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オタクが我が身を振り返るタイプの寄生虫

オタクはなぜ「お宅」と呼ばれるのか。
それは、コンテンツという寄生生物の「宿主」だからである。

オタクという宿主

前回の記事でカニに寄生するフクロムシを紹介した。

寄生されたカニは生殖能力を失い、フクロムシの繁殖に全力をつくすようになる。そして、コンテンツに没頭するオタクの振る舞いはこれに通じるものがある、と。

だが、オタクを思い起こさせるような行動を取らせる寄生生物は、フクロムシだけではない。宿主を操る寄生生物を調べてみると、他にも我が身を振り返りたくなるタイプが存在する。

冒頭に書いたオタクの語源は真っ赤なウソだが、本記事を読めば真実に思えてくるだろう。

奇行を晒す

オタクというと、一般的にはインドアなイメージがある。似合う環境は暗く、ジメジメした場所だ。しかし中には、自ら外に飛び出し、自分の存在を一生懸命アピールする個体も存在する。聖地巡礼がいい例だ*1

宿主にこうした行動を取らせる寄生虫として《ロイコクロリディウム/Leucochloridium》がいる。

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カタツムリに寄生したロイコクロリディウム / This image is created by user Dick Belgers at waarneming.nl, a source of nature observations in the Netherlands. CC BY 3.0,Link

カタツムリの左触角が緑の縞模様になっている。この部分がロイコクロリディウムだ。

普段は暗いところに潜み、夜に活動するカタツムリだが、ロイコクロリディウムに寄生されると昼間に行動を取り始める。日の当たる場所を目指して木に登り、葉の上へ躍り出るのだ。そして舞台に上がったところでロイコクロリディウムは伸縮を繰り返し、カタツムリは触角を振り回す。

これはイモムシのコスプレである。ロイコクロリディウムの繁殖は鳥の体内で行われる。だからヒタキなどの鳥に食べてもらうべく、カタツムリをイモムシのように見せるのだ。

聖地巡礼を理解するポイントがここにある。孵化と繁殖で必要とする宿主=環境が異なるのだ。聖地巡礼の宿主は常にヒトであるが、孵化は「現実空間」で行われるのに対し、繁殖は「ネット空間」で行われる。だからカタツムリを日の当たる葉に上がらせるがごとく、オタクをネットに上げるのだ。そして食いついてもらうために、コスプレや作品と同じ動きをするといった奇行に走るのである。

大きなお友達

オタクの中には「大きなお友達」と呼ばれる者たちがいる。いい年して子供向け番組を真剣に見続ける存在だ*2。図体こそ子供の時から大きく変化しているが、行動や思考は何も変わらないのが特徴である*3

寄生虫の中にもこうした「大きなお友達」を作り出すタイプがいる。原生動物微胞子虫類のノセマの一種《Nosema whitei》がそれだ。この胞子虫にとって宿主の年齢は重要な意味を持つ。奴らはクヌストモドキの若い幼虫にしか手を出さない。

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N. whiteiが好むタイプ / CSIRO CC BY 3.0, Link

胞子虫は宿主の中で数を増やし続けるわけだが、ここで一つのジレンマに陥る。それは胞子をたくさん作れるので宿主に大きくなってもらいたいが、同時に幼虫のままでいてほしい、というものだ。そこで胞子虫は幼若ホルモンを作り出すようになった。

本来、昆虫の脳のアラタ体から分泌されるこのホルモンは、脱皮ホルモンであるエクジソンと共存することで、幼虫の成長を促進する。そして幼若ホルモンの分泌が止まり、エクジソンが単独で存在すると、蛹もしくは成虫への変態が促進されるのである。

胞子虫はこの幼若ホルモンを作り続けるのだ。これによって宿主は何度脱皮しても幼虫のままとなる。最終的には通常の倍以上の体重を持つ幼虫が完成してしまう。まさしく大きなお友達だ。

