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Amazonで幸福を買う技術

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Steve Jurvetson CC BY 2.0,Linkをトリミング

Amazonでは様々なものを買うことができる。
では「幸福」を買うことはできるだろうか?

答えは「YES」、正しいやり方を知っているのなら。

タイムセール祭りで買ったもの

先週のタイムセール祭りであなたは何か買っただろうか。俺はMediaPad M5 Liteを買った。

俺はこの買い物によって高い幸福感を得られている。それはこのタブレットの使い勝手がいいからではない。なにせ手元に届いたばかりだ。まだ開封もしていない。

通常、買い物というものは、「手に入れた後」にその効能を得られるものである。人はそのために対価を支払う。しかし今の俺は「手に入れる前」から幸福感という効能を得ている。

これは明らかにコスパのいい買い物だ。俺が支払ったのは「手に入れた後」に対する対価だけであり、「手に入れる前」の幸福はタダで獲得しているのだから。

俺がどのようにして幸福を手に入れたのか。その方法と理屈を解説していく。

STEP1 目標価格を決める

まず最初にやるべきは、「ここまで下がるまで買わない」という目標価格を決めることだ。

欲しいけれども、今すぐ必要ではない。そういう物がある時、俺は値下がりするのを待つ。単純に安く買える方がいいというのもあるが、購入するまでに時間がかかるのが良い。この時間がかかるようになるメリットは2つある。

1. 衝動的な買い物を無くす
2. 経験が生まれる

この理由については、それぞれSTEP2、STEP3で述べる。

問題は目標価格をどのように設定するかである。安い方が望ましいが、非現実的な値段であっては購入することができない。人が物事を決めるためには基準が必要だ。そこで使えるのがamazon価格トラッキングサービス「Keepa」である。これを使えば、過去に価格がどのように変動していたのか知ることができる。

例えば今年の初めに俺が完全ワイヤレスイヤホンのJabra Elite Active 65tを欲しいと思った時、価格は以下のように推移していた。

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Jabra Elite Active 65t Titanium Blackの価格推移 (2019年1月時点)

これを見るとサイバーマンデーと初売りセール、それに通常のタイムセールでも1度は2万円を切っていたことが分かる。そこで俺は2万円を目標価格とした。Keepaには目標価格以下になったりタイムセールになると通知してくれる機能もあるので、設定しておくと良い。

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Keepaからの通知例

STEP2 先払いをする

目標価格が決まったら、先にお金を支払う。支払いと獲得のタイミングをずらすのだ。

行動経済学者が「支払いの苦痛」という言葉を生み出すほどに、お金を手放すのは辛い行為である。それは身体を傷つけられるのに等しい。「身銭を切る」という言葉があるが、高い価格を見るだけで脳は痛みを感じるのだ。

スタンフォード大学による研究で、買い物時の脳の活動を調べたものがある。それによると、購入しようと思った商品の価格が予想より高かった時、被験者の島皮質が活性化したという。

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Chittka L, Brockmann[1], User:Inductiveload CC BY-SA 2.5,Link

島皮質は身体的な痛みを感じたり予測した時に活動する領域である*1。他にも死別や不公正な処遇など、社会的な痛みでも活性化する。お金を支払うということは、これらと同じタイプの出来事なのだ。

このため、買い物する時に人は「獲得の喜び」「支払う痛み」の間で揺れ動く。だから買い物の喜びを最大限にするためには、支払いと獲得のタイミングをずらし、獲得の喜びだけを味わえるようにすればよい。

だからといって「先に獲得し、後で支払う」のは勧めない。幸福の観点からすれば、これは有害だ。借金という負い目があると、人は何をする時も後ろめたさを感じるようになる。イギリスでは、負債の額が大きくなるほどに家庭内の衝突が増えることが分かっている。義父母との関係がうまくいっていないのは、家のローンがあるからもしれない。

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楽しめるわけがない

対して先に支払いを済ましてしまえば、獲得する喜びだけを味わうことができる。人は喉元過ぎれば熱さを忘れる生き物だ。支払う時は苦痛を感じても、少し待てばその辛さを忘れてしまう。獲得する頃には無料でもらったかのような感覚になっているだろう。

