力が欲しいか。
それならば名画を使え。
名画のパワーを自分のものとするのだ。
GAFAを押し上げたイメージの力
名画の力について語るなら、GAFAの話から始めるのがふさわしい。
2020年の現在においてもやはり "GAFA" が最強である。企業価値の話ではない。「用語」の話だ。
支配的な複数のIT企業を指す用語は "GAFA" 以外にも存在する。例えばアメリカ企業に限ってもこれだけあり*1、遺伝子配列を思い起こさせる。
- FANG
- FAANG
- FANNG
- FAAMG
- FAAA
- GAMFA
- CAAFANNG
- MANT
ちなみに一番長い "CAAFANNG" の内訳はこれだ。
It's CAAFANNG! Comcast, , Amazon, Avago (Broadcom) Facebook, Apple, Netflix, Nvidia, Google (Alphabet) and so many others!!! https://t.co/EUl1Ewh5NU
— Jim Cramer (@jimcramer) June 2, 2017
これらをGoogle Trendsに突っ込むと、 "GAFA" が圧倒的存在であることがよく分かる。他の意味で使われるであろう "FANG" に対してさえ、2倍以上の差をつけているのだ。
なぜ "GAFA" が勝者となったのだろうか。グラフを見て分かるように、 "GAFA" の進撃が始まったのは2018年の後半からである。誰もが思うだろう。スコット・ギャロウェイの著書『the four GAFA 四騎士が創り変えた世界』が発売されたためだと。本書が発売されたのは、2018年7月27日である。
本書がきっかけなのは間違いないが、それでも疑問は残る。なぜ1冊の本がここまでの影響力を持つことになったのか。そもそもGoogle、Apple、Facebook、Amazonを最初にセット化したのはエリック・シュミットの "Gang of Four" だと言われている*2。これは2011年のことだ。しかしこれは (少なくとも日本では) 広まらず、"GAFA" が登場してようやく4社をセットにした呼称が定着したのである。
理由はいくつか考えられるが、俺は「イメージの力」が強いと思っている。
ギャロウェイは4社を「四騎士」と呼び、こう問いかけた。
これらの企業は人類を幸せに導く聖なる四騎士なのか? それともヨハネの黙示録の四騎士なのだろうか?
しかし聖書に馴染みの薄い日本では、「ヨハネの黙示録の四騎士」と聞いてもピンとこない。「ヨハネって誰? 堕天使?」となるのが関の山だ。
そこで東洋経済新報社はヴィクトル・ヴァスネツォフ作『黙示録の騎士』を召喚し、GAFAの順に割り当てた*3。そしてタイトルに "GAFA" を追加したのである*4。
企業をまとめたグループは「名前」だけでなく「身体」も手に入れることになった。これによって完全にキャラ化され、人々の心に残った。 "GAFA" の存在が確立したのである。
このように名画を上手く使えば、その強いイメージによって人々に概念を深く浸透させることができる。だが名画の強みはそれだけではない。コストは低く、自由度は高いのだ。
時間が味方になる
ヴァスネツォフによる名画を使うのに、東洋経済新報社はいくら支払っただろうか。おそらく "0" である。『黙示録の騎士』は「パブリック・ドメイン」だからだ。
日本やアメリカそれに欧州の多くにおいて、著作権の保護期間は著作者の死後70年である。対してヴァスネツォフは1926年に亡くなっているので、本が出版された2018年には保護期間が切れているのだ。つまり自由に使えるわけである*5。それは営利目的の複製、改変・翻案、配布、上演・演奏が含まれる*6。
著作者が死亡してから70年以上経過している名画は実に多い。例えばWikimedia Commonsに登録されているGoogle Art Projectのパブリック・ドメイン画像だけでも28,815点ある。
また、美術館や博物館の中には、収蔵している作品をパブリック・ドメインで公開しているところもある。アメリカのメトロポリタン美術館だと、Open Access Artworksから406,000点以上の画像をダウンロードすることが可能だ。