大きなお友達はより多くの栄養を与えてくれる存在だ。子供をターゲットとするのなら、子供への感染力を高める他に、子供の期間を引き伸ばすという戦略もあるのだ。

圧倒的成長

最後に今までの総括みたいな寄生虫である《二生吸虫/Digenea》を紹介する。

二生吸虫は、生涯で最大3種の宿主を渡り歩く。さらに宿主だけでなく、その姿さえも段階的に変わるのだ。

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二生吸虫の一生 / Jack · talk · [Public domain], Link

孵化した二生吸虫はミラシジウム幼生と呼ばれ、貝類を第一中間宿主とする。貝類の中では無性生殖を行い、数千〜数万匹のスポロシスト幼生を産出する。このスポロシストからは無性的にセルカリア幼生が生み出される。これらは貝類から外へ飛び出し、第二中間宿主に侵入する。第二中間宿主は貝類・魚類・甲殻類・多毛類などだ。第二中間宿主が魚類・鳥類・哺乳類に捕食されると、そこが二生吸虫の終宿主となり、成体になって有性生殖を行うのである。

以下の図は二生吸虫の仲間である日本在血吸虫の一生を示したものだ。日本在血吸虫は第二中間宿主を飛ばし、ヒトを含む哺乳類の皮膚から直接体内に侵入する。

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original image by the Centers for Disease Control and Prevention (CDC),translation by Hisagi [Public domain], Link

日本史的に重要なのはヒトに寄生することよって引き起こされる日本住血吸虫症だが、俺が語りたいのは第一中間宿主の貝類に起きる表現型の変化である。

貝類を宿主とするミラシジウム時は貧弱である。日本住血吸虫症の調査を行った土屋岩保の実験では、水中に泳がせておくと孵化から48時間以内に死滅した。貝類の体内でしか生きられないのだ。したがって二生吸虫は宿主から栄養分を奪いつつも、できる限り長生きさせておく必要がある。

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Fred A. Lewis, Yung-san Liang, Nithya Raghavan & Matty Knight CC BY 2.5, Link

そこで二生吸虫は貝類の生殖器官を住処とした。ここならば栄養分がたっぷりある上、宿主の生存に関係が無い。こうしてフクロムシに寄生されたカニと同様、二生吸虫に寄生された貝類も去勢されるのだ。

結果、思わぬ副次効果が宿主に生じることがある。それは圧倒的な成長

生殖には多くのエネルギーを必要とする。通常の貝類は性的に成熟すると成長を緩め、エネルギーを生殖に振り向ける。しかし二生吸虫に寄生された場合、生殖活動ができない。そうすると二生吸虫に奪われてもなおエネルギーが余るケースもあるのだ。その余剰エネルギーが成長に使われ、「巨大化」という表現型の変化が生じるのである。

この話は現代のオタクに通じるものがある。ネットでは金遣いの荒いオタクが目立ちやすい。しかし、ただマンガやアニメなどのコンテンツを楽しむだけならば、低コストで済む。無料で供給される作品を消化するだけでも、時間が足りないほどだ。

そのため、生殖活動を行わず、低コストでコンテンツを楽しむタイプのオタクは貯金が捗る。遺伝子を残せないことに目をつぶれば、寄生されるのも悪くない。

終わりに

オタクは奇行をしがちであるが、そこには理由がある。しかしそれはオタクの意志というよりも、ミームの「延長された表現型効果」であると言った方が正しそうだ。寄生虫について調べるほどにそう思う。

なお、注意してもらいたいのは、これらの表現型効果は意図したものとは限らないということだ。生命には様々な生存戦略があるが、実際に戦略を立てているわけではない。ランダムな変化の中で、結果として最も効果的な方法が使われているだけだ。

ミームにおいても、効果的な方法を偶然採用したものが残っているだけにすぎない場合もあるはずだ*4。そのことは理解しておいてもらいたい。

参考文献

前回の記事とほぼ同じ。

ロイコクロリディウムはこの本で真っ先に紹介されている。


胞子虫はこっちから。さらに元をたどると同じくリチャード・ドーキンス著の『延長された表現型』からとなるのだが、一般人は『利己的な遺伝子』だけで十分だと思う。


最後の二生吸虫の話はこの論文を元に書いている。

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