本しゃぶり

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「おすすめの本を教えて」という雑な質問に対する解

「おすすめの本を教えて」という雑な質問がある。
趣味や目的などの前提を抜きに訊いてくるやつだ。

そういう相手には本をぶつけて反応を見るに限る。

人に本を勧めるのは難しい

『ゆる言語学ラジオ』#59で、「人に本を勧めるのは難しい」という話があった*1

これはYou Tubeやブログでやるような、不特定多数に向けた話ではない。一対一の対人戦の話だ。面識はあるが、どういう本を読んでいるかは知らない。そもそも読書習慣が無さそう。そんな相手から「おすすめの本を教えて」と訊かれたら身構えてしまう、と。

その気持ちは実によく分かる。本を勧めることは問題ない。問題なのは、どのような本が最適かは人によって異なることである。さら言えば、同じ相手でも何を求めているかによって、勧めるべき本が変わってしまう。読書の習慣がある人ほどそのことを理解しているので、コンテキストの無い「おすすめの本を教えて」で困るのだ。

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「教えてもいいが、その前に1つ質問いいか?」/ Philippe de Champaigne, Public domain, via Wikimedia Commons, Link

だからといって動画でも言われているように、前提を確認するために質問を連発するのは悪手だろう。そうすると質問はすぐに『拷問』に変わる。ちょっと面白い本を知りたいだけなのに、なぜ多くの質問に答えなければいけないのか。これは相手の求めている回答ではない。

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質問連発が許されるのはアキネイターぐらいだろ

ではどうしたらいいのか。そこで俺が使っている方法を紹介する。この方法を使う前提は以下となる。

  • 日常会話など1対1の場
  • それなりに面識のある相手
  • 相手の読書習慣、本の好みは知らない
  • 好印象を与えたい

問と解を兼ねる

俺の基本戦術は「本を紹介することを質問とする」というものである。その時に使う本は「ベストセラー」で、「次に繋げられる」のが望ましい。例を示しながら説明しよう。

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http://www.mojimaru.com/talk/

素晴らしい、いきなりおすすめ本が紹介された。アキネイターなら煉獄杏寿郎を出すのでさえ、8回も質問する必要があったというのに*2

もちろん『FACTFULNESS』が相手にとって良い提案であるとは限らない。しかしそれでいい。この提案は本命ではないからだ。俺の目的は射弾観測にある。

射弾観測(しゃだんかんそく)は、火砲から発射された砲弾が落着、あるいは曳火破裂した位置が目標に対してどのような位置関係にあったか、また、その効力を観測することである。弾着観測とも。
射弾観測 - Wikipedia 2021/10/03 18:05

本をタイトルだけ紹介されてすぐに買う人はめったにいない*3。普通は質問を返すだろう。「どんな内容の本?」というように。そうしたら内容を簡単に説明して反応を見る。これによって相手に求める方向性がある程度分かるはずだ。

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http://www.mojimaru.com/talk/

もし相手が『FACTFULNESS』を読了しているのであれば、むしろ好都合だ。より本書が基準として機能するからである。本書に対する評価はどうか、似た方向性の本がいいのか、それとも全然違うのかがいいのか、など。とりあえず1冊提案をした後なので、質問で要求を深堀りしていっても不快感を持たれにくい。

初手がベストセラーであることは、読了済みである確率が高いので良い。もし読んではいなくても、紹介記事などで内容について知っているかもしれない。それでも全く知らないよりはマシだ。射弾観測をするには、マイナーな本よりも有名な本の方が適切である。

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Lance Cpl. Immanuel Johnson, Public domain, via Wikimedia Commons, Link

もう一つの条件である「次に繋げられる」というのも、射弾観測に関係する要素である。『FACTFULNESS』を選んだのは、俺が本書に近い本、つまり「思い込み」「データ・エビデンス」「貧困」などの要素を持った本をある程度知っているからである。そのため『FACTFULNESS』に対して肯定的な反応が返ってきた場合、その内容に応じて次の手を打つことができる。

ちなみに『FACTFULNESS』からの次の手としては『貧乏人の経済学』が第一候補となる。どうしたら貧困問題を解決できるかを様々な実験や比較から検討する本だ。もちろん『FACTFULNESS』のどこに惹かれたかで勧める本は変わるのだが。

ベストセラーでも自分が詳しくない分野、特に読んだことのない本は不適切である。せっかく反応が返ってきても、次に活かせないからである。それに自分が理解していない本を勧めるというのは、ちょっと無責任ではないか*4

