本しゃぶり

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慣習は万象の王だが、俺は習慣の奴隷である

「ゆるぎない習慣は、精神力の涵養につながり、感情の波に流されるのを防ぐ」
アメリカの心理学者ウィリアム・ジェイムズはそう言った。
人は生活の一部を無意識に送れるようにすることで、頭脳に余裕ができるのだと。

しかしそれは、環境が変化しないことを前提にしている。

慣習の力

ヘロドトスは『歴史』の中で「慣習(ノモス)こそ万象の王」とピンダロスが歌ったのは正しいと書いた。

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By Pe-Jo - Own work, Public Domain, Link

慣習というものは国によって異なるが、どの国の人でも自分の国の慣習が最も良いと考えている。だから慣習や信仰といったものを嘲笑の種にするのは、狂ってでもなければ考えられぬ行為である、とヘロドトスは述べた。

日本では「全てにおいて日本の慣習が最も優れている」と考えている人はそういないと思う。だが、食べ物の扱いに関してはまさにこの通りだ。日本人は皿に載っている料理を残すことに嫌悪感を覚える。それこそ茶碗についた米粒程度でさえ。国によっては「少し残すことが美徳である」という知識を得たとしても「それでも日本式の方が良い」と言って残さず食べようとするだろう。俺はここに王の力を感じる。

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とはいえ「慣習」はまだマシである。何か行動を選択した時、その根源は慣習にあるかもしれないが、最終的な判断は自ら下しているのだから。しかし「習慣」は違う。習慣によって人は無意識に行動する。この記事で書くのは、人がいかに習慣の奴隷であるかという話だ。

8回

先週のことである。俺はホテルのトイレで用を足した後、ふと違和感を覚えた。何かがいつもと違うのだ、と。ほどなくして正体に気がつく。手に巻き取ったトイレットペーパーの厚みが普段よりもあるのだ。普段使っているのはシングルで、ホテルについているのはダブル。にも関わらず普段通りに巻き取った結果、想定の1.8倍ほど*1の厚みとなったわけである。

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By Brandon Blinkenberg, CC BY 2.5, Link

原因が判明したのなら話は早い。拭く上で重要なのは長さではなく、体積である。普段より巻き取る量を減らせばいいだけのことだ。

トイレットペーパーの幅はJIS規格で114±2mmと定められている*2。普段の俺は、黄金長方形の回転となる184.5mmの長さで8回引き出して使用している。従ってダブルの場合なら5回も引き出せば十分となるはずだ。紙と共にPDCAサイクルを回す時が来た。

次の日、便座に腰掛ける俺が手にしたトイレットペーパーは、伸ばせば全長1476mmにも達した。

いつもと同じ8回だ。

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By Frank Kovalchek from Anchorage, Alaska, USA - The Thinker sitting on a throne, CC BY 2.0, Link

手に取り始めた時はダブルであることを忘れていた。それでも引き出し4回目ぐらいには「なんだか厚くなってきたぞ」とは感じていた。しかし俺の手が止まることはなく、気がつけば手の中にある無駄に多い「それ」を俺は見つめていた。

その次の日も8回だった。

トイレに入る時は覚えていても、俺の手の中にはいつも8回分あった。最終日もそうだった。

システム1

こうなった理由を、ダニエル・カールマンの『ファスト&スロー』を読んだ俺は知っている。

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人間には2つの思考モードがある。「システム1」「システム2」だ。システム1は自動的に高速で働き、脳への負担はほとんどない。そして自分のほうからコントロールしている感覚は一切無い。システム2は複雑な計算など、頭をつかう必要のある知的活動に注意をあてる。これは自分が意識して使う。簡単に言えばシステム1は直感的に働き、システム2は働かせるのに注意力を必要とする。

詳細は本を読んでもらうとして、つまりのところ脳は楽をしたいのであり、普段やっていることは改めて考えるまでもなく「いつも通り」に体を動かしてしまうのだ。

やっかいなのはそういった知識が俺にあり、引き出す回数を減らすべきだと思っていても、結局は習慣に従ってしまうということにある。もちろん本気になって対処しようと思えば、ホルダーに注意書きなどをしてシステム2を呼び起こすのだが、俺も脳に負けず劣らず怠惰なのでそこまではしない。

ゆえに俺は習慣の奴隷であり続けたのだった。習慣は慣習よりもよっぽどタチが悪いと言えるだろう。

終わりに

このように人は習慣の奴隷である。しかし奴隷の仕事は主人によって変わることを忘れてはならない。良き習慣を持てば、人は良き人生を自動的に送ることができる。

アメリカ合衆国建国の父の一人であるベンジャミン・フランクリンは、一週間に一つの徳を身につけることに専念し、それが習慣となったら次の徳を身につけ始めた。これで身につけたのが、有名な「フランクリンの十三徳」である。この習慣は彼をアメリカのにまで押し上げた。

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Public Domain, Link

これを読んで習慣の大切さと恐ろしさが分かったかと思う。そうなると何か良い習慣を身につけたくなるのが人というものである。睡運瞑菜ではないやつで何か。そんな人にお薦めなのがこの本である。

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天才たちの習慣がこれでもかと載っている。自分に合ったものを見つけ、生活に取り入れると良い。

トイレ関係の記事

*1:シングルとダブルでは1枚の厚みが違うため2倍にはならない。下記リンクによればダブルは1m2あたり16gぐらいだが、シングルは18g以上はあるらしい。 https://www.toilet.or.jp/iiunchi-labo/unchireportsekino3.html

*2:JIS P 4501:2006 トイレットペーパー