それだけだ。キャラクターとして特徴らしい特徴は持っておらず、そこら辺のモブに説明文をつけたようにしか思えない。西住殿を知らない人が食堂のシーンを見て、どれが主人公か当てることは難しいと思われる。

f:id:honeshabri:20161127090942j:plain 『ガールズ&パンツァー』1話より

『ガルパン』に登場する他のキャラクターが個性的なのに対し、彼女はあまりにも普通過ぎて偏りが無い。さらに言えば存在も控えめで、こじんまりとした印象を受ける。実際、姉に比べると小さい。しかし、これこそがカーボンであることの証なのである。

カーボンの電子殻を見てみると、4つの外郭電子と4つの空席がある。そのためカーボンが安定な状態、すなわち閉殻構造となるためには電子を4個受け取るか4個放出しなくてはいけない。どちらにせよ4個動かす必要があるカーボンは、電気的に中性となっている。また、第2周期元素に属することからも分かるように、比較的小さめな元素となっている。

カーボンのこの小さく中性であるという特徴は、まさに西住殿と同じ、さらには西住殿の率いる大洗女子と同じであると言えよう。他の学校が大所帯で偏った存在であるのに対し、大洗女子は小さく、連合側でもなければ枢軸側でもない。そしてこの偏りの無さこそが西住殿とカーボンの強みになるのだ。

仲間との関係:4本の手

カーボンの価電子数が4であることは電気的に中性であるという他に、重要なことがある。それは4本の手を持つということ、すなわち4組の共有結合が可能であるということだ。これは元素の中でも最大の数である。そして、この同時に4組の結合を作れるということもまた西住殿の特徴であり、優れた指揮官である証なのだ。

カーボンがその4本の腕を用いて結合した分子の例としてメタンがある。1個の炭素原子に4個の水素原子が結合したもので、閉殻構造となる炭素の共有結合として最もシンプルなものだ。そして全てがσ結合であり、正四面体構造となっている。

このメタンの構造を見た時『ガルパン』を知っているものならばこう思うだろう。
これはあんこうチームと同じ構造である、と。

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西住殿が中心となり他4名に指示を出すという構造は、メタンそのものである。あんこうチームが結成されてから、仲間割れを一度も起こしていない理由がこれで分かっただろう。誰か一人欠けても不安定になってしまう。彼女らは互いが互いを必要とする、共有結合という絆で結びついているのだ。ちなみにメタンは組織名として「カルバン」が提唱されたことがある。なぜ英語の「ガールズ」とドイツ語の「パンツァー」が組み合わされたのか。その理由はもうわかったはずだ。

カーボンの持つ4本の腕というのは元素の中でも最大であることはすでに述べた。それと同じように、西住殿が4人を相手にまとめ上げられるというのは、彼女が特別であることを示している。アメリカ海兵隊を筆頭に、軍隊においては一般原則として「3つのルール」が活用されている。経験から、大体数の人間が一度に遂行できるのは3つまでと知られている。だから海兵隊においては1人が3人を束ねるという形で部隊が設計されているのだ。陸軍では「4つのルール」を試したが、効率は落ちてしまったらしい。

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しかし西住殿は「4つのルール」に対応することが出来ている。あんこうチームという狭い範囲のみならず、大学選抜チームとの対戦では部隊を「ヒマワリ」「アサガオ」「タンポポ」「ドングリ」の4つに分けて運用している。彼女にとっては「4つ」がちょうどいいのだろう。一般的な人間が3つまでなのに対し、1つ多く運用することができる。これが彼女を指揮官として優位たらしめる理由だ。それでもグロリアーナに勝てないのは…… 四本足の馬でさえつまずくということだろう。

対戦相手との関係:燃焼して結合

西住殿の凄い所に、仲間が次々と増えていく、という点がある。ダージリンさんも「あなたは不思議な人ね。戦った相手みんなと仲良くなるなんて。」と言っていたくらいだ。

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『ガールズ&パンツァー』10話より

これは正に西住殿がカーボンであるためだ。カーボンの結びつきは際限が無いと言っていいほどで、数多くの物質を生み出してきている。それは先に述べたカーボンの特徴によって説明が可能だ。つまり、偏りが無いために反発が起きず、どこまでも繋がる事ができる。また、適度に小さい*1ためシグマ結合だけでなく、パイ結合も可能だ。

f:id:honeshabri:20161127091215j:plain 『ガールズ&パンツァー』12話より

そして腕が4本あるために単純に接合できる数が多いのに加え、様々な方向に結合することが可能となっている。その結果、カーボンを含む化合物(有機物)と含まない化合物(無機物)の数を比較すると、有機物の方が確認されているだけで160倍以上も多い*2。だからこそ確執のあった姉とも和解でき、認められることも出来たと言えよう。もちろん結合は行われた。

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『ガールズ&パンツァー』12話より

しかし、西住殿が結合しやすいと書くと、こう思う人も出てくるだろう。なぜ結合するためには戦う必要があり、最初から仲間にすることは出来ないのか、と。これは簡単な話だ。新たに結合を結ぶためには、今の結合を一度壊す必要があるからである。この結合を壊すのにはエネルギーが必要で、何かで外部からエネルギーを与えなくてはいけない。その一方で新たな結合が行われるときは、逆に不要となったエネルギーが放出される。このエネルギーの吸収と放出が連鎖的に起きている例として有名なのが「燃焼」だ。

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『ガールズ&パンツァー』12話より

つまり、西住殿にとっての燃焼が試合であったわけである。最初は弱くとも、火力は次第に増していく。鉄の掟で縛られる黒森峰を味方に出来たのも、ぶつかったのが最後であったからだろう。

まとめ

劇場版が公開されたことで、あらためて大洗女子の強さについて語る人をしばしば見かけた。だいたいどれも似たような内容で、「大洗女子は適応性が高かく、個々が自律的に行動しているから強い」と。しかし、なぜ大洗女子だけがこのようになったのかについて、しっかり説明できているのは見かけなかった。だが、ここまで読んだ人ならばもう理解しているはずだ。大洗女子は西住殿が入ったことにより、有機的な組織となったのである。

f:id:honeshabri:20161127091523j:plain 『ガールズ&パンツァー』10話より

これで西住殿とカーボンの素晴らしさを理解できたはずだ。戦車道には人生に大切なモノが詰まってはいるが、多くの人はそれに気がついていない。この記事を読むことで、その一部にでも気がつくことが出来たのなら幸いである。ガルパンはいいぞ。

参考資料

人類の歴史と炭素がいかに切っても切り離せない存在であるかが分かる1冊。そして読み終えた後は、21世紀が炭素の世紀であることに喜びを覚えるであろう。6Cを讃えよ。

他のアニメ解説記事

*1:小さければいいというものでもない。

*2:有機化合物は1000万種以上、無機化合物は6万種と言われている。