本しゃぶり

骨しゃぶりの本と何かを繋げるブログ

「読んでもらうため」に書くのはドーパミンが出るから

なぜブログ記事を書くのか。
俺は「読んでもらうため」である。

その理由を掘り下げてみた。

何のために書くか

この記事を読んだ。

phaは思いつきを言葉に落とし込むことが面白いため、書いたところで目的は達成している。だから誰にも読まれなくても文章を書くらしい。

「あれはこういう風に説明できるんじゃないか」とふと思いついて、それを言葉にする、という瞬間が一番楽しい。それを読んでくれる人がいればこしたことがないが、賞賛を求めて書くわけじゃない。

これを読んで俺が思い出したのは『ヒストリエ』の1シーンだった。

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『ヒストリエ』6巻

工房の職人たちが最も楽しんでいるのは「製作」であった。これではその理由として、「素材が最適用の姿に形成されてゆく、その工程がたまらない」と語られる。やはり「自分の手で形にする」のが楽しいのだ。

このような回答はいかにも職人的で様になる。しかし、俺自身はどうかというと、このような答えにはならない。俺はこうやってブログを書いているわけだが、執筆そのものに楽しみを見出しているわけではないし、誰にも読まれないのならブログをやっていないだろう。

では何のために書いているかいうと、俺の答えはこっちだ。

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『ジョジョの奇妙な冒険 カラー版 第4部』6巻

マンガを描くことが全てみたいな人間である岸辺露伴は、その理由を『読んでもらうため』と言い切った。しかし露伴は「読んでもらう」の理由は述べていない。なので代わりに俺が説明する。メディアも実力も異なるが、同じ人間である以上、欲求はそう変わらないだろうから。

アンケート至上主義の力

岸辺露伴は『読んでもらうため』と言った。しかしここで一つ疑問が生じる。彼はどうやって「読んでもらった」と認識しているのだろうか。あの発言をした1999年当時、露伴が連載をしていた媒体は週刊少年ジャンプ*1、つまり紙雑誌であり、Google Analyticsは使われていない。露伴は週単位で読まれたかを気にしているので、単行本の売上データではない。

おそらく答えは「アンケート」だ。週刊少年ジャンプにおけるアンケート至上主義は有名である。ジャンプでは雑誌付属アンケートの結果を重視しており、その結果次第では大御所だろうと容赦なく即打ち切りとなる*2

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『バクマン。』2巻

アンケート結果は作家にも毎週伝えられるので*3、これで露伴は自分の作品が読まれていることを認識していると思われる。

さらにジャンプにおいては、アンケート結果は「順位」だけでなく「票数」までも作家に伝えられるようだ*4。これによって露伴を含むジャンプ作家は、自分のマンガが読まれているかどうかを「具体的な数値」として認識できる*5

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『バクマン。』2巻

俺はこの「数値によるフィードバック」が露伴のモチベーションになっているのではないかと考えている。

数値目標

上で述べた通り、アンケートは2つの数値をジャンプ作家に伝える。「順位」と「票数」だ。このような数値で表される結果は、モチベーションを高めるのに有効だ。漠然と頑張るのではなく、具体的な目標を達成しようとする気になるからだ。

この数値目標の力はマラソンタイムを見ると分かりやすい。エリック・アレンら4人の行動科学者は、1970年から2013年までに行われた、6,831件のマラソン大会における完走タイム9,524,071人のデータを調査した*6。このデータから横軸にタイム、縦軸に人数でヒストグラムを作ると以下のようになる。

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Reference-Dependent Preferences: Evidence from Marathon Runners, Fifure2

純粋な走行能力の分布であるならば、グラフは滑らかな形を描くはずだ。しかし実際は見ての通り、明確な「偏り」がある。黒線で表示された30分刻みのキリが良いタイムの直前に人数が集中している。「既に限界が近いが、あと少しだけ頑張れば4時間を切ることができる」。このグラフからはランナーのそんな声が聞こえてきそうだ。

「順位」や「票数」にも同じ力がある。6位よりも5位。今回292票とったのなら、次は300票を超えたい。そうやって目指す場所が具体的になる。さらに後少しで達成できそうだと思うと、人は無理をしてでも達成しようとする。皆勤賞を狙っている人は、38℃の熱が出たとしても家を出ようとするのは間違いない*7

