本しゃぶり

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聖地巡礼してマップをスクショする

聖地巡礼で撮るのは風景や建物とは限らない。
俺はスマホの画面を撮ることがある。

マップが虚構と現実の架け橋となるからだ。

地図の記録

はてなブログの今週のお題「カメラロールから1枚」とあるので、掘り返してみたら懐かしいのを見つけた。

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トルコでのスクショ

2015年にトルコへ行った時のスクショである。Google Mapsで自分の現在位置を確認し、記録としてスクショしたのだ。場所は北緯41° 14' 50.25" 東経32° 36' 2.628"にある、Baskoyという村である。

本記事ではこのスクショを始めとして、聖地巡礼におけるマップのスクショについて書く。時には風景の写真よりも、マップのスクショを撮る方が、満足感を得られるのだ。

パフラゴニアにて

上記のスクショを撮ったのは、『ヒストリエ』の聖地巡礼でトルコに行った時のことであった。『ヒストリエ』を知らない人のために説明しておくと、「これ」のマンガである*1

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『ヒストリエ』1巻

本作はディアドコイを主役とした歴史マンガであるだけに、「聖地」と呼べる場所は有名な場所が多い。トルコならイスタンブールやトロイ遺跡、ギリシアならアテネやペラのように。しかし作中で重要であるのに、実際の位置が分からない場所もある。「ボアの村」だ。

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ボアの村 /『ヒストリエ』3巻

村の名前の元ネタはともかく、場所については情報がほぼ無い*2。作中で語られる場所の情報は、ティオスの街*3から歩いて2日の距離であるのと、エウメネスの予想図だけだ。

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『ヒストリエ』3巻

このようなわけで、ボアの村は実在したのかさえよく分からない。しかし作中で重要な場所であることには変わりなく、せっかくトルコへ行くなら巡礼したい。そこで力技「場所を決め打ち」したのだ。

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力技

コマと地図を重ね合わせた結果、エウメネスの予想地点に最も近い村は Baskoy であることが判明した。そこで近郊の都市カラビュックまでバスで行き、そこから徒歩でBaskoyまで向かったのである*4

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Baskoyに到着

無事に目的地に到着したはいいが、そこで今更なことを思ってしまう。

「ここ、あまりボアの村っぽさ無いな」

この村は山の中にあるため、家屋が道にへばりつくように建っているし、樹木の数も多い。そのため景色が良くないのだ。

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したがって苦労してやってきた割には、ボアの村に来た感じがあまりしない。それも仕方がないだろう。最近のアニメの聖地だと、実際にロケをしたりストリートビューを元に描いたりしているため、作中と実際の景色はよく似ている。しかし今回は時代は2300年以上前を舞台としており、モデルが分かっている場所でさえ、作中と現実では大きく異る。その上ボアの村は完全に架空かもしれず、場所も力技で俺が決めたようなものだ。

そこで俺は視点を変えることにした。衛星から見たら、ボアの村にいることを実感できるのではないか、と。そこで撮ったのが、冒頭に貼ったスクショである。

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Baskoyでのスクショ

コマと重ねるとこうなる。

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だいたい合ってる

このような経緯があるため、風景写真よりもマップのスクショが重要である。旅行の目的が「ヒストリエ聖地巡礼」である以上、価値があるのは「聖地を訪れた」という「実感」を与えてくれるものなのだ。

バリエーション

このマップのスクショは、その場所について「風景」ではなく、「座標」が重要な時に価値を持つ。なので俺も聖地巡礼は何度かしているが、毎回スクショを撮っているわけではない。とはいえ、その後もやってはいるので、それについて簡単に紹介しておこう。

まず純粋に「座標」が重要で撮った例として、ジョジョの聖地巡礼として行った旧アッピア街道のスクショがある。

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上記地点の風景

アニメではカットされていたため、旧アッピア街道の情報は原作の上記シーンだけである。作中の街道は実際の街道と似てはいるが、風景まで完全に一致する場所はおそらく無い*5。なので「ローマまで南東12km」を再現することにし、実際に旧アッピア街道のローマの南東12km地点へ行ったのだ。