人類は太古の昔から絵を描き続けてきた*7。
その積み重ねがあるからこそ、自分の主張にふさわしい名画を選び出すことができる。それはまるで伝説的な巨匠が自分のために挿絵を描いてくれることに等しい。
とはいえ一つ問題がある。どうしたら主張にふさわしい名画を選び出すことができるのだろうか。その答えは『聖書』に書かれている。
答えは聖書の中に
適切な名画を選び出す王道は、多くの名画を知ることである。知っているのであれば使うことは容易い。しかし日頃から名画に接している人ならともかく、これまで芸術に興味が無かった人がこの手段を取るのは難しい。いつ必要になるかも分からないのに、数多の絵画を覚えなければならないからだ。
そこで使えるのが聖書である。キリスト教は無学な民衆に教えを広めるため、イメージの力を頼った。そのため聖書を題材にした美術品が多数作られたのである。さらにインターネットもパブリック・ドメインも西洋諸国、すなわちキリスト教圏から生まれたものだ*8。そのため、ネットで簡単に見つけられるパブリック・ドメインには、聖書美術が豊富である。
ゆえに、自分の主張に適した名画を見つけたいなら、聖書のエピソードから探すと簡単だ。本ブログの記事を例に説明しよう。
1つめはインデックス投資の記事である。
この記事では「人が何かを信じるためには、触媒となる形あるものが必要だ」という主張をした。これにふさわしいエピソードは出エジプト記の「金の子牛」だ。信仰するための像を作っているのでぴったりだし、「金の牛」というのもいい。いかにも株価が上がりそうではないか。その結果がこれである。
かつてイスラエルの民たちは、偶像崇拝を禁止されているにも関わらず「金の子牛」を作り拝んだ。モーセがシナイ山から戻ってこなかったため、何か目に見える対象、つまり信仰の触媒が欲しかったからである。
Nicolas Poussin / Public domain, Link
2つめの例はVlookupの記事である。
この時は「『神Excel』はクソ」という主張で画像が欲しかった。もちろん聖書にはExcelが登場しないので、ちょっとした連想ゲームをする必要がある。クソみたいな表を渡されるとキレたくなる。つまり「怒り」のエピソードから探せばいいのだ。思わずPCをぶん投げるような話を。
そこで採用したのが同じく出エジプト記から「石の板」である。モーセはイスラエルの民が偶像を崇拝しているの見て*9、怒りのあまり十戒が記された石の板を叩き割った。
そんな時、もしモーセがVLOOKUPをマスターしていたらどうなるか。その使えなさから、例えヤハウェから渡されたものであろうと投げ捨てたくなるに決まっている。
James Tissot / Public domain, Link
さすがは聖書きっての中間管理職。ビジネス向けの記事に向いたエピソードがあるし、ちゃんと絵画化されている。
最後の例は、最近書いたワニの記事である。
これについては説明するまでも無いだろう。道徳と商業の衝突ということで、マルコによる福音書から「宮清め」を採用した。
熱心な信者ほど聖なる場に商業が入り込むことを許せず、排除へと動き出す。
「あなたがたはそれを強盗の巣にしてしまった」
そう言ってイエスは、エルサレムにあるバザールを荒らしたのである*10。
Luca Giordano / Public domain, Link
このように聖書のエピソードから探せば、主張にふさわしい絵画を容易に見つけ出すことができる。ソースは俺であり、このブログだ。しかしこれで終わると罵倒が飛んでくる。
「ついさっき自分で『聖書に馴染みの薄い日本では』と書いていただろ。聖書のエピソードなんて知らないに決まっているだろ」と。
これはもっともな指摘だ。当然この俺がそのことを忘れているはずが無い。ちゃんと「解」は用意してある。
仁義なき聖書美術
本記事は最初に "GAFA" から始めた。実を言うと、本記事のネタを思いついたのは『四騎士』を読んだ2018年である。しかし当時は記事にできなかった。聖書を読んでいれば名画を探すのは簡単だが、聖書を読むこともハードルが高いと分かっていたからである。
だが2020年4月現在、状況は変わった。『聖書を学ぶ』『名画を知る』これらを両方やるというのは、そうムズかしい事ではなくなったのだ。この本が発売されたことによって。
