本しゃぶり

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【書評】代わりのモノはいくらでも / “「ものづくり」の科学史 世界を変えた《標準革命》”

俺は昔からカスタマイズが好きだ。それも互換性のあるパーツを組み替えて自分好みに仕上げるやつが。加工するのではなく組み替え、これが重要だ。今ではこの組み換えは子供のおもちゃでも可能なほど一般的だが、歴史から見れば登場してから日は浅い。これが可能となったのはひとえに生産技術が発達したからに他ならない。この本は生産技術の歴史についての本である。

グレードアップパーツシリーズ No.435 GP.435 ミニ四駆 ファーストトライパーツセット 15435

どれでも同じ

俺は組み換えが好きだと書いたが、その原因はミニ四駆のせいだ。パーツは互換性があり、自分の意思で好きなように組み替えることが出来る。そして取り付けはネジとナットで行えるので簡単だ。もちろん同じ型番のモノは同じ部品として扱うことが出来る。同じキットを複数用意して対応する部品を交換しても、ちゃんと組み立てる事ができる。そして走らせられる。よくできたオモチャ*1だ。

そんなことは当たり前じゃないかと言いたくなるだろうが、18世紀では驚愕すべきことであった。その発端はフランスで開発されたマスケット銃にある。それは『互換性』を持っていた。当時のマスケット銃を始めとする工業製品は同じ機種でも互換性がなく、組み立てる際には各部品をヤスリがけすることで形を合わせていた。そこに互換性のある銃が登場したのだ。そしてこの情報は軍備拡大を目指すアメリカへと伝わる。そしてこのような実演会が行われた。

マスケット銃の発火装置を一〇個ほど用意し、それを一つのマスケット銃に装着していく。それらはネジ回し一つで難なく組み立てることができた。次期大統領となるジェファーソンは感激した。

このパフォーマンスはジョブズがiPhoneを発表した時より衝撃的であったのだろう。ここから「アメリカ式製造法」が生まれ、大量生産の道を突き進む。

1/35 アメリカ中戦車 M4A1シャーマン(中期型)

そしてこの大量生産を実現するために必要な物が2つある。それが『機械化』と『規格化』だ。この本では様々な物を対象にこの2つについて語っていくのだが、これが非常に面白い。

人の手で作ると品質にブレがある。そのため機械で作る必要があるのだが、それがすんなりといかない。例えば元込め銃の量産化では「部品製造の道具を製作する機械を作るだけで数年を費やしてしまう」ほどだ。銃そのものが出来るのはいつになるんだよと突っ込みたくなる。しかし一度機械が完成してしまえばこっちのもの。そのメリットは互換性だけではない。歩留まりは向上するし製造スピードも格段に上がる。銃床では人が手作業で作ると1時間かかるのに対し、機械ならば1分で済む。機械化バンザイ。

そして規格化。現代では物を作るにはまず設計図を描くのが基本だが、これは19世紀になってからできた習慣だ。理由は簡単、それ以前はせっかく設計図を描いてもその通りに部品が作れないから。そして機械化でそれができるようになると規格が必要になる。そして揉める。ネジなどの部品は共通の規格を作ったほうが互換性があって便利だが、どのメーカーも自分が作っているのを規格にしたい。それで揉め事を収めるためにイギリスではネジ山の角度を平均値の55度にする。一方アメリカは作図が簡単で合理的な60度を選ぶ。

オウルテック FAN固定用ネジ20~25mm厚用 OWL-NEJI12

だれでも同じ

機械化と規格化によって互換性が生まれ、生産性も格段に上がる。そんなメリットがあるというのに反対する不届き者たちがいる。職人達を始めとする技能者だ。もうどの話を見ても必ずと言っていいほどこの手の反対勢力が登場する。マスケット銃でもそうだし、コンテナでもそう。今までは職人芸が必要で重宝されていたが、機械化してしまうと技能を持たない保守点検員で用が足りる。機械によって職を奪われていく。さらに作業者として工場に残れた人間にも新たな不満が生まれる。工作作業それ自体の標準化だ。

機械が製造の中核に据えられると人間も機械に合わせることになる。そして規律が求められるようになる。今までその技術故にかなり自由気ままな振る舞いが許されてきたが、これからは違う。職場環境のスローガン『5S』に『躾』があるように、決められたルール・手順は正しく守らなくてはいけない。もし守らないのであれば罰則、そして解雇。別にそれで問題ない。代わりはいくらでもいる。

そしてこの流れでフレデリック・テイラーが登場し、作業方法についてありとあらゆるパラメータを指定していく。科学的管理法がもたらされ、生産現場の近代化が始まる。この後も作業方法の最適解が求められ、箸の上げ下ろしにまで口を入れる勢いで手順が決まっていく。このへんは読んでいて苦笑いしてしまう。確かに方法は合理的だ。実際に今ではどこの製造業もそうしている。でもこれ人間を有機物な工作機械としかみなしてない。機械化と規格化はモノだけではなく人間にまで適用されていくのだ。

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標準は戦争で決まる

そういうわけで機械化と規格化への道は簡単ではない。莫大な初期投資、利害関係による不統一、作業者の反発などなど。しかしそれを一気に進めるものがある。それが戦争だ。戦争は技術を発展させると言うが、機械化と規格化も一気に進める。事の発端がマスケット銃なのも偶然ではない。

戦争では武器にしろ道具にしろ次々壊れる。そのため量が求められる上、修理も求められる。そのため同じものを大量生産するのが合理的だ。そのほうが管理も楽だし、修理も部品交換で済む。さらに緊急事態なのでいがみ合っている場合ではない。国が「これ」と決めたらそれで終わりなのだ。そしてそれは最も合理的な選択。感情が入る隙間など無い。

このように米国内で規格が決定され、実施されるにあたっては、第一次大戦が一つの大きな契機になっている。

もうこればっか。何か画期的な方法を誰かが思いつく。そして既存勢力の反対にあって普及が進まない。戦争勃発で一気に広がる。これの繰り返し。人間やばくならないと変わろうとしないが、これは国レベルでも同じこと。人を合理的にさせたければピンチに追い込むしかないようだ。

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互換性の素晴らしさ

こうやって歴史を振り返ると互換性の素晴らしさにあらためて気がつく。規格を決めることによって柔軟性は失われるが、簡単に交換できるというのはそれを無視できるほどのメリットだ。むしろ状況に応じて簡単にカスタマイズができるようになることを考えると、柔軟性すら上がっているとも言える。

そう考えていくとミニ四駆は互換性を学ぶ教材として優れている。子供でも遊んでいる内に互換性がどういうものか理解でき、そのメリットを享受できる。そして何よりネジで組み立てる車というのがいい。大量生産の象徴だ。

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*1:正しくはオモチャでなくホビー