また、支払いを先にすることは、STEP1で述べた「衝動的な買い物を無くす」効果もある。人は未来を考える時、長期的なメリットに目を向けやすくなる。今すぐ食べたいのはチョコレートだが*2、明日の食事を考える時は野菜350gが思い浮かぶだろう。支払いから獲得まで時間が空くと、人は賢くなるのである。

だから俺はAmazonで先払いをしている。amazonチャージを使うことによって。

チャージタイプは1円単位でギフト券残高に追加できる。なので目標価格分だけ購入すれば、実質前払いとなる。俺の場合はポイント目当てで毎回9万円チャージしているが*3

STEP3 じっくり待つ

目標価格を決め、ギフト券へのチャージが完了したら、後は「Keepa.comからのお知らせ」を待つだけである。待つことでAmazonで買い物という日常的な行為が、極上のエクスペリエンスへと変化するのだ。

「旅は出発前が一番楽しい」とよく言われる。実際、オランダで行われた研究によると、旅行客は「旅行の後の数週間」よりも「旅行の前の数週間」のほうが大きな幸福を感じるという。人は未来に起きる良いことを想像すると、快感を司る側坐核が活性化することが分かっている。人は予測で快感を得られるのだ。

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赤が側坐核 / The brain.mcgill.ca CC BY-SA 3.0,Link

とはいえ「待つことで幸福を感じる」と言っても、ただ何もせずに待つのは難しい。頭の中で楽しみをふくらませるためには、何か触媒が必要だ。そこで俺が勧めるのは、商品のレビューを見ることである。

レビューに書かれた利点から、その商品がどのように役立つのかを想像するのだ*4。この想像する日々は、ただの待ち時間ではない。これは買い物に紐付いた「経験」なのだ。そして人は「物質」よりも「経験」からより多くの幸せを獲得する

ウィスコンシン大学マディソン校のトーマス・ディレア教授たちは、50歳以上の人が何にお金を使っているのか追跡調査を行っている。その研究の中で支出選択幸福度を関連付けると、重要だったのは旅行や映画といったレジャーにまつわる消費だったという。逆に住宅費やアルコールといった「物質」に費やす金は、人生の満足度に影響を与えなかったのだ。

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この喜びは持続しないし、満足度のコスパはとても低い

物質的な買い物よりも、経験を買った方が喜びを長く感じられるなど、「幸せ」という観点では「経験 > 物質」であることを示す研究は他にもある。したがって買い物をいかに経験へと変えるかが重要なのだ。

STEP4 時が来たら注文する

「Keepa.comからのお知らせ」が届いた時、まだその商品を欲しいと思っているのなら、ためらわず注文する。お金の心配は必要無い。俺の言う通りに動いていたのなら、既に支払いは完了している。

この目標価格に到達した理由がタイムセールなどの期間限定によるものだとしたら、あなたはラッキーだ。人は時間が限られると、それを貴重な機会だと認識し、より強く獲得しようと思うからである。

カリフォルニア州立大学のスザンヌ・シュたちは、有効期限が異なるギフト券を用意した。片方は有効期限が2ヶ月あり、もう片方は3週間である。被験者たちにどちらがいいと思うかと尋ねたところ、大多数の人は有効期限が長い2ヶ月を選んだ

ギフト券A ギフト券B
有効期限 2ヶ月 3週間
欲しい方

次に研究者たちはどちらか片方のギフト券を被験者に渡し、そのギフト券がどれくらい使用されるのか調査した。結果は以下の通りだ。

ギフト券A ギフト券B
有効期限 2ヶ月 3週間
使用割合 6% 31%

期限の短い方の使用率が圧倒的に大きかったのである。

このような現象は他の分野でも見ることができる。例えばロンドン居住者ほどロンドンの観光地を訪れない傾向は「ビッグ・ベン問題」として知られている。ロンドン居住者がビッグ・ベンを訪れるのは、旅行者を案内する時か、ロンドンを離れることが決まった時なのだ。

