本しゃぶり

骨しゃぶりの本と何かを繋げるブログ

当ブログではアフィリエイト広告を利用しています

ブランドやメーカーで買う大人になってしまった

気がつけばブランドやメーカーで選ぶ大人になっていた。
世界の複雑さは人間の認知能力を超えているので。

俺が買うべきものは、きっと誰かが知っている。

Amazonで上手く買い物するには

『ドングリFM』#822で、「上手くAmazonで買い物をする方法」についての話があった。

Amazonは便利だが、近年はマーケットプレイスにクソみたいな商品が溢れかえり、慣れない人が値段とレビューを見て買うと失敗してしまう。だから上の番組でも紹介されたサクラチェッカーに需要があるし、Togetterでも定期的にクソ商品を見極めるまとめが作られる*1

そんな「Amazonが使いにくくなった」という嘆きに対し、「Amazonの外で商品を選び、Amazonの役割は購入のみにすれば良い」という解が番組で提示される。そうすればマーケットプレイスのハズレを引くことは無い。中でもよく知っている分野の商品ならば、「決まったメーカー」の製品しか買わないので、「注文が簡単」というAmazonの利点だけ享受できる、とも。

Amazonの役割は注文だけ

この感覚はよく分かる。俺も決まったブランド・メーカーの製品ばかり買っているからだ。クソ商品が多いジャンルで例を挙げると、充電関係ならAnkerで、スマホケース・フィルムならSpigenから選ぶ。骨伝導イヤホンなら当然Shokz (旧AfterShokz) 。ヘッドホンと完全ワイヤレスイヤホンはJabraを使っている。

こんな感じで自分にも「決まったメーカー」が多々あるなと気がついたところで思った。10代の頃はブランドで選ぶ大人をバカにしていたのに、どうしてこうなったのか。

なぜブランドで選ぶのか

ブランドで選ぶようになったのは、身も蓋もないことを言ってしまえば、使える金が増えたからである。だが金の有無は「可否」の理由にはなりえても、「動機」にはなりえない。今でも際限なく金を使えるわけではないのだから、安いことは利点である。にも関わらず、多少の費用がかかってもブランドで選ぶ分野が多々あるのだ。

なぜ俺はブランドで選ぶのか。主な理由は「選択肢」「信頼性」「集合知」の3つである。それぞれ解説していこう。

選択肢を絞る

まず第一の理由はブランドで選ぶことによって一気に選択肢を絞り込めることである。選択肢は多すぎると害になる。このことを示す有名な逸話に、社会心理学者のシーナ・アイエンガー教授が行った「ジャムの実験」がある*2

Minette Lontsie, CC BY-SA 4.0, via Wikimedia Commons, Link

食料品店でジャムの試食コーナーを設置し、6種類出した時と24種類出した時で、どちらが売れるか試した。すると多くの客が試食したのは24種類の時だったが、実際に多くの客が購入したのは6種類の時だったのだ*3

試食できるジャム 客が試食した割合 試食した中で購入した割合
6種類 約40% 30%
24種類 約60% 3%

これは選択肢が多いと人は判断ができなくなり、結果として「選ばないことを選ぶ」ためである。この現象は意思決定の麻痺(ディシジョン・パラリシス)と呼ばれる。多くの選択肢がある方が客を呼び寄せるのには有効だが、実際にアクションを起こしてもらいたければ選択肢を絞る必要があるのだ。アイエンガー教授は最適な選択肢の数は7±2であると言っている*4

ブランドで選ぶことは、選択肢を最適な数にまで絞り込める。例えばAmazonで "iPhone 13 Pro ケース" と検索したところ、カテゴリを指定しても*5「検索結果 50,000 以上 のうち 1-24件」と出てきた。判断が麻痺するどころか、人間の認知能力を超えている。

これがSpigenのページで選べば、いきなり7種類*6。ここから好きなタイプを選んだら、後はカラーを選ぶだけ。一番カラーバリエーションが多いのでも6種類しかないので*7、それほど悩まず選べるだろう。ちなみに俺はこれを使っている。