このように数値目標は強力なモチベーションとなるが、アンケート結果はマラソンタイムと大きく異る点がある。それはアンケート結果がゼロサムゲームであるといことだ*8。自分がどんなに努力しても、他の作品がその上を行けば負けてしまう。つまりランダム性があるということだ。しかしこれはモチベーションの観点から言えばプラスである。

ランダムなフィードバック

ブラック・スワン理論で有名なナシム・ニコラス・タレブは著書『反脆弱性』において、生命のような「反脆い」存在は (ちょっとの) ランダム性を好むと主張している。

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Sarah Josephine Taleb / Attribution, Link

「いや、わたしはランダム性など求めていない、植物のように平穏に生きたいと願っている」という人もいるかもしれない。だが、実験結果からは生物がちょっとのランダム性を好むことが示されている。

心理学者のマイケル・ゼイラーが行った有名なハトの実験がある*9。彼はハトが「ボタンを押すと餌が出る」装置を用意した。いわゆる「スキナー箱」である。

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ラットのスキナー箱 / Andreas1 / CC BY-SA, Link

ゼイラーが作った箱は、餌が出る確率を変化させることができた。100%ならハトがボタンを突くと必ず餌が出るが、50%に設定すると50%の確率でハズレとなるわけだ。

結果として、ハトのモチベーションが高まったのは、餌が出る確率が50%〜70%の時だった。突くと必ず餌が出るよりも、ランダムな時の方が何度も突くのである*10*11。動作だけでなく、ハトの脳内で分泌されるドーパミンの量も、ランダムな時の方が圧倒的に多いことが分かった。専門的にまとめれば、「連続強化」よりも「部分強化」の方が行動が定着しやすいのである。

漫画家にとっての読者アンケートも、ゼイラーのスキナー箱と同じ役割を果たすと言えるだろう。順位こそ実力で常に1位キープもありえない話ではないが、票数についてはそうもいかない。週によってランダムに増減するのだ。しかも完全なランダムではなく、自分の努力次第である程度は増やすことができる*12。もし何かの拍子で最高値を達成できたら、ドーパミンがドバドバ出ることだろう。

このように「読んでもらった」を示すアンケートは、単純に「数値」だけに着目しても強力なモチベーションの源となる。だがアンケートの「意味」を考えるとより魅力的であることが分かる。みんな大好き「承認欲求」が満たされるのである。

社会的相互作用

よく言われるように、我々人類は短い期間で文化や技術は発展させたが、進化はそれに追いついていない。使っている道具こそ令和にデザインされたものであっても、行動原理は石器時代から変化していないのである。だからダイエットしなくてはいけないと思っていても、目の前にドーナッツがあれば手を伸ばしてしまう。人は簡単に変われない。

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Viktor Mikhailovich Vasnetsov / Public domain, Link

これは人間関係でも同じことが言える。その昔は部族から排除されては生きていくことは不可能だった。だから人はどう見られているか気になる。自分は仲間から認められているのか、嫌われていないか、と。人間が豊かな語彙を持っているのはこのためだという説もある。

イギリスの人類学者ロビン・ダンバーは、人間の言語の原型が「霊長類の毛づくろい」の機能を向上させたものだと述べている。毛づくろいは一度に一人にしか行えないが、音声言語は一度に多数を相手にできる。それによってより多くの仲間と親和的な関係を保つことができるようになったのだ、と。

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Muhammad Mahdi Karim / GFDL 1.2, Link

読者アンケートは自分のマンガをただ読んだだけでなく、「面白い」と認めた人の数を示す。つまりは「承認の数値化」である。これは脳に直接来る魅力と言えるだろう。これについては研究を紹介するよりも、画像を1枚貼ったほうが理解してもらえる気がする。

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押したい

数値化されたランダムに与えられる承認。これが漫画家にとってのアンケートであるのだ。

金よりも関係よりも

露伴が週刊少年ジャンプの作家なのでアンケートで話を進めたが、同様の役割果たすのは他にもある。例えばファンレターだ。頻度こそアンケートに軍配が上がるが、質の観点ではこっちのほうが上であろう。枚数という「数値」だけでなく、内容という「言葉」もある。アンケートをそれほど重視しない雑誌の作家なら、むしろこっちを求めているかもしれない。「漫画家と読者の10の約束」の第6条は、アンケートではなくファンレターなのだから。

