本しゃぶり

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2022年上半期に読んで面白かった本5選

2022年も半分が終わった。
今年の上半期に読んだ中からおすすめの5冊を紹介する。

【目次】

2022年上半期に読んだ本

2021年下半期に読んで面白かった本5選を書いたのがつい最近だと思っていたら、もう2022年上半期のまとめを書く時期になってしまった。前回の反省を活かし、今回は無理にブクログで感想を書かないという方式を採用。これでタイムリーにまとめることが可能となった。

2022年上半期に読み終えた本は52冊。年間100冊を目安にしているので、悪くないペースだ。

2022年上半期の読了数推移

これ以上は読了数について言うことはないので、さっそく本の紹介を始めよう。

『自己啓発の教科書 禁欲主義からアドラー、引き寄せの法則まで』

やはりまずはこれだろう。俺としては珍しく、紙の本を予約して購入した本だ。

この『自己啓発の教科書』は古今東西の自己啓発書を100冊選び、それらを厳選した10の教えにまとめた本だ。本書を読むことで、教えがどのように変化・発展していったのかが分かる。本書から得られたエッセンスは以下の記事にまとめた。正直なところ、「これが全てだ」と言いたいくらい。

この記事では「教えの解き方」として5つのポイントにまとめた。

  1. 先人に学ぶ
  2. 世俗化する
  3. 説得力を出す
  4. 儀式化する
  5. 主張を繰り返す

中でも特に重要なのは、「2. 世俗化する」だと思う。結局、どんなに優れた教えでも、実践されなければ意味がない。しかし俺含めて多くの人はなるべく努力したくないし、すぐに実感できる利益がほしい。もちろん理論は単純化することで、誰でも簡単に理解できる内容にする必要がある。そうすればあなたの教えは広まっていくだろう。

このように俺は本書については、紹介される「教え」そのものよりも、よりメタ的な視点で語ってしまう。これは本書が各教えについて古代から現代までを語るスタイルをとっているからだろう。それも「どの教えが正しいか」というより、「どう変化したか」に注目しているのだから、俯瞰的な見方となるのは仕方ない。

そのため本書は自己啓発書・ビジネス書好きこそ読むべき本である。自分の好きな教えがどのような位置にあるのか、知っておくのは悪くないはずだ。ただし、日本のビジネス書と違って図がほとんどなく、文字がぎっしりなので、読むのは困難かもしれない。だが「ペル・アスペラ・アド・アストラ」と言われるように、困難を通じてこそ栄光は獲得できるものである。これくらいは乗り越えてもらいたい。

ちなみに俺が「黄金率の教科書」を書いたときには紙の本しかなかったが、今はKindle版もある。2022/7/13までやっている「Kindle本5点まとめて買うと さらに15%ポイント還元」の対象でもあるので、買うなら今だ。怖がらずに変化を受け入れろ。お前の探しているチーズはここにある。

『食糧と人類 飢餓を克服した大増産の文明史』

タイトルの通り、いかにして人類は食糧生産を増やしていったかという本である。食糧生産を増やすとは、突き詰めれば「水と栄養素の確保」ということである。本書は水と栄養素、特に窒素リンを中心に、歴史を紐解いていく。それも「最初」から。

「文明史」について語ろうという時、「始まり」はどこに設定すべきだろうか。俺ならイントロダクションで狩猟採集生活について触れ、始まりは古代メソポタミアからにすると思う。しかし本書は「地球の始まり」がスタートであり、フェルミのパラドックス*1の解説から始まる。地球がいかに生命にとって都合のいい場所であるかの説明が終わったかと思いきや、今度はプレートテクトニクスの解説が始まる。スケールがでかい。

飢餓を克服する上で知っておくべき知識の図 / 『食糧と人類』

もちろんここまで遡ることには、ちゃんと意味がある。最初に述べたとおり、食糧生産には「水と栄養素」が必要だ。これらは地球上を循環し続けている。このメカニズムを理解するために知っておく必要があるのだ。