また、「点」ではなく、「線」を残した例もある。

これもまたジョジョ5部の話になるが、チャリオッツ・レクイエムはコロッセオからティベレ川岸を経由し、サンタンジェロ橋へと向かった。これは途中までは地図に示されている。

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『ジョジョの奇妙な冒険 カラー版 第5部 17巻』に追記

なので俺もコロッセオからサンタンジェロ橋まで歩いたわけだが*6、その時にApple Watchの「ワークアウト」を起動しておいた。これによってルートを記録するとともに、所要時間・道のり・消費カロリーなども残したのである。

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レクイエムのルートを歩いてみた

この場合は逆に、作中と現実の違いがはっきりと分かって、これはこれで面白い。作中ではあっという間だったが、実際にはこんなに歩く必要があるのか、と。

同じようなことはナポリに行った時もやっている。ナポリではアニメにおけるブチャラティとジョルノの追いかけっこを再現した。フニコラーレ (ケーブルカー) の駅からポジリポの丘までである。

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ブチャラティを追いかけるワークアウト

これはルートが作中で示されていないので、正しいと言えるのはスタートとゴールの地点だけだが*7、それでも特に問題はない。この時も知りたかったのは、作中と現実の違いだからである。

とまあ、このような感じで、俺はマップのスクショを聖地巡礼の記録に使っているのだ。

終わりに

ICOMOS (国際記念物遺跡会議) という文化遺産保護に関わる国際的な非政府組織がある。このICOMOSが1999年にメキシコで取りまとめた国際文化観光憲章には、「自然遺産と文化遺産には一般市民が物理的、知的、感情的にアクセスできるようにすべき」とある*8。観光は身体だけでなく、知識と感情も伴っている必要があるのだ。

聖地巡礼ならば、なおさら感情は重要であろう。巡礼は「作品の聖地に来たのだ」という実感があってこそだ。だからこそ手近にあるもの・使えるものは余さず利用し、実感を得るために全力を尽くす。それが巡礼者の心得であろうと俺は思う。その一例としてマップのスクショを紹介したわけだ。

いつもならばここで「さあ、皆もやってみたらどうだろうか」と続くのだが、残念ながらそのような状況ではない。なのでまあ、機会が来ればということで。

本文中で紹介したスクショの旅行記

このブログを余さず読んでいる人は分かっていると思うが、本文中で出したスクショは全てブログで公開済のものである。以下は各スクショが掲載してある記事だ。

*1:もうちょっとマシな説明を書いておこう。本作の主人公はアレクサンドロス大王の書記官エウメネスである。彼は大王亡き後に起きた後継者争い「ディアドコイ戦争」の主要プレイヤーの一人だ。史実のエウメネスはギリシア人で、マケドニアからしたらよそ者である。そんな彼がいかにしてディアドコイの一人になっていくのかという話。

*2:村の名前である「ボア」は、アッタロス朝の創始者フィレタイロスの母から取ったのだと思われる。このボアという母はパフラゴニア人である。ちなみにフィレタイロスの兄弟にはエウメネスがおり、そのエウメネスの妻の名前はサテュラだ。このエウメネスは『ヒストリエ』の主人公とは別人だが、ここまで名前が一致していると、キャラ名のモデルにしたとしか思えない。 フィレタイロス - Wikipedia

*3:現在の名称は "Filyos" となっている。 FİLYOS (TİOS) | Kültür Portalı

*4:バス乗り場から7.4kmなので行けると思った。実際は道のりの8割くらいを徒歩で行き、最後は親切なドライバーに拾われてBaskoyまで連れて行ってもらった。帰りはちょうどBaskoyからカラビュックへ行く人がいたので、それに乗せてもらった。

*5:ストリートビューを使っての俺調べ。

*6:正直に言えば、このルートは作中と異なっている。地図で示されている川岸まではいいのだが、問題はその後だ。レクイエムは橋に対して正面からやってきているので、川に沿って移動していたのではない。なお、アニメ版は川の方へ曲がる場所が原作と違っており、完全にワープしているため再現できない。

*7:正確に言えばスタート地点は作中と異なる。走行中のフニコラーレから飛び降りるわけにはいかなかったので。

*8:International Cultural Tourism Charterの1.1を参照。