海馬の容量が足りなくて困ったことがあるだろう。
今すぐ電子メモパッドを手に入れろ。
電子メモパッド
今さら電子メモパッドを買った。タイムセールで1572円のクソ安いやつを。
これはディスプレイが感圧式で、文字や絵を描くことができる。そしてワンクリックで描いたものを全消去できる。耐用回数は約10万回。なのでこんな感じにちょっとしたメモを書くのにぴったりだ。
ところで俺はこの電子メモパッドという存在について、2010年から知っていた*1。しかし、今に至るまで買っていなかった。機能があまりにもシンプルで分かりやすいため、逆に真の価値が分からなかったのである。
それがちょっとしたきっかけで買ったところ、手放せなくなった。今となっては第二の海馬である。
第二の海馬
かつてEvernoteは「"第二の脳" を目指す」と謳っていた。「あらゆることを記憶する」という意味である。しかし「記憶」という機能だけを見ても、これは脳の働きの一部でしかない。Evernoteが”第二の脳”として働くのは「古い記憶」を保存する場としてだけなのだ。そして電子メモパッドは「新しい記憶」を保存する場として活躍する。
脳の仕組みを単純化すると、記憶は2つに分けられる。「新しい記憶」と「古い記憶」だ。新しい情報が入ってくると、それは「新しい記憶」として一時的な保存がされる。その後に整理整頓され、必要とされたものが「古い記憶」として長期的な保存がされるのだ。
この「新しい記憶」を保存する場所が大脳辺縁系にある海馬である。
By Henry Gray (1918) Anatomy of the Human Body (See "Book" section below)
Bartleby.com: Gray's Anatomy, Plate 739, Public Domain, Link
新しいことを記憶しようとする度に、情報はこの海馬で保存されるのだ。しかしこのシステムには一つの問題があった。それは一度に多くのことを覚えられないということである。
「マジカルナンバー」という言葉がある。これは人間が一度に覚えられる情報の数のことである。1956年、心理学者のジョージ・ミラーは論文の中で、聞いたことを直後に再生するならば、日常的なことだと7±2個しか覚えられないと述べた。さらに2001年に心理学者のネルソン・コーワンは、4±1こそが本当のマジカルナンバーだと論文で述べている*2。
この問題を電子メモパッドが解決する。情報の数がマジカルナンバーを超える前に、電子メモパッドに記録するのだ。その際、電源を入れて起動を待つなんて悠長なことはしなくていい。ただスタイラスを手に取れば後は書くだけだ。これにより海馬の限界を超えた数の情報を残しておくことができる。まさしく "第二の海馬" である。
By Hippocampus_and_seahorse.JPG: Professor Laszlo Seress
derivative work: Anthonyhcole (talk) - Hippocampus_and_seahorse.JPG, CC BY-SA 3.0, Link
だが、過去の俺がそうだったように、メモをとるためなら電子メモパッドに拘る必要はないと思う人も多いだろう。紙でいいじゃないか、と。それは違う。紙には不足しているものがある。それは制約だ。電子メモパッドはその制約の強さゆえに "第二の海馬" として機能するのである。
制約による効果
電子メモパッドにはページやスクロールという概念はない。保存機能も無い。そして描いたものを部分的に消すことはできない。つまり書き込める量は画面サイズに限られるのだ。このような制約があるため、電子メモパッドは描いた内容を短期間で消すことを求める。
しかし情報によっては長く残しておきたいものもある。そういう時こそEvernoteなどに記録すればいいのだ。普通に書き写してもいいし、写真を撮って残してもいい。後で使いやすい形態を選択するのがベストだ。ちなみに先程のメモをScannableで撮影するとこうなる。
このように電子メモパッドは長期的な記録に向かないことで、使用者は情報の整理を行うことになる。情報の一時的保管と整理。まさしく海馬の働きである。
これが紙だったらどうだろう。鉛筆やフリクションで書いていたら部分的に消すことができるし、ノートなら次のページに書くこともできる。そのため電子化するインセンティブが弱い。そうして後でやればいいと放置しているうちに記憶が薄れ、必要になった時に「あれどこに書いたっけ」となる。検索できないからだ。
