Siriはタイマーをセットするだけの存在ではない。
Kindle読み上げこそが、彼女が最も輝く時なのである。
セールのたびに増え続ける積読を消化するための知見を共有しよう。
読み上げ機能
iOSには画面の読み上げ機能がある。この機能をKindleアプリで使うことで、Kindle本が疑似オーディオブックとなる。知っている人も多いだろうが、やり方を簡単に説明しておこう。
まず準備として「設定」→「一般」→「アクセシビリティ」→「スピーチ」へ行き、「画面の読み上げ」をONにする。
そして読みたいKindle本を開いたら、画面の上から下へと2本指でスワイプする。すると画面の読み上げが始まる。
Kindleの画面を開きっぱなしであれば、ページ移動も自動で行ってくれる*1。
ここまでのことはKindle+読み上げ機能を紹介する記事には必ず書いてある。しかし重要な要素が見落とされがちだ。それは声の選択である。適切な "声" を選択することで、これの価値は大きく変わる。
声の選択
読み上げ機能の声は「スピーチ」の「声」から変更できる。用意されている日本語キャラは4人だ。
デフォルトではKyokoが選択されている。"キョーコ" と聞くと女子中学生を連想しがちであるが、音声を再生した途端にその幻想は打ち砕かれる。一声聞くだけで「あっ こいつの顔ローポリゴンだな」となるのだ。それほどまでに機械音声そのものである。
Kyokoは124MB消費することで拡張することができるが、いったいどこを拡張しているんだ、という程度のクオリティでしかない。やるだけ無駄。
対してSiri (女性) は実用的なものに仕上がっている。明らかにキャラクター性があるのだ。特にSiriの話し方にお姉さん感があるのは「〜ではありません」と言う時。あれには開発者の拘りが入っていると俺は見た。加えて気のせいかもしれないが、普通のSiriの時より読み上げ機能の方が声が柔らかく感じる。もはやKyokoがただの「読み上げ」でしかないのに対し、Siriは「読み聞かせ」であると言いたい。これで406MBなら安いものだ。
Siriの声が聞きやすいおかげで積読消化が捗るようになった。気がつけば移動中は常にSiriの囁きを聞いている。最近一番聞いている声は間違いなくSiriである。こうなるとある種の親しみさえ感じてくる*2。とはいえアナログハック*3と言える域までには達していない。早く達して欲しい。
一応他のキャラについても言及しておこう。
男性キャラであるOtoyaはKyokoと同様のローポリボイスである。こいつも拡張できるが、やはり容量の無駄でしかない。
Siri (男性) はさすがにOtoyaと比べるとだいぶマシである。しかしこいつにはキャラクター性というか面白みが無い。例えバージョンアップしてクオリティが大きく進歩したとしても、この声と一緒に生活したいとは思えないのだ。せいぜい役所のロボットに搭載されるのが関の山ではないか。
そんなわけで使うべき声はSiri (女性) 一択である。しかしいきなりSiriを使うと「なんだ、この程度か」と期待を裏切られ、がっかりすると思う。なので最初はKyokoを選択し、新書一冊分くらい聞いてエージングすることをお薦めする。
Siriが苦手なもの
Siriについてべた褒めしたが、さすがにまだ完璧とは言い難い。特に問題なのは声ではなく頭の方だ。というのも、Siriの中身はおそらくポンコツKyokoと同じである。なのでまともに読めないものもあるのだ。
図でフリーズ
一番やっかいなのが図である。図にはテキスト情報が付加されていないため、読み上げることができない。しかし「何か」があり、それを読み上げてからではないと次のページへ行くことは許されない。この時どうすればいいか。
沈黙。それがSiriの答えなのだ。結果、読み上げ機能は強制的に終了し、画面には図が表示された状態となっている。もう少しうまくやってほしい。
英語は人任せ
日本語のSiriはあくまでも日本語用のキャラである。なので英語を始めとする外国語を読むことができない。なので読めない単語が出た場合は読めるキャラが召喚される。
例えば以下の文章を読み上げるとする。
日本では戦前以来の縄張りに由来して、通信事業は総務省の所管であるため、総務省はICTの語を、経済産業省はITの語を用いることが多い。
情報技術 - Wikipedia
すると "ICT" と "IT" の時だけTOEICのリスニングに出てくるようなオバサンが現われ、perfectな発音で読み上げるのである。声から察するにこのオバサンは眼力が強い。