例えばリンの場合、「小さい循環」「大きい循環」がある。小さい循環は「土壌と植物と動物」だ。土壌のリンを植物が吸い上げ、やがて枯れるか動物に食べられる。動植物の死骸が微生物によって分解されることによって、また土壌にリンが戻る。

ところが時に土壌は水に押し流され、リンが海に流れ出してしまうこともある。そうやって海底にリンが堆積していくと、いよいよプレートテクトニクスの出番だ。リンは海底プレートと一緒に移動し、いつしかプレート同士がぶつかって山となる時に地上に出る。そしてリン灰石が風化すると、また土壌にリンが戻るというわけだ。これが「大きい循環」である。

リンの循環イメージ

このようにリンは地球上から消えることは無いし、海に流れ出しても地上へ戻ってくる。しかしここで一つ問題がある。それは時間がかかるということだ。大きい循環でリンが一巡するには100万年以上の歳月が必要だ。これだと人類が待つには長すぎる。そこで人類は、循環をスピードアップさせるために様々な手段を講じ、今も研究を続けている。それが「飢餓を克服した大増産の文明史」なのである。

これでめでたしめでたしと終わりたいところだが、一通りのことを学び終えると問題は解決していないことに気がつく。窒素こそ空気中から取り出せる*2ようになったが、リンの解決策はリン鉱石の採掘である。結局これはリン循環の一部、「地上への露出から風化」を早めただけであり、海へ流れ出したリンが陸地へ戻るまでの時間は変わらない。つまりリン鉱石が枯渇したら終わりだ*3。また一方で、逆に栄養が過多であるために引き起こされる問題も生じている。まだ飢餓を完全に克服したとは言えないのだ。

過程を一気にすっ飛ばして紹介したが、本書はこのように宇宙レベルから始まり、食糧生産の歴史を一気に知ることができる。本書を読んだことで、俺は食糧生産に関して個別の知識はあっても、全体像を把握していなかったことに気がついた。それが一番の収穫である。

『科学者たちが語る食欲』

生産について知ったら今度は消費である。本書はタンパク質を中心に、生物の食欲について語る本だ。生物はどのようにして食物の種類と量を決めるのか。それを様々な実験や観察から解き明かしていく。

本書の良いところは、食欲の基本原理を学べ、生物はシンプルだが複雑ということを思い知らされることである。まずはシンプルの方から紹介しよう。

生物は、自由に食物の種類と量を選べる場合、最適な栄養バランスになるように食事する能力を持っている。例えばヒヒの個体を30日間追跡した研究では、摂取カロリーで見た食物中の「タンパク質 / 脂肪・炭水化物比」が一定であることが分かった。粘菌を対象にした別の研究でも同様で、粘菌はいつも最適な「タンパク質 / 炭水化物比」の餌を好んで食べた。生物は自分に不足している栄養素が多い食物に対して食欲がわくのだ。含まれている栄養素は味覚によって判断する。

では栄養バランスが偏った食物しか食べられない場合はどうなのか。この場合、限度はあるがタンパク質で食べる量が決まる。高タンパク質・低炭水化物の餌だけをバッタに与えたところ、バッタはタンパク質の摂取量が必要分に達したところで食べるのを止めた。まだ炭水化物は不足しているのに。逆に低タンパク質・高炭水化物の餌だけを与えたバッタも、タンパク質が必要分に達するまで食べ続けた。この場合は炭水化物が過剰である。

これはバッタだけでなく、ヒトも同じである。著者らは大学生を人間バッタとして扱い、アルプスの山小屋で隔離・監禁して実験した。自由に食品を選べる場合、人間バッタはタンパク質・炭水化物・脂肪のバランスが取れた食事を行った。しかし高タンパク質の食事を与えると摂取カロリーが減り、逆に高炭水化物・高脂肪の食事を与えると摂取カロリーは増えた。ヒトの食事量を決める要因は他にもあるが*4、基本はバッタと同じようだ。

