本しゃぶり

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2020年下半期に読んで面白かった本5選

2020年が終わった。
忘れないうちに下半期に読んだ中からおすすめの5冊を紹介する。

【目次】

2020年下半期に読んだ本

お題「#買って良かった2020」に便乗して、2020年下半期に読み終えた中から良かった本を5冊紹介する。上半期に読み終えた本については既に記事を書いたので、最後にリンクを貼っておく。

2020年下半期に読み終えた本は50冊。上半期は41冊だったのに対して、後半はペースを取り戻した感じがある。

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2020年の読了数推移

やはりお勧め本を5冊紹介しようと思うなら、これくらいは読んでおきたい。それでは紹介を始めよう。

『セガvs.任天堂 ゲームの未来を変えた覇権戦争』

セガ vs. 任天堂――ゲームの未来を変えた覇権戦争(上)

セガ vs. 任天堂――ゲームの未来を変えた覇権戦争(上)

上下巻だがこれは1冊とカウントする。U-NEXTで独占配信しているドキュメンタリー『セガvs.任天堂/Console Wars』の原作だ。

主人公はセガ・オブ・アメリカ (SOA) の社長となったトム・カリンスキー。ハードもソフトも基本的に日本で作られるため、彼は徹底してマーケティングの世界で戦う。

「売り方次第でこうも変わるのか」というのが正直な感想である。カリンスキーがSOAの社長に就任した時、アメリカのゲーム業界は任天堂の独壇場だった。アタリショックでゲーム業界の大量絶滅が起きた後、任天堂はその徹底した品質管理で勢力を広げていく。結果、アメリカにおけるビデオゲームのシェアは90%を占めるに至った。カリンスキーはそんなゲーム界の帝国に勝負を仕掛け、セガの市場シェアを3年で5%から55%にまで伸ばすのである。

カリンスキーの物語を読んでいると、ハンニバル・バルカを思い出す。大国に攻め入り、大胆な奇襲を駆使して局地戦に勝利。破竹の勢いで瞬く間に勢力図を塗り替えていく。しかし本国との折り合いがつかず、最終的には足を引っ張られる形で敗北し、トップの座を降りる。やはり勝利を維持し続けようと思うなら、上流から下流まで自らコントロールする必要がある。生殺与奪の権を他人に握らせてはならない。

本書が物語として優れているのは、徹底してマーケティングの話だからかもしれない。最初に述べたように、ゲームを作るのは日本なのでカリンスキー達SOAはハードもソフトにほとんど関わることができない。できることは「どう売るか」である。配られた手札でいかにして戦うか、ゲームは制約があるからこそ面白い。

次の本もマーケティングの話から物語は始まる。マーケティングの戦いに敗北したフォーマットが全てを変えた。

『誰が音楽をタダにした? 巨大産業をぶっ潰した男たち』

mp3の歴史を解説した本。mp3の開発から始まり、メインはインターネットでの海賊版音楽の興亡の解説となる。当初、技術力で勝っていたが政治で規格競争に破れたmp3は、違法コピーのデファクトスタンダードとなったことで、主流へと上り詰めた。

この本の良いところは、やはり違法コピー集団の内側をがっつり書いているところだろう。みんなが好き勝手にコピーを上げているのではなく、分業され、規律の下に活動している。こう聞くと普通の組織と変わらないが、違法コピー集団はメンバーが互いのことを知らないことに特徴がある。相手の名前どころか、人種や住んでいるところも分からず、会ったことは一度もない。にも関わらず、そこには一定の秩序があった。そして組織間の競争も。

日本で違法アップロードの組織ネタと言えば「ひまわり動画」の小豆梓周りのネタがあるが*1、本書を読むとアレもネタとは言い切れなくなる。もしかしたらコピペで出回る以上に、実際は組織的に効率よく違法アップロードがされているのかもしれない。

