本しゃぶり

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明日ちゃんの成功則〈籠絡編〉

まだ何も知らない同士なのに、なぜ明日小路は好かれるのか。
それは彼女が、心を掴むための法則を活用しているからである。

法則を学んで心と成功を掴み取れ。

今一番気になるキャラは

今季のアニメで一番気になるキャラはと訊かれたら、『明日ちゃんのセーラー服』の主人公、明日小路(あけび こみち)と答える。

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『明日ちゃんのセーラー服』第7話

TVアニメ「明日ちゃんのセーラー服」公式サイト【2022.1.8 ON AIR】

アニメを見始めた当初は「こいつ大丈夫か?」と思わずにはいられなかったが、話が進むにつれて「こいつマジにヤバい」と感服せざるを得ない。特に印象的だったのが、第7話でクラスメイトに駆け寄るシーンである。

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『明日ちゃんのセーラー服』第7話

校内を散策していた明日小路は、クラスメイトの蛇森が一人で座っているところを見つけ、話しかけようと駆け寄った。特に用事があったのではない。明日小路は友達を増やしたいと考えており、偶然見かけた蛇森を次のターゲットとして話しかけたのだ。

これは、用もないのに話しかけるには最悪のタイミングに思える。蛇森は音楽を聴きながら雑誌を読んでいたのだから。

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『明日ちゃんのセーラー服』第7話

だが結果は完璧と言っていい。ほぼ初対面みたいな状態だったにも関わらず、わずか1分後には蛇森からギター演奏を聴かせてもらう約束を取り付けた。ファーストコンタクトとしては十分だろう。

なぜ明日小路はこんなタイミングで話しかけ、関係を構築することに成功できたのか。それは彼女の社交術を分析すれば理解できる。アレは最悪のタイミングではない。彼女からしてみれば絶好のチャンスだったのである。

同類となって間合いを詰める

自分の話を聞いてもらいたければ、まず相手の緊張を解き、心理的な間合いを詰めるところから始めるのが良い。そのために明日小路がよく使うのが、相手との共通点である。

アピールする共通点は「初めてばかりで緊張している」という精神状態もあれば*1、「観察ノートを作っている」という行為の場合もある*2。何であれ自分と似た要素があれば、それでいい。こうすることで、外見こそ一人だけセーラー服で異なっているが、考え方や行為については「あなたと同じ」であると伝えているのだ。

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『明日ちゃんのセーラー服』第1話

この「類似性の法則」は実際に有効である*3。例として挙げるならば、心理学者のバーンとネルソンによる研究が有名だ*4

  1. 被験者に様々な問題に対するアンケートを答えてもらう
  2. 被験者に別人 (ターゲット) の回答を示し、ターゲットの魅力度を評定してもらう

実はターゲットの回答は架空のものであり、被験者の回答に合わせて作られたものであった。回答の類似度は被験者によって33%、50%、67%、100%のいずれかに割り振られている。すると被験者は、自分と回答の類似度が高いほど、ターゲットの魅力度は高いと評したのである。

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自分と似ている人は魅力が高い

もし実際に「類似性の法則」を活用しようと思うならば、言葉だけでなく行動でも示す方がより効果的だ。

「世界一の自動車セールスマン」としてのギネス記録を持っている*5ジョー・ジラードは、十分に稼ぐようになってからも顧客である労働者階級のような格好をしていた*6。また、顧客が膝をついて展示車両の下を覗き込んだら、自分も一緒になって覗き込んだという。このような行為による同類アピールによって顧客の緊張を解きほぐし、距離を縮めていったのだ。

その場で行為を真似するというのは、明日小路もよくやっている。木崎が自分の足の爪の臭いを嗅いでいる様子を見た時、彼女は躊躇なく自分も同じように嗅いでみせた。これが木崎の心の壁を打ち壊し、話すきっかけとなったのは言うまでもない。

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『明日ちゃんのセーラー服』第1話

共通点を使って間合いを詰めたのなら、次は仕留める段階だ。

褒め上げて落とす

明日小路が使う次の手は「褒める」である。彼女は事あるごとに相手のことをよく褒める。外見を褒め*7、服装を褒め*8、絵を褒め*9、お菓子作りを褒めてと*10、相手の新たな一面を知るたびに「すごい」と褒めている。

彼女の純粋な褒め言葉は、新しい生活と人間関係で不安なクラスメイト達に深く刺さったことだろう。「心理学の父」とも呼ばれるウィリアム・ジェームズが、「人間性の最も根源的な特徴は、自分を高く評価してほしいという願望を持っていることにある」と述べているほど、人は褒められることを欲するのだから。

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Houghton Library, Public domain, via Wikimedia Commons, Link