食事の量はタンパク質が支配する

この知識を得ると、多くの人は次のように考えるだろう。「痩せたければ高タンパク質・低炭水化物・低脂肪の食事をすればいいのだな」と。これは間違えではないが、欠けている視点がある。生物はそう単純ではないのだ。

バッタもハエもマウスも、高タンパク質・低炭水化物だと摂取カロリーが少なく、痩せることになる。さらに限度があるが、高タンパク質・低炭水化物だと産卵数が増えるのだ。だがデメリットもある。高タンパク質食は寿命が縮むのだ。逆に低タンパク質・高炭水化物だと寿命が伸びる結果が得られた。つまり繁殖と寿命はトレードオフの関係にあり、そこにはタンパク質の摂取量が関係しているのである。

繁殖と寿命のトレードオフ

やはり生物というものは、基本原理は単純でありながら、コントロールしようとした途端に複雑な存在になるから厄介だ。今回みたいに食欲をハックして痩せようとしたら、リバウンドや寿命の罠が待ち構えている。結局、生物は絶妙なバランスのもとに成立しているので、どこかを変えると他のところにも影響してしまうのだ。

では食欲とどう付き合えばいいのか。本書には健康的な食事を摂るための15のポイントが書かれている。ここでは全てを紹介しないが、基本的には以下を頭に入れておこう。

  • 栄養バランスがとれた繊維が豊富な食事をする
  • 超加工食品を避ける
  • 運動して十分な睡眠をとる

そして、合わせて次の本も読むといい。

『ダイエットの科学』

本書は疫学と遺伝学を専門とする研究者が、自身の体調不良をきっかけにダイエットに挑むところから話が始まる。すぐに著者は困惑してしまう。巷には怪しげなダイエット法が蔓延しており、どこから手を付ければいいか分からなくなってしまうからだ。そこでプロの研究者らしく、ダイエットについての研究を始めた。本書はその報告書となる。

先程「食欲はタンパク質が決める」なんて書いたばかりだが、やはり栄養関係の話は複雑で、単純化して考えるのはやめた方が良さそうだ。

ある成分が「身体に良い」と言われているとしよう。しかしそれはどのように摂取した場合の話なのか。例えば天然のブロッコリースプラウトと、同量の成分を含むとしているサプリメントを比較した研究では、血液や尿に含まれているポリフェノールが天然はサプリメントの4倍になったという*5。しかも天然の食品は、単一の成分だけで構成されているのではない。100種類以上の成分が含まれている食品も普通にある。この成分同士の組み合わせにより、身体への影響は異なってくる。

天然食品とサプリメント

さらに食品が及ぼす影響は、個人差も大きい。本書には様々な研究が出てくるが、やはり興味深いのは双子研究だ。双子を集めて、1日3,600kcalを摂取させ、運動は1日30分だけという生活を100日間続けさせた研究がある*6。その結果、体重の増え方は大きな個人差があった。体重が5.5kgしか増えなかった人もいる一方で、13kgも増えた人もいる。また、摂取カロリーが脂肪ではなく筋肉に変わる人もいた。そして察しの通り、双子の兄弟間では体重は似た増え方をした。様々な研究をまとめると、体重増加の個人差の70%は遺伝的要因で説明できるという。

しかし、遺伝子以外にも個人差が生じる要因がある。その一つが腸内細菌だ。双子であるにも関わらず、片方が肥満もう片方が肥満ではない組み合わせを調査した研究がある。痩せている方の腸には健康な細菌が豊富で、ビフィズス菌やラクトバチルス菌が多かった。対して太っている方の腸内細菌の多様性は低く炎症性の細菌が多かった。しかも太っている人の腸内細菌を無菌マウスに移植したところ、短期間のうちに16%も太ったという*7