「いや、俺はブランドの力を借りなくても数ある選択肢から比較検討できる」と言う人もいるだろう。だが比較検討するのに必要な情報を得られるだろうか。

信頼性を求める

ブランドで選ぶ第二の理由は信頼性である。どこが他より優れているか分からなくても、評判が高いブランドを選んでおけば大丈夫な可能性が高い。俺が最近このことを強く意識したのは、電源タップである。

俺は以前おすすめの電源タップとしてサンワサプライのTAP-SP2110シリーズを挙げていた。

これは商品ページを見る限りは非常に優秀である。良さげな要素がこれでもかと盛り込まれているのだ。

  • 間隔が広く2面に配置された10個口
  • スイングプラグ
  • 雷ガード
  • ブレーカー
  • 一括集中スイッチ
  • マグネット
  • フック穴
  • PSE認証品

実際、とても便利に使っていた。特に差込口の配置が素晴らしく、ACアダプタが干渉しにくいのでたくさん挿しやすい。だが、俺はこの製品の肝心な点を知らない。それは内部構造である。俺はこの製品がどのように配線されているのか未だに知らないのだ。

数ヶ月、何かでこの記事を見つけて読んだら、自分が電源タップについていかに知識が無かったか気が付いてしまった。この記事での電源タップの評価ポイントは5つ。

  • ケース:剛性があり、絶縁がしっかりしているか
  • 導線:太くて低抵抗であるか (高いと発熱や電圧低下のリスク)
  • ハンダ:電気抵抗が高く融点が低いので、使われていない方が良い
  • 放熱性:内部は広く余裕があるか
  • 電気抵抗:導線と同じく低抵抗であるか

見事なまでに、俺が挙げたTAP-SP2110の要素と重ならない。せいぜい安全性の観点であるPSE認証品ぐらいか。

確かに考えてみれば、火災の原因になり得る電源タップで最も重要なのは信頼性耐久性である。残念ながら俺のTAP-SP2110は載っていないが、同じサンワサプライのTAP-B40BKがある。これの評価を見ると、ケースは剛性が高いので良いが、配線は貧弱でクソと分かる。あんな細い導線で繋がっていたのか。これを見ていたらサンワサプライを選ばなかっただろう。

対してパナソニックの「ザ・タップX」は見るからに強い。

ハンダは一切使われておらず、銅のような金属板で差込口が繋がっている。これなら簡単に断線することは無いと思われ、素人目にも良い製品であることが分かる。やはりボタンがついていないパナソニックの製品は優秀なのだ*8

これを知ってから、電源タップはパナソニックにすると決めた。実を言うと、電源タップこそサンワサプライのを買っていたが、延長コードは以前からパナソニックにしていた。というのも、延長コードに機能は求めていなかったので、理由も知らずに評判だけで選んでいたからである。

機能を吟味せず評判だけで選ぶというのは愚かに思えるが、結果としては評判だけで選んだ方が正解であった。商品の重要なポイントというものは、往々にしてカタログでは分からず、素人は知らないことも多い。なので下手に自分で判断せず、ブランドで選ぶのが時には正解となるのだ。

集合知を当てにする

ブランドで選ぶ最後の理由は集合知を当てにしているからである。多くの人が知っているということは、実質的に俺自身が詳しいと言えるためだ。

最近、初めてNASを買った。目的はデータの保存である。NASキットでRAID1を組めて、さらに外付けHDDを挿せれば、他に欲しい機能は特に思いつかなかった。そこで選んだのがQNAPのTS-230である。

QNAPを選んだ理由は、NASのメーカーとして有名と聞いたからだ。他に有名なメーカーと言えばSynologyが挙がるが、ここはソフトがクソという噂を聞いたのでやめた*9。そしてQNAPの公式サイトを見たところ*10Home - エントリレベル2ベイはTS-230だけなので決定という流れである。やはりブランドで選ぶと決まるのが速い。