なお、ここまで『FACTFULNESS』が選ばれない前提で話を進めてきたが、別に選ばれてしまっても構わない。そうなっても良いように、世間的にも自分的にも評価の高い本を選んだのである。

Kindle月替りセールでやるなら

初手の例として『FACTFULNESS』を挙げたが、シチュエーションによっては他の本を使うこともあり得る。試しにKindle月替りセールの対象*5から選んでみるとする。

相手が上司の場合

訊いてきた相手が職場の人間、それも上司の場合であるならば、俺は実用性を兼ねた本を紹介する。今月のセール対象ならば『多様性の科学』だ。

なぜ組織には多様性が必要なのか、様々な研究や逸話を用いて説明する本である。弊社でも年々「多様性」や「ダイバーシティ」といった用語を見かけることが増えている。チームに多様性が必要な理由を知るのに本書は最適だ。

本書の場合は、わりと最初から当てることを狙った選択である。それなりに売れている本ではあるが、今年発売なので相手が読んでいる確率は低い。だが仕事に直結するという点で、射弾観測に十分使える。相手が求めているのは実用的な本なのか、それとも娯楽作品なのか。その判断に使える。

本書を読んで反応が良ければ、次に勧めるのは著者が同じ『失敗の科学』だろう。

もし多様性と予測の話に興味を示していたら『超予測力』もいいかもしれない。

読書に慣れていそうな場合

相手が読書に慣れていそうな場合は超ベストセラーの『サピエンス全史』をまず持ってくる。

本書は射弾観測に最適な本と言える。読んでいる確率が高いし、俺にとって次に繋げやすい。内容も面白いからそのまま選んでもらっても大丈夫。

これから次に繋げるなら、同じく今月のセール対象である『ホモ・デウス』が筆頭に挙げられる。これも読んでいたらセール対象外になるが『21 Lessons』とハラリ攻めを続ける。

人類の進化に興味を持ったのならば、『人体六〇〇万年史』も次の手として使える。本書は上下で語る内容がガラッと変わるので、どちらが好みだったかでさらに次の手を打ちやすくなる。

面白さを求める場合

役に立つよりも娯楽性を求めていそうな場合は、本しゃぶりでおなじみ*6『仁義なきキリスト教史 』を選択する。

本書を読んでいる確率は低いだろう*7。だが俺の趣味ど真ん中の本なので、本書が合わないなら俺にお勧めを訊くのが間違っていることになる。したがって俺の射弾観測に向いた本であると言える。

もちろん次に読むべきは『仁義なき聖書美術』ということになる。特に旧約篇はキリスト教史と被らないのが良い。

このまま架神恭介の本を紹介し続けてもいいが、別の著者の本も紹介しておこう。『仁義なきキリスト教史 』を読んで、実際のイエスについて興味を持ったなら『イエス・キリストは実在したのか?』がお勧めだ。イエスは大工というより、日雇い労働者と言った方が実情に近いらしい。本書を読むと『仁義なきキリスト教史 』のイエス像が意外と正しい気がしてくる。

終わりに

特定の相手にお勧めの本を選ぶのは難しい。相手の情報が不足しているのならなおさらだ。しかし、難しくしている要因の一つは、一発で正解しようと考えていることにあるのではないか。

あまり本を読まない人ほど、自分がどのような本を求めているのか分からないものである。ならば情報を得るには具体例を出すのが一番いい。そうすれば相手は、その例を基準に語ることができる。結果的に手間は質問攻めにするのと変わらなくなるだろうが、こっちの方が気分良く会話が続くはずだ。

顧客は現物を見ることで、初めて自分が求めていたものを知る。これは全てに通じる話だ。

ゆる言語学ラジオ関係の記事

最近、以下のようなツイートをしたが、俺の方がPodcastをネタに記事を書いている。逆だったかもしれねェ…

*1:話しているのは54:20あたりから。

*2:2021/10/03 n=1確認。なお煉獄杏寿郎 (鬼滅の刃)は2021/10/02のデイリートレンドである。

*3:いたら本しゃぶりを紹介してほしい。

*4:もっとも、本の内容を「完璧に理解した」というのはまずありえないので、「理解」という言葉をあまり深く受け止められても困る。ここでは読了済みであり、内容を自分の言葉で語れるぐらいの意味で捉えて欲しい。

*5:記事執筆2021/10/03時点。

*6:引用回数の多い本で価値観が分かるという説で8回となり、同率2位だった。

*7:本しゃぶりの読者ならば読んでいるはずだが。