腸内細菌の影響

腸内細菌の話は本書の中で何度も登場し、だいたい謎の現象が起きたら腸内細菌のせいな印象がある。腸内細菌は体重の増減だけに留まらず、神経伝達物質を生成することで気分やストレスにも影響を与えるという。日本語には「腹が立つ」なんて言葉があるが、思っている以上に気分は腹で決まるのかもしれない。

本書を読むと、BASEやCOMPのような完全食を食事の中心に置くのは早計だと言わざるを得ない。現時点で必要とされる栄養素はそろっているとしても、腸内細菌への影響まで考慮されているだろうか。食事の内容が均一な場合と、日によってバラツキがある場合で違いはないだろうか。菓子パンやインスタント食品を置き換えるならいいだろうが、これで完璧とはならないだろう。きっと見落としている点がある。

ということで、先程の健康的な食事のポイントに一つ追加しよう。腸内細菌の助けとなる食事をしろ。具体的には摂取する食品の種類を増やす。特に発酵食品を摂るようにする。ただし加工食品は避けること。

『プロジェクト・ヘイル・メアリー』

『火星の人』で有名なアンディ・ウィアーの最新作で、映画化も決定しているらしい。あとマシーナリーとも子が今年読んだ中で一番面白い言っていた。

実際こうなるのも納得の面白さであった。俺もほぼ1日で一気に読み終え、「これで面白かった本5選が埋まったな」と思ったものである。

単に面白いだけでなく、読んでいて余計なストレスが無いのが良い。主人公は基本的に前向きでクヨクヨ悩まないし、登場人物の多くも合理的な行動をとる。人間同士の愚かな足の引っ張り合いも無いに等しい。しかも登場人物の名前を読みやすい。

だが本書にも一つ欠点がある。それはネタバレ抜きで内容を語れないということだ。とも子も言っているように、この物語は主人公が記憶喪失を自覚するところから始まる。彼は周囲を調べ、少しずつ状況を理解し、記憶を取り戻していく。そのため、どこまでなら話してもいいか分からないのだ。逆に言えば、ネタバレを踏む前に読むべきタイプの作品だと言える。

日本語版は去年の12月に出たばかりだが、プライムデーKindle本セールの対象になっている。まだ読んでいないなら今すぐ買って読め。

終わりに

前回、2021年の下半期のまとめでは以下のように書いた。

やはり本のような重たいコンテンツを読み終えたタイミングだけで書こうとするのが間違いなのかもしれない。読んでいる最中にも書いていく方が記憶に残るし気が楽ではないだろうか。ちょっとやり方を検討してみたいと思う。

今回はちゃんと前回の反省を活かしている。というのも、今回紹介した5冊は全て「骨しゃぶり書簡」で取り上げていたのである。

半年ごとにではなく、もっとタイムリーにおすすめ本を知りたい人は購読するといいよ。初月無料で試せるし。

2021年下半期に読んで面白かった本

*1:イタリアの物理学者エンリコ・フェルミが指摘した「なぜこんなに多くの星が存在しているのに、今まで宇宙人からの接触がないのか」という問いかけ。

*2:みんな大好きハーバーボッシュ法で。

*3:リンはいつ無くなるのか。これはコストが関わってくるので、明確な数字を出すのは難しい。ただ一般的には現在の消費の仕方からすると、リン鉱石は約50年〜100年で枯渇すると言われている。大阪大学大学院工学研究科 生命先端工学専攻 大竹研究室

*4:例えば強迫性完食といって、ヒトは「もったいない」という理由で全部食べようとする。

*5:Bioavailability and inter-conversion of sulforaphane and erucin in human subjects consuming broccoli sprouts or broccoli supplement in a cross-over study design - PMC

*6:The response to long-term overfeeding in identical twins - PubMed

*7:Gut microbiota from twins discordant for obesity modulate metabolism in mice - PubMed