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『かくしごと』第7話

どちらにせよ、「数値化されたランダムに与えられる承認」が魅力的であることには変わらない。だから露伴は「読んでもらうこと」をあれ程までに求めているのだろう。だが少し心配になる。彼は依存症になっていないかと。

露伴はマンガを描く理由は「金やちやほやされるためではない」と言った。これは口だけではない。マンガの取材のために破産しているし*13、登場した時はマンガのためなら読者の一人や二人がどうなってもいいと考えていた。

これは「行動依存」の典型的な例である。どこかでストップをかけないと、破滅への道を歩むことになる。そのような例を我々は最近見たはずだ。

上の場合、本来の目的は家族を取り戻すことであり、そのためにかかる費用を稼ぐ手段としてのパチンコだった。それがいつしかパチンコすることが目的で、そのために家庭はボロボロになり、金も失い続けるはめになっていた。薬物を使わなくても人は依存症になるのである。

とはいえ露伴の場合、連載しているのが紙の雑誌だからまだマシである。アンケートというフィードバックが得られるのは、「速報」と「本ちゃん」の週に2回。それ以外の時間は自由に使える。これがTwitterに投稿していたら、反応が気になって1日に10時間はTwitterを見ているだろう。もっとも、露伴の場合はそれでもマンガを描けるだろうが。

終わりに

はてなブックマークのフィードバックは実質リアルタイムだから困る。

参考書籍

例によって記事を書く上で参考にしたやつ。

『僕らはそれに抵抗できない』

僕らはそれに抵抗できない 「依存症ビジネス」のつくられかた

僕らはそれに抵抗できない 「依存症ビジネス」のつくられかた

SNSなどのテクノロジー関連を中心とした行動嗜癖について解説した本。なぜ人はハマってしまい、どうしたら抜けられるのかについて書いてある。

結局のところ、世に出回っている様々なサービスや製品というものは「人がハマるように作られている」わけで、きっかけさえあれば誰もが依存症になると思ったほうがいいのだろう。

本書では様々な依存症が出てくるが、意外だったのがウェアラブル端末による運動をやり過ぎる人。たいていは運動しなかった人がゲーミフィケーションによって運動し、健康になると肯定的に捉えられがちだ。それがハマりすぎて問題になる人もいるとは。両腕に端末をつけている俺はどうなのか。

『バクマン。』

真の意味でジャンプマンガ。これで紹介されていたアンケートシステムは今も同じなのだろうか。岸辺露伴が少年ジャンプで連載していたのは1999年あたりなので、これを参考にして構わないだろうが。

行動依存の記事

*1:『岸辺露伴は動かない #16 懺悔室』冒頭で『少年ジャンプ』で連載していたと述べている。

*2:とはいえアンケートの結果をどこまで重視するかは時代によって異なるようだ。例えば2008年の『チャゲチャ』は8週で打ち切られており、アンケート至上主義のイメージ通りである。一方で2018年のジャンプルーキー!編集部ブログでは、「基本は1巻2巻の売上で、ある一定の数字以上売れないと、打ち切りになってしまいます。」とあるので、アンケートが全てではないように思える。

*3:『バクマン。』2巻参照。

*4:『バクマン。』によれば、ジャンプ発売週の火曜日に出る「速報」と金曜日に出る「本ちゃん」は作家に伝えられると描かれている。最終結果だけ伝えられない。

*5:正確に言えばアンケートで分かる人数は「読んだ人」ではなく「TOP3に入れた人」なわけだが、少なくとも読まれていることは分かる。

*6:Reference-Dependent Preferences: Evidence from Marathon Runners

*7:もっとも、これはコロナ以前での話となるだろうが。

*8:厳密に言えば票数に関してはちょっと違う。雑誌の売上が伸びれば、順位が下がっても票数は増えることもある。

*9:Fixed-interval behavior: effects of percentage reinforcement https://www.ncbi.nlm.nih.gov/pmc/articles/PMC1333957/

*10:ただし、確率を10%にするとハトは餌を得るのを諦めて突くのを止めてしまう。

*11:これのハトをサルに置き換えた話が「サル破壊実験」としてコピペになっている。ちょっと調べてみたが、実際にサルで行われたのかは分からなかった。

*12:少なくとも減らすことは簡単にできる。

*13:『岸辺露伴は動かない #02 六壁坂』