もし女子高生が「南極へ行く」と言い出したらあなたはどう応えるか。
その模範解答をここに示す。
宇宙よりも遠い場所
また聖地巡礼の難易度が高いアニメが始まった。今度の聖地は南極である。
この作品は普通の女子高生が南極を目指すところから始まる。
主役の一人である小淵沢
周囲からは無理だと言われており、今ではそういった人たちを見返すのも理由の一つとなっている。
もう片方の主役である玉木マリは、ただぼんやりと日々を過ごしてきた普通の女子高生だ。高校生になったら「あてのない旅に出る」とか「青春する」とか考えていたが、何もしないまま2年生になっていた。こういう奴はよくいる。
彼女は報瀬の熱意に当てられ、南極へ行くという夢を応援することになる。流れ的にこいつも南極を目指す(はず)。
さて、1話を見てふと考えてしまった。もし知り合いの女子高生*1が「南極へ行く」と言い出したらどう応えるべきか、と。相手は無理だとか無駄だとかいった言葉は聞き飽きているだろうから、そんなことは言いたくない。どうせなら前向きな回答をしたいと思う。なので真剣に考えてみることにした。
ツアーで行く
単純に手っ取り早く「南極へ行くだけ」ならツアーがいいだろう。これなら金とパスポートがあれば何とかなるはずだ。幸い報瀬は既にバイトで100万円貯めている。
日本からのツアーでは10日〜2週間のクルーズが一般的で、ざっくり100万円〜150万円が相場のようだ*2。これならば報瀬はもうちょっとバイトすれば達成できる。これがチリやアルゼンチンからのツアーだと、ものによっては50USドルというのもある*3。ただしそこまでは自分で航空券を取る必要があるが。
行く時期としては南半球の夏がシーズンなので、冬休みに行くのがいいだろう。これならば学校を休む必要がない。
というわけで「南極へ行くだけ」なら報瀬は現実的なレベルにいると言えそうだ。マリは働け。
ただし、これだとあくまでも行っただけであり、あまり周囲を見返すことにはならない気がする。とはいえ南極に行くのは1回だけという決まりも無いわけで、とりあえず目的地を確認するという意味ではいいのではないだろうか。
南極地域観測隊で行く
ツアーだと南極に滞在とはならない。では母親と同じく南極地域観測隊の一員として行くというのはどうだろうか。
軽くググってみたら観測隊には学生も参加している。ただし博士課程の人だが。
星野聖太さん(大学院博士前期課程1年)が南極観測隊に参加 | 北見工業大学
したがって教員が生徒から「南極へ行きたい」と言われたら、この道を勧めるのが合理的だ。これならば、まずやるべきことは大学受験ということになり、教員としての知識で対応できる。せいぜい南極観測隊への参加実績がある大学を調べるくらいで済むはずだ。
また、これならば費用も基本的に学費がメインとなるのも見逃せない。南極へは仕事として行くのだから自分で支払うのは最低限で済むはずだ。渡航費と滞在費がどこから出るのかは知らないが、少なくともバイトでどうこうするという話ではないだろう。
行った人に聞け
さて「ツアー」と「南極地域観測隊」という二つの選択肢について説明したが、この二つには根本的な問題がある。それは本来の目的である「母親の遺品捜索」ができないということだ。
ツアーは言わずもがなであるし、南極地域観測隊だって仕事で行くのだからフラフラと辺りを探索し続けるわけにもいかない。ではどうしたらいいのだろうか。
そもそも俺が適切なアドバイスをするということに無理がある。なぜならば俺は南極へ行ったことが無いのだから。これは南極へ行くことに反対している周囲の人たちも同じだ。みんな反対して当然なのだ。行ったことが無い人は「行かない理由」があるのだから。口から出るのもそれである。
ならばやることは一つ。南極へ行ったことがある人に話せば良い。行ったことがある人は行き方を知っている。
というわけで今ならこの人に相談するべきだろう。冒険家の荻田泰永だ。
彼は日本人で初めて南極点無補給単独徒歩到達に成功した人である。2018年1月7日に。
ど素人から極地冒険家へ
俺が荻田さんを出したのは、南極へ行ったばかりという以外にも理由がある。
まず荻田さんが冒険家であるということ。もともとこの人は北極圏における単独徒歩行を取り組んできた人である。したがって極地におけるサバイバル技術については専門家と言って良い。遺品捜索のために南極をさまようのであれば、テントでの寝泊まりが基本となるだろう。この人の体験談は間違いなく役立つ。南極ではホッキョクグマに襲われることは無くとも、テント内でガソリンをこぼして火災というのはありえる*4。そうした場合の対応を知っておいたほうがいい。
二つ目の理由として、荻田さんはスポンサー無しでの北極冒険をやっていたということ。さすがに今回の南極点到達や、2012年・2014年の北極点挑戦はかかる費用の桁が違うためスポンサー有りだが、それまでの挑戦は全てバイトで稼いだ金で行っていた。成人男性と女子高生では稼げる金額が違うとしても、バイトで用意できる金額でどこまで可能かが分かるのは大きい。
最後に、荻田さんは初めて北極に行くまで、海外未経験かつアウトドアど素人であったということ。この人は21歳の時、大学を中退してフリーター(orニート)生活をしていた。ある日見たTVで冒険家の大場満郎が「若者たちと北磁極までの700kmをソリを引いて歩く」計画を立てていることを知る。そこで停滞した毎日から脱出するために、自分も参加したいと手紙を出したのである。
そして大場さんらと北極を歩いた翌年、今度は一人でやってみようと単身北極へと乗り込む。このようにして荻田さんの冒険家人生が始まったのである。もっと詳しく知りたい人は著書を読みなさい。
このように、大場さんは「ど素人が日常から抜け出すために極地へ」ということを実際にやってしまった人なのである。ここまで参考になる人はそうそういないはずだ。したがってタイトルの答えはこうなる。
「ここから連絡してみたらどうだろう」
向こうも認識しているようだし。
他にも「宇宙よりも遠い場所」と言う女子高生が南極へ行くと言う内容のアニメが、本日からスタートします。
46日目終了 〜元日〜 - 荻田泰永 北極冒険家
終わりに
何か夢があり、それを周囲に反対された場合はどうすればいいか。無理にやるのも良くないが、かといってすぐに諦める必要はない。まずはやったことのある人に訊くのが一番である。そうすれば進むべき道が見え、自分に何が不足しているか分かるはずだ。
ということを荻田さんが南極点到達で使用したソリを作った*5植松電機の植松さんがよく言っている。
この人はその方針の下にまあ色々とやっている人*6なので、説得力が半端ない。なので俺もそれに従おうと思う。まずは経験者に訊く。全てはここからなのだ。
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アニメで夢を叶える方法について語る記事。
アニメにマジレスするタイプの記事。
*1:いないけど。
*2:地球の南の果て、南極点に行くには1千万! どうやって行くの | 仕事全般 | 内定・仕事 | フレッシャーズ マイナビ 学生の窓口
*4:荻田さんは2007年にそれをやっている。
*5:ソリの話:47日目終了 - 荻田泰永 北極冒険家
*6:ロケットエンジンの開発とか小型人工衛星の開発とか無重力実験塔製作とか。