実際にセットアップして、QNAPを選んだのは間違いではなかったと実感した。俺が引っかかることは、全てネットに書いてあるからである。

NASは初めてなもので、セットアップの段階で何度も引っかかる。選択肢が複数出てくるが、何を選べばいいか分からない。用語の意味も目的も分からないのだから仕方ない。だがググれば必ず答えがあった。丁寧にスクショ付きで分かりやすく教えてくれる記事が普通に出てくる。おかげで意味を理解した上で、正しくセットアップすることができた。

利用者が多いので答えが見つかる

有名なら利用者は多く、確率的に解説記事も多いはず。だから不明点や問題はすぐに解決できると予想し、その通りの展開となった。もしこれがマイナーなメーカーの製品だったら、ここまで簡単に答えが見つかるとは思えない。

以前から老人にはらくらくホンよりiPhoneの方が良いという話がある*11。なぜなら家族など周囲の人達が使っているのはiPhoneであり、誰もが操作方法を知っているからである。ユーザー数の多いブランドは、情報の入手性という点で優れているのだ。

終わりに

上で書いた通り、10代の頃の俺はブランドに拘る人間をバカだと思っていた。「なぜグッチのような高い製品を買おうとするのか。ブランドに拘らなければ同じことがもっと安くできるだろ」というように。当時の俺は、ブランドの「真の使い方」を理解していなかったのだ。

世界は人が思っている以上に複雑であり、個人の認識能力を超えている。そのため一つ一つを理解して、正しく判断するのは不可能と言っていい。

そこでブランドの出番である。ブランドがあることで、人は個別の要素を理解する必要から解放され、「このジャンルならこのブランド」という「一つの関係」だけ覚えればいいのだ。

知能は特定の個人ではなく、コミュニティの中に存在する。

この『知っているつもり 無知の科学』に書いてあった主張は、全くもって正しいと思われる。

選択肢を絞る価値の話

物に限らず、行動も選択肢を絞った方が良いこともある。

*1:Amazon出品者が語る商品の選び方→大量のサクラレビューよりも規約違反の可能性がある表記や画像に注目すべし - Togetter
Amazonの検索URL末尾に、あるコードを入れると怪しいパチモンとか高額商品とかが排除されるのでとても快適「何この魔法の呪文」 - Togetter
一種の見解ですが、Amazonレビューから見る安心度の見分け方がこれ「破綻した口コミを見極める基本」「Googleレビューもこれ」 - Togetter

*2:Sheena Iyengar: シーナ・アイエンガー:選択をしやすくするには | TED Talk

*3:ちなみにこの店には348種類のジャムが売られていたという。

*4:なお、選択肢は1から2に増えるだけでも選ばれなくなるという研究結果もある。
ドナルド・レデルマイヤーとエルダー・シャフィールはでは、医者に対して選択の実験を行った。医者たちに股関節痛を訴える患者のカルテを見せ、辛い外科手術を受けさせるか、投薬治療を試してみるか検討させたのだ。
薬剤の選択肢が1種類の場合は47%の医師が投薬治療を選んだのに対し、薬剤の選択肢を2種類にすると投薬治療を選んだ医師は28%にまで低下したという。薬剤が2種類あるとどちらを選ぶか考える必要があるため、考えなくていい外科手術を選択する医師が増えたのだ。
Medical decision making in situations that offer multiple alternatives - PubMed

*5:「携帯電話・スマートフォン用ケース・カバー」にして検索を行った。

*6:Amazon.co.jp: Spigen: iPhone 13 Pro

*7:2022/01/23現在 Amazon.co.jp: Spigen シン・フィット for iPhone 13 Pro

*8:なんか気付いたらめちゃくちゃ伸びてて単にPanasonicのネガキャンみたいにな..

*9:本当にダメなのかは知らない

*10:製品の比較 | QNAP

*11:最近ガラケーからスマホに買い替えた義母が、らくらくホンじゃなくてiphoneを選んだ理由が合理的だった「この発想は大事」 - Togetter