神経系を侵され、身も心もメスになる。
これはフィクションだけでなく、現実に起きている話だ。
本当の「メス堕ち」を紹介しよう。
メス堕ちチャレンジ
「メス堕ち」が話題になっている。
診断メーカーの「メス堕ちチャレンジ」が人気になったことで、Twitterのトレンドに入り、そういった表現に縁のない人にまで届いてしまった。結果、いつものような論争が起きているのである。「メス堕ちチャレンジ」は2018年9月5日に作られているので、今回のは不発弾が爆発したタイプだ。
メス堕ちチャレンジ https://t.co/FcUeNWbiB9
— 診断メーカー (@shindanmaker) 2018年9月5日
論争を見ていると、気軽に「メス堕ち」という表現を使うべきではないのでは、と思ってしまう。たかが尻に突っ込まれて快楽を感じているだけで、そこまで強い言葉を使っていいものだろうか。世界にはもっと「メス堕ち」と言うにふさわしいシチュエーションが存在する。
ここまで墜ちてこそ
これはメス堕ちしたカニである。
元々は立派なオスだったこのカニは、今ではメスと化している。腹部にある卵を守り、自ら精子を体内へ取り込もうとするのだ。メス化したのは行動だけではなく、身体もである。カニが脱皮をするたびに立派だったハサミは小さくなり、腹部は大きく横に広がっている。まさしく身も心もメスとなっていくのだ。
これは《フクロムシ/Rhizocephalan barnacle》の仕業である。写真のカニの腹部についている卵のようなもの、あれはフクロムシの生殖器だ。
フクロムシはカニなどの甲殻類に寄生する生物である。
分類上はカニと同じく甲殻類なのだが、体節と脚が退化しており、身体は生殖器と触手によって構成されている。
左側のソラマメみたいな部分がフクロムシの生殖器で「エキステルナ」と呼ばれる。これがカニの腹部から見えている部分だ。右側の触手がフクロムシの本体で「インテルナ」と呼ばれる。この触手がカニの体内に張り巡らされ、栄養を奪うと同時にカニを操っているのである。
カニに寄生したフクロムシは、まずカニの精巣もしくは卵巣に攻撃をしかけ、去勢を行う。後は胸部神経節を侵していき、カニとの一体化を進めていく。こうして神経系を乗っ取られたカニは、フクロムシの卵をまるで自分の卵であるかのように守り育てる。そしてフクロムシの子が生まれたら、海中に撒き散らすような行動をとるのだ。
メスのカニは元から卵を守る習性があるが、オスのカニには無い。だからフクロムシはオスのカニをメス化させるのだ。身も心もメスとなり、卵を産み付けられる。「メス堕ち」という言葉を使うなら、ここまでやってほしい。
ところで、フクロムシの生態を学んでいた時、ふと不穏な考えが浮かんできた。フクロムシに寄生されたカニをメス堕ちと呼ぶのならば、オタクとはメス堕ちの一種ではないだろうか。
メス堕ちするオタク
ヒトに限らず生物は、自らの子孫を残すように振る舞う。目的意識の有無にかかわらず、最も子孫を残すように行動させる遺伝子が受け継がれていくからだ。しかしオタクはどうだろうか。
コンテンツに寄生されたオタクの中には、生殖行動をとらなくなる個体が出現する。代わりにコンテンツを大きくすることにエネルギーを費やし、より拡散させるために全力を尽くす*1。その様子はコンテンツに神経系を乗っ取られたかのようだ。
まさしくフクロムシに寄生されたカニと同じである。オタクとは、コンテンツによってメス堕ちしたヒトなのかもしれない*2。
イギリスの進化生物学者・動物行動学者のリチャード・ドーキンスは、フクロムシを「遺伝子の延長された表現型効果」の例として紹介していた。 どうやら遺伝子だけでなくミームも「延長された表現型効果」を持っていると考えたほうが良さそうだ。
終わりに
いつものように「それっぽいこと」を書いて締めようと思ったが、今回は難しい。というのも、考えれば考えるほど、自分の行動を振り返ることになるからだ。うっかりメス堕ちとオタクの行動を結びつけたことで、まるで俺がメス堕ちしているみたいではないか。困った。
やはり「メス堕ち」という表現は気軽に使うべきではない。その手のジャンルの作品で使うことを否定はしないが、乱用するのは控えるべきである。そういう結論にしておく。記事を書くのはここまでにして、風呂に行ってスッキリしてこよう。
参考文献
この記事の元ネタとでも言うべき名著。40年以上前の本ではあるが、今でも読む価値はある。
いろんな寄生生物を紹介している本。フクロムシの話も詳しく載っている。