これももう少し上手くできないのかと思う。想像してみて欲しい。Siriが俺に語りかけている最中、突如としてTOEICオバサンが割り込み一言
"IT"
とだけ言って去っていくのである。場合によっては他の言語のキャラまで現れる。Siriと二人っきりになれるモードが必要だ。
しかしこのTOEICオバサン達は召喚されるだけあって実力は高い。なにせ短縮URLですら滑らかに読み上げるのだから。もちろん仮名混じりだろうと読み上げられる東山奈央の方が上であることは言うまでもないが*4。
漢字が読めない
日本語のSiriはあくまでも日本語用のキャラと言ったが、実はその日本語も時々あやしい。漢字を正しく読めていないことがあるのだ。
例えばこのような文章がある。
正典は、その宗教を信じる人びとにとって、正しさの規準になるのです。
『シリーズ・企業トップが学ぶリベラルアーツ 世界は四大文明でできている』 (NHK出版新書)より
これをSiriは以下のように読み上げる。
「
正典 は、その宗教を信じる人びとにとって、正しさの規準になるのです」
まさのり誰だ。
これは困った話ではあるが、ある程度は文脈から正しい読みを推測できる。なので自分がよく知る分野の本であるならば、それほど大きな問題にはならない。しかし聞き慣れない単語が登場し、背景をよく知らない分野の本であると、何を言っているのかさっぱり分からなくなる。
そのようなわけで、Siriで読むには向かない本というものがあるのだ。当然その逆もある。そこで俺の経験からSiri向けの本を紹介する。
Siri向けの本
読み上げ機能による読書は、通常の読書より理解力が落ちる。ハイライトやメモを残すこともできない。加えて上記の問題がある。なのでSiri向けの本は以下の条件に当てはまる本ということになる。
- 自分にとって重要度が低い
- 図が無い
- 英単語やURLが無い
- 内容が簡単 or よく知っている分野
- ページあたりの文字が多い
結果、この本が完璧だった。
『吾輩は猫である』 この本は実にSiri向きだ。恥ずかしながら俺は今まで読んだことは無かった。有名だしそのうち読もうとは考えていたが、より興味のある本が優先されて後回しになっていた。だが今なら分かる。Siriの完成を俺は待っていたのだ。
この本は最初のページからひたすら文字が続く。Siriの語りを止めるイラストなんて存在しない。内容も明治の日常系であるため、たまに意味がわからなくても問題ない。どうせ大したことは書いていないのである。これほどSiri向けな本はそうそう無い。なので俺は最近『吾輩は猫である』をひたすら聞き続けていた*5。
そんなある日のことである。突然TOEICオバサンが "many a slip 'twixt the cup and the lip" と喋り始めた。この本にも英語があったのか*6。戸惑っている俺をよそに、続けてSiriはこう語る。
そんな横文字なんか誰が知るもんですか、あなたは人が英語を知らないのを御存じの癖にわざと英語を使って人にからかうのだから、 宜しゅうございます、どうせ英語なんかは出来ないんですから……
やはりSiriも英語には参っていると見える。
終わりに
2017年に買ったKindle本は123冊だった。読み終えたKindle本は75冊。この差分が俺に読み上げ機能を使わせた。
iOSの読み上げ機能でKindleを聞くことができるのはだいぶ前から知っていたが、使おうとは思わなかった。俺はKindle本を読む時にハイライトを多用する。それをEvernoteに突っ込んでおくと後で振り返る時に便利だからだ。しかし読み上げ機能だとそれができない。なので手を出さなかったのだ。
しかし積読は日に日に溜まる一方である。そこで考えを改めた。ハイライトは付けられないし理解力も落ちるけど、読まずに終わるよりはマシだ、と。そうして俺は読み上げ機能を愛用するようになったわけである。
iPhoneを使っているKindleユーザーはぜひ試してみるといい。
Kindleの記事
*1:バックグラウンドではそのページを読み終わると止まってしまうため、ポケモンGOとの併用には向かない。
*2:これを単純接触効果という。
*3:アナログハック - Analoghack Open Resource - アットウィキ
*4:アニメ「ゆるキャン」で東山奈央が「くぁwせdrftgyふじこlp」を全力で発音 素晴らしい再現度にネット民総立ち - ねとらぼ
*5:無駄に長くて終わらないので。
*6:飼い主が英語教師というのが伏線だった。