そんな「組織」に属しているメンバーは全力でリークに邁進した。手持ちの曲を上げるだけではない。CDの工場で働く従業員が、発売前のCDを盗み出しアップするのである。本書の主人公の一人であるデル・グローバーにいたっては、工場の管理職になっても盗みをやめなかったほどだ。なぜ彼らはここまでするのか。最初は無料で音楽や映画を手に入れられることが理由だったが、いつしか手段は目的に変化した。彼らはリークに「やりがい」を感じていたのである。

外部から見ると愚かな行動に思えるが、当事者にとっては行うだけの価値がある。これは何も犯罪に限った話ではない。貧困においても当事者にしか見えないインセンティブが存在する。

『貧乏人の経済学――もういちど貧困問題を根っこから考える』

どうしたら貧困問題を解決できるのか、様々な実験や比較から検討する本。「銀の弾丸」を提示するのではなく、実情を踏まえた上で現実的かつ効果的な話を展開する。

本書の良いところは、実際に貧困に苦しむ人達を取材し、彼らがどのように考え、行動しているかを調べた上で語っていることだ。貧困者は一見すると不合理な選択をしている。例えば、モロッコではレンガで貯蓄する人たちがいる。彼らは余剰金が生じたらレンガを購入し、少しずつ家を建築することで財産を形成していくのだ。普通に考えたら中途半端にレンガを購入するのは不合理である。レンガは金と比較して利便性が低く、劣化することで価値が低下してしまうからだ。なぜ彼らはレンガで貯蓄するのか。

まずレンガは自分の敷地で保管することになるので、銀行の高い手数料を支払わずに済むメリットがある。また、レンガは建築以外の用途に使えないので、無駄使いしなくて済む。貧困層が一見すると不合理な選択をするのは彼らが愚かだからではない。そうするだけの理由があるからなのだ*2。このように貧困者が何を求め、なぜそのように振る舞うのか。それを調べた上での提言なので説得力がある。

貧困から抜け出せないメカニズムをこうやって解説されると、貧困問題の解消に「銀の弾丸」は存在しないと思う。この手の話の論争の一つに「需要供給戦争」がある。貧困地域を発展させるのに必要なのは何かという話で、「需要(産業)」を重視する人と「供給(援助)」を重視する人がいるのだ。本書の結論は「状況に応じてどちらも重要」である。その例として教育の話が分かりやすい。

高い教育を受けてもそれを活かす仕事が無い場合、必要なのは需要(産業)だ。実際、村にコールセンターができたことで若い女性の雇用が増え、3年後に女児の就学率が5%上昇した例があった。一方で、需要で解決しない場合もある。教育の価値を認めていない親や、子供が成人した時の稼ぎは自分に関係ないと考えている親にとって需要は意味をなさない。彼らに効果的なのは、教育がすぐに財政的な価値を持つような供給(援助)というわけだ。

このような感じで貧困問題の根深さを見せつけると共に、状況に応じた解決策をエビデンスと共に提示していくので本書は面白い。ただ、一点だけ引っかかるところがあった。

社会心理学者のクロード・スティールは、「ステレオタイプの脅威」なるものの力をアメリカで立証しています。
アビジット・V・バナジー,エスター・デュフロ. 『貧乏人の経済学 もういちど貧困問題を根っこから考える』 (Kindle の位置No.2018-2019). Kindle 版.

原書が出版されたのは2011年だから……

『生命科学クライシス』

いかにして生物医学分野で「再現性の危機」が生じるかを解説した本。この分野特有の問題もあるけれど、基本的な構造は他の分野でも言えること。例えば社会心理学とか。本書を読むと、発表されたばかりの研究で一喜一憂するのは止めたほうがいいと分かる。おかげで『LIFE SPAN』*3を素直に楽しめなかった。