人は褒められると気分が良くなるだけではなく、行動も変化する。褒められた内容が正しいと証明しようとし、さらに褒めてくれた相手の言うことを聞くようになるのだ。

バージニア州の大学で行われた心理学の実験では、男子学生が褒め言葉を使って女子学生の服装を変えようとした*11。まず24人の男子学生たちは一定期間、学内にいる全ての青い服装の女子学生を褒めた。すると青い服装の女子学生の割合が25%から38%に増えた。次に全ての赤い服装の女子学生を褒めたところ、今度は赤い服装の女子学生が11%から22%に倍増したという。

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褒められると行動が強化される

この「褒めによる影響力」を遠慮なく使ってくるから明日小路は恐ろしい。マジメな委員長こと谷川に対して「脚が綺麗だね」と褒め、二人っきりの際に再び「やっぱり脚綺麗」と追撃した。一度ならともかく二度も言われてしまっては、本当にそう思えてくるから不思議だ。

こうして乗せられた谷川は際どい自撮り写真を撮って送ってしまい、それを見た明日小路はダメ押しのメッセージを返す。こいつ、相手の人生を狂わせるつもりか?

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『明日ちゃんのセーラー服』第3話

このように、共通点と褒めを組み合わせれば、素早く関係を構築することができる。では、どうしたら共通点を見つけ、的確に褒めることができるだろうか。

実践 諜報活動

上でも紹介したジョー・ジラードは「どういう方法をとるにしろ、一番大事なのは、顧客を知ることだ」と述べている。相手のことを知るからこそ的確な接客ができるのだと。

だからジラードは、まずさり気なく顧客の名前を知ることから営業を始める。そして互いに名前で呼び合うようにして心の距離を縮めたら、しだいに顧客が自分のことを話すように仕向けるのだ。そうやって得られた情報から共通点を見つけ出し、自分を同類と思わせて相手の口をさらに軽くする。そのうち相手の家族構成収入レベルまでも分かるというわけだ。

明日小路も同様に名前の把握から始めている。

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『明日ちゃんのセーラー服』第2話

自己紹介の時間を使って名簿を作り、帰宅時には暗唱するほどの徹底さである。だから話したことのないクラスメイト相手でも、名前で呼びかけて会話をスタートさせることができた*12。そして相手が調子よく話してくれたら、得られた情報は逐一ノートに書き留める。使えるネタはこのように増やす。

それにしても明日小路の情報ファーストの拘りは並ではない。木崎を家に呼ぶ際も、とりあえず誘うということはしなかった。ギリギリまで観察を続け、相手が何を求めているかを探ったのである。そして読んでいる本から木崎が釣りに興味があることを知り、一気に攻勢をかけたのだった。

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『明日ちゃんのセーラー服』第6話

木崎のことだから、誘えば二つ返事で乗ったと思われる。だがギリギリまで観察を続けたからこそ、最高の体験を与えることができたのだ。

これを踏まえた上で、冒頭に貼った蛇森との出会いを見直してみよう。

絶好の舞台

繰り返しになるが、蛇森は一人で音楽を聴きながら雑誌を読んでいた

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『明日ちゃんのセーラー服』第7話

相手の情報を知ることが勝ちパターンである明日小路にとって、この好機を逃す手は無い。こちらが仕掛ける前から、相手は自分の趣味嗜好をさらけ出しているのだから。思わず駆け出してしまうのも当然である。

こうなった以上、蛇森が逃れられるわけがない。読んでいた雑誌に対して「私も買ったんだ」と共通点をアピールされたかと思ったら、ギターを弾けるなんて凄いと褒められる。一連のコンボが決まったことで、蛇森は完全にやられてしまった。

この時、明日小路は蛇森が求める役を完璧に演じきったと言っていいだろう。ミュージシャンに憧れるが実際はギターを弾けない蛇森にとって、「演奏ができる人」というのは喉から手が出るほど欲しいイメージである。明日小路はそれを与えたのだ。思わず「ギター演奏を聴かせる」と約束してしまったのも無理はない。

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『明日ちゃんのセーラー服』第7話

ジョー・ジラードは「トップ営業マンは一流の役者である」と述べている。役を演じ、観客である顧客にその役柄そのものの人物だと信じ込ませるのだ、と。明日小路は演劇部に入ることを勧められたほどの演技力を持っている。彼女がクラスメイトを次々に落とせたのも当然と言えるだろう。

終わりに

以上のように明日小路は、トップ営業マンに匹敵するほどの、人を落とすテクニックを持っている。だが、一つ一つの技術は決して特別なものではない。相手の名前を覚え、自分のことを話させ、共通点を見つけ、褒めるだけである。営業スキルが求められるのは営業マンに限った話ではない。これを参考にして明日からの社交に生かしてほしい。