これは聖書のエピソードを「ヤクザの抗争」に見立てて紹介し、それを題材とした絵画の紹介と解説をするという本である。例えばアダムとエバの「楽園追放」は以下のようになっている。
アダムとエバのやくざ夫妻は親分である神ヤハウェからエデンの園をシマとして預かっていた。園からは自由にカスリを取って良いと言われていたが、ただ一つ禁じられていたのは、善悪を知る木の実を食べることであった。「死ぬことになるど、おどれ」と神はキツく脅してきたものだ。
(中略)
「こぎゃん悲しいことないわい。わしゃのう、おどれらがわしのシマで楽に暮らしていけるように思うて若頭に命じたんじゃろうが。なんでわしの親心が分からんのじゃ。おどれらは破門じゃ。これからは額に汗して働くんじゃ。おどれらはわしが塵から作ったもんじゃけえ、いずれは塵に帰る運命じゃ。わしゃ言うたろうが、食ったら、おどれらは死ぬことになる言うて、のう」
仁義なき聖書美術【旧約篇】
こういった形で聖書のエピソードが語られ、その後に絵画の紹介と解説が入る。ヤクザ要素は『仁義なきキリスト教史』の架神恭介が、美術解説は『西洋美術史入門』の池上英洋が担当という完璧な布陣だ。読み終えたら「聖書も聖書美術も完璧に理解した!*11」となってもおかしくない。
もちろん本書は聖書を全て網羅しているわけではない。しかし本書を読めば聖書の読み方が分かるので*12、以前よりも聖書をスラスラ読めるはずだ。なんならオーディオブックを利用するのもいい。主な登場人物を知っているため、誰が誰だか分からなくなることも無いはずだ。ちなみに俺は『聞くドラマ聖書』でレビ記、民数記、申命記をようやくクリアできた*13。
名画に至る門は開かれた。今こそ歩み出す時である。
終わりに
名画には圧倒的パワーがある。なぜそのパワーを使おうとしないのか。それらを描いたのは歴史に名だたる神絵師たち。つまり名画を使うのは、神から力を分け与えてもらうに等しい。
実際、本記事で例として挙げた「Vlookupの記事」は、たった一つの関数を解説した記事であるのにも関わらず、Twitterのトレンドに入った*14。これが神の力だ。
これまでと同じくPVを増やすために悶え苦しむ煉獄のような日々を送るのか、それとも天への階段に足をかけるのか。選ぶのはあなたである。
購入ボタンをポチッと押せば、たちまちグンとインテリに。
名画をネタにした記事
*1:FAANG,FANG,FAANG,FANNG,FAAA,GAFA,BAT,MANTなど12種の意味と読み方 – 社会人の教科書
*2:Eric Schmidt's Gang Of Four: Google, Apple, Amazon, And Facebook | TechCrunch
*3:グーグルブックスで確認したところ、原書には『黙示録の騎士』の絵は無い。
*4:原書にはタイトルどころか本文にも "GAFA" という単語は登場しない。
*5:著作者人格権は著作権の保護期間を超えて存続するので、悪意のある改変や詐称は訴えられる恐れがあるので注意。厳密な意味で自由に使えるわけではない。
*6:Creative Commons — パブリック・ドメイン・マーク 1.0
*7:スペインの洞窟で発見された壁画は65,000年以上前のものである。 【解説】世界最古の洞窟壁画、なぜ衝撃的なのか? | ナショナルジオグラフィック日本版サイト
*8:パブリック・ドメインに近い概念は他の国や地域でも個別に生まれているかもしれないが、現在のパブリック・ドメインはヨーロッパ由来だ。遡れば古代ローマ法にまで行けるが、「パブリック・ドメインに該当する」というフレーズは19世紀中頃のフランスからである。
*9:金の子牛のことである。
*10:マルコによる福音書 11:15-11:17
*11:していない。
*12:ヤクザの抗争としてのだが。
*13:引き伸ばしみたいな展開の後で、さあ決戦が始まるぞと思ったらモーセの回想による総集編が始まるのはマジでクソ。よく打ち切られなかったな。
*14:2017年6月5日に「VLOOKUP」が Twitter のトレンドに入った。 Twitterで「VLOOKUP」が話題になっています - Twitter トレンド速報 | whotwi トレンド