本書で学んだことは基本的に前回の記事で書いたのでこっちを読んで欲しい。これを読めばなぜ「ステレオタイプの脅威」に引っかかったのかも理解できる。

そして最後に紹介する本は、この記事のブコメで紹介された本である。

9割の人が知らない再現性の危機 - 本しゃぶり

<a href="/honeshabri/">id:honeshabri</a>さんにはぜひマンスキー「データ分析と意思決定理論」<a href="https://amzn.to/3opeZ64" target="_blank" rel="noopener nofollow">https://amzn.to/3opeZ64</a> を読んでほしい。P.18 &quot;政策分析には信頼できない強い仮定を置いて強い結論を導出する傾向がある&quot; 弱い理論よりも強い結論のが害が大きい

2020/12/07 14:18

『マンスキー データ分析と意思決定理論』

得られたデータから、どのように意思決定をすべきかという本。ここでいう意思決定とは主に政策のことを指すが、得られた実験データから何が言えるかが重要であるため、多くの分野の研究者にとって有用だ。有意差のあるデータが得られても、思った以上に結論を絞り込むことはできない。絞り込むためにはデータと母集団を関連付ける「仮定」が必要なのだ。

ランダム化比較実験という手法がある。被験者を無作為に2群以上に分け、一つの群に効果を確認したい処置を行い(処置群)、一つの群は基準として何も処置を行わない(対照群)とする。事後の状態を確認し、処置群と対照群の結果を比較することで処置の効果を検証するというものだ。こうすることで、各個体の特性は違っていても、群としての条件は同じになると「仮定」でき、処置の効果を厳密に検証できるというものだ。

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ランダム化比較実験のイメージ

元々は医学分野で開発された実験手法だが、現在では他の分野でも使われている。先ほど紹介した『貧乏人の経済学』の著者であるアビジット・V・バナジーとエスター・デュフロは、貧困緩和策の分析にこの手法を取り入れたことで2019年にノーベル経済学賞を受賞している*4

しかし本書を読むとランダム化比較実験も完璧ではないことが分かる。実際に処置を政策として施した時、ランダム化比較実験の結果と同じ効果が得られると考えるには「二つの仮定」が存在する。一つは処置に対する反応は個人の処置によって決まり、母集団の他のメンバーが受けた処置の影響は受けないとする。もう一つは処置群の結果の分布は、母集団全員に処置を施した場合と同じになるとする、である。

また、政策で得られたい効果は長期的なものであるのに対して、実験で観察できるのは多くは短期的な結果である。ここには短期的な結果は長期的な結果と同じ(もしくは近い)という「仮定」が存在している。他にも様々な仮定があるが、全てをここでは述べない。ここで述べたいのは、ランダム化比較実験の結果から物事を判断するためには、こうした仮定が必要ということだ。

世の中には様々なデータに基づく予測があふれている。しかも予測を「範囲」ではなく「点」で示すものさえも。不確定な未来を点で予測するならば、そこには「強い仮定」が存在するはずだ。派手な予測に踊らされないよう、本書を読んでリテラシーを高めるべきだ。

終わりに

上半期のお勧め本記事において、「下半期は読書量を増やし、年間100冊まで行きたい」と書いた。残念ながらそれは達成できなかったが、読書量を増やすことはできた。これができた理由の一つに、入浴中に読書をするようになったことが挙げられる。今のKindle Paperwhiteは防水なので*5、うっかり湯船に落とすことを心配せず持ち込めるのが良い。Amazon初売りのセール対象でもあることだし、今年の目標に「読書量を増やす」がある人には入浴中読書をお勧めしたい。

これも今年買って良かったものだ。

2020年上半期に読んでおすすめの本

*1:ひまわり動画における力関係wwwwwwwwwww : 暇人\(^o^)/速報 - ライブドアブログ

*2:もっとも、それが最善の選択肢だとは言わない。我々がそうであるように、彼らの場合も習慣や自制心の欠如も影響しての選択である。

*3:老いと病のない時代がすぐそこに迫っていることを最先端の研究を交えながら主張する本。Amazon

*4:2019年ノーベル経済学賞から考える「ランダム化比較試験(RCT)」について:環境政策を「検証」できる?|TOPICS|国立環境研究所

*5:Oasisも防水だが、無印Kindleは防水ではない。