こういうことを書くと、決まって「できるわけがない」と言い出す人が出てくる。一つ一つは簡単だとしても、それを実行に移すのは難しい、と。

きっとそう言う人は「満たされた人」なのだろう。ジョー・ジラードは営業マンとして成功するには「自らの欲求」を知り、それを「強く望む」必要があると言っている。強い欲求があるからこそ、売るための努力を惜しまないのだと。彼自身も、「家族に今日食べさせるための食料品」を何が何でも手に入れなければならない状況にあったからこそ、必死になれたのだ。

明日小路もまた『飢えた者』である*13

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『明日ちゃんのセーラー服』第4話

肉体が、という意味ではなく、精神的にである。

ド田舎に住む彼女の小学校時代には、同級生というものがいなかった。だからこそ中学校では「みんなと仲良くなりたい」と願い*14、そのための努力を惜しまない。

まずは自分の欲求を知るところから始めよう。

参考書籍

明日小路は相手の読んでいる本を知ったことで適切な行動を取ることができた。きっとあなたも俺が読んだ本を知りたいことだろう。

『最強の営業法則』

この記事で繰り返し登場した世界一の営業マン、ジョー・ジラードの本。彼は1966年から自動車販売台数のNo.1を取り続け、1973年だけで1,425台も売っている。しかも大口の一括販売ではなく、全て個人客に新車を売って成し遂げたというのだから驚きだ。そんな彼がどうやって営業していたのかを本人が解説した本。

ジラードがここまで売ることができたのは、リピート客を徹底的に増やしたからである。そのための様々なテクニックを読んでいると、笑っちゃうくらい明日ちゃんと被っている。営業として働いている人におすすめなのは当然だが、友達や人脈を作りたい人にもおすすめの本。

『相手の心をつかんで離さない10の法則』

様々な心理学の研究を元に、人を動かすにはどうしたらいいかを解説した本。この記事では明日ちゃんが使うテクニックとして「共通点」と「褒め」を取り上げたが、両方とも本書で紹介される法則である。法則1はそのまま「ほめる」であるし、法則9の「絆をつくる」の主な要素の一つとして「類似性」が登場する。

この手のテクニックはよく知られたものではあるが、それが実際にどう働くのか、どのような実験で確かめられているのかが分かるのが良い。ただ一つ難点として、元になった研究の引用元が書いていない。元の研究を知らなくてもいい人には悪くない本だと思う。3/3までKindle版だと50%ポイント還元対象だし。

『「印象」の心理学 認知バイアスが人の判断をゆがませる』

主にビジネスマンをターゲットとした、社会的認知について解説した本。人が自分や他者に対する判断を下す時、どのようなバイアスが働くかを様々な研究を元に説明する。やはりこの手のバイアスに関する話は読んでいて面白い。人は自分自身では一貫した意見を持っていると思いがちだが、実際は状況や事前の行動によって左右されることが分かる。

「共通点」についての記述は本書も参考にしている。こちらは引用元をちゃんと記載しているので偉い。本文中では「著者名+出版年」の形で書いてあり、さらに巻末には章ごとに「著者名(フルネーム)+出版年+論文題名+書名+ページ」と全部盛りで記載されている。研究を紹介するタイプの本は本書を見習ってほしい。

なお本書は日本実業出版社からご恵贈頂いたものである。

友達を増やすタイプの記事

明日ちゃん、ぼっちと比べると落とすペースが速すぎる。

*1:アニメ1話、木崎との会話。

*2:アニメ5話、大熊との会話。

*3:類似性と魅力度の関連についてメタ分析を行った研究では、両者の間に強い関連があったと述べている。Is Actual Similarity Necessary for Attraction? A Meta-Analysis of Actual and Perceived Similarity

*4:Attraction as a linear function of proportion of positive reinforcements. - PsycNET

*5:Most cars sold by a salesman in a year | Guinness World Records

*6:もちろん営業マンとして清潔さは気をつけていた。

*7:アニメ3話、谷川に対して。

*8:アニメ6話、木崎に対して。

*9:アニメ5話、大熊に対して。

*10:アニメ4話、兎原に対して。

*11:カート・モーテンセン. 『相手の心をつかんで離さない10の法則』Kindle の位置No.232-237

*12:卒業時でさえ顔と名前が一致するクラスメイトが半分もいなかった俺とは大違いだ。

*13:制服に関しては『受け継いだ者』であるが。両方そなわり最強に見える。

*14:「自己紹介で言うこと」の一番最初にそう書いている。