したがって制約の強い電子メモパッドの方が、情報整理という観点で紙よりも優秀である。これは実際に使ってみないと分からないことだった。使った今ならその価値が分かるため、最近は職場で電子メモパッドの伝道師と化している。そして布教していて気がついた。導入コストが非常に低いということに。
ユニバーサルデザイン
サービスにしろガジェットにしろ、新しいものを他人に使わせることには困難を伴う。多くの人は現状にそれほど不満を持っていない。少なくとも将来のために短期間大きなコストを支払うより、小さなコストを長く支払い続ける方を選択するのが多数派だ。マキャベリが言うように、人間というものは新しい事物を長く経験してからでなければ簡単には信じないのである*3。
だが電子メモパッドはその導入コストが低いのだ。本体価格がという話ではなく、使うために覚えることが少ないのだ。電子化に縁の無い、年配の人にだってすぐに使える。なんなら "彼" でさえ簡単に使いこなせるようになるだろう。
彼らはタブレットとスタイラスで記録していた。
電子メモパッドと同じである。
このように電子メモパッドは5000年前から続く筆記方法であるため、教育コストがゼロに近い。使っているところを見せればそれでいいのだ。しかもメンテナンスも電池交換くらいである。そろそろ欲しくなってきただろう。
欲しい要素
電子メモパッドはどれも似たようなものであるが、押さえておきたい点というものはある。なのでしばらく電子メモパッドを使った経験から、買うならこの辺を気にしたほうがいいという点を説明する。
1. ロック機能
消去ボタンを押しても画面が消えなくなる機能。これは必須。誤って消去ボタンを押してしまうということは想像以上にある。ふと手に持った時に押してしまい、書いた内容が一瞬で消えてしまった。
それからというもの、俺はロック状態をデフォとして運用している。うっかり消してからでは遅いため、ロック機能があるのを選ぶべき。
2. 表側にスタイラスを収納できる
俺の買ったやつはスタイラスを裏側に収納するようになっている。このせいで電話中のメモがやりにくいのだ。片手が電話でふさがっているため、片手でパッドを裏返しスタイラスを取り、また片手でパッドを裏返さなくてはいけない。パッドを裏返すことなくスタイラスを取れる機種を勧める。
3. 大きな画面
俺のは10インチだが、もう一回り大きい12インチの方が良かった。先にも書いたとおり、電子メモパッドに書ける量は画面の大きさで決まる。小さい画面だとすぐにいっぱいになり、全てを消さなくてはいけなくなる。なので大きい方が多くの情報をプールできるので使いやすいのだ。
タブレットだと10インチ以上ともなると重くなるというデメリットがあるが、電子メモパッドは軽いためそれほど負担にならない。値段もたかだかしれているのだから、思い切って大きいのを買うべきだ。
全てを兼ね備えたやつ
上記の3条件を満たしている機種は存在する。例えばこれ。
もし今使っているのが壊れたら俺はこれを選ぶ。ただ実際に触ったことは無いため、俺の知らない問題はあるかもしれない。
2018/07/03 追記
実物を触る機会があったので感想をメモ。
- やはり大きいのは正義
- 俺のやつより薄い
- そのせいでスタイラスが扁平な形状になっていて使いにくい
- スタイラスの収納がスライド式なので、片手で取り出しやすいとは言えない
- 画面ロックも俺のやつよりスライドしにくい
一長一短と言ったところだが、総合的に考えるとやはり大きいのは正義という結論になる。
終わりに
以上のように電子メモパッドはとても優秀なガジェットである。気になったら試してもらいたい。
ところでタブレット+スタイラスというと、新しいIPadでApple Pencilが使えるようになったことが記憶に新しい。なので最後に電子メモパッドとiPad + Apple Pencilの比較表を載せる。電子メモパッドは俺の買ったやつで、iPadは9.7インチ32GBのWi-Fiモデルだ。
電子メモパッド | iPad + Apple Pencil | |
---|---|---|
価格 | 2,038円 | 52,488円 |
ディスプレイサイズ | 10インチ | 9.7インチ |
重量 | 185g | 490g |
バッテリー | 約2年間 | 最大10時間*4 |
ロックキー | ○ | × |
ペン収納 | ○ | × |
システム条件 | 不問 | Apple ID, インターネットアクセス |