人の「締め切りが迫ってから動き出す」というこの性質を、タイムセールはうまく利用している。残り時間と在庫数をリアルタイムで表示させ、人々に「限定」を強く意識させる。

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タイムセールの様子

通常、このように煽られた状態での買い物はうまくいかない。冷静に考える時間が無いからだ。

しかし、我々は違う。もともとその商品を買う予定であり、その価格が適正であることを知っている。日々レビューを眺めることで、生活に取り入れた時のシミュレーションは完璧だ。

「この時を待っていた」

そう言って注文すればよいのである。この時、商品と一緒に幸福を獲得することができるだろう。

今すぐ幸福を手に入れるには

これまでのステップをおさらいしよう。

1. 目標価格を決める
2. 先払いをする
3. じっくり待つ
4. 時が来たら注文する

以上を行えば、あなたもAmazonで幸福を買うことができる。しかし一つ問題がある。それは時間がかかるということだ。

例えば俺が今回タブレットを手に入れるのには約1ヶ月半かかった。俺のようにマシュマロが増えるまで待てる人間ならともかく、タイトルだけ読んでコメントするような奴にはとうていできない相談だ。

そこでより即効性のある方法を最後に紹介しよう。それは他人に投資することだ。

ブリティッシュコロンビア大学の心理学准教授エリザベス・ダンの研究チームは、学生に5ドルもしくは20ドルの現金を渡し、今日中に使うように指示した。そしてもう一つ条件を加えた。

グループA グループB
現金の使いみち 自分のために使う 他人のために使う

結果は金額に関係なく、他人のために使ったグループBの方が幸福度が高かったという。

この実験はアメリカとカナダで行われたものである。裕福な国だからこのような結果になったのだろうか。どうもそれは違うようだ。

2006年から2008年にかけて、ギャラップ世論調査は世界136ヶ国で代表的サンプル集団の調査を行った。それによれば内120ヶ国において、先月チャリティーに寄付した人々は、人生により多くの満足を感じていることが分かった。これは国の豊かさや、個人の収入を考慮した後でも変わらなかったという。

さらに136ヶ国全体で、チャリティーに寄付することは、家庭の所得を2倍にするのと同じくらいに幸福度に貢献していたという。財産の量や文化の違いに関係なく、人は他人への投資で幸福を得られるのである。

www.amazon.jp

いや、別に俺にギフトを送れと命じているわけではない。ロチェスター大学のネッタ・ウェインスタインの研究によれば、自発的に良いことをした時は気分が良くなったが、義務だと感じて行った場合はむしろ気分が悪くなったという。

ただ俺は「みんなに幸せになって欲しいな」と思っただけである。

終わりに

年々Amazonでの買い物体験が悪くなっているという話を目にする。信頼できない、ガラクタのような製品の比率が増えているからだ。タイムセールではそれが顕著である。

しかしだからといってAmazonで幸せな買い物ができないというわけではない。今回説明した手法に従えば、より幸福感のある買い物体験ができるだろう。それに購入前に時間をかけるこの方法ならば、ハズレの商品を買うことも減るはずだ。

なお、最後に念のため言っておく。この手法は最初に書いたとおり「欲しいけれども、今すぐ必要ではない」という商品向けのものである。必需品向けではない。トイレットペーパーが無くなったのに、安くなるまで待つというのはやめておこう。

参考書籍

例によってこの記事を書く上で参考にした本を紹介する。

Amazon関係以外は全てこの本が元ネタであると言っていい。タイトルの通り、いかにして「幸せをお金で買う」か、そのことを様々な研究を取り上げながら説明していく。俺が今回紹介した内容はほんの一部にすぎない。よりお金を幸福のために使いたいなら読んでおくといい。

お金で幸せを買いたいけれど、長い文章を読むのが苦手という人は以下の本がおすすめだ。

この本は同じ著者 (と他の研究者) がNHKの番組で講義した内容を再構成したものである。話し言葉で書かれているので、こちらの方が読みやすいはずだ。

タイムセール祭りの記事

記事中で話に上がった完全ワイヤレスイヤホンを購入した時の記事。この頃からタイムセールを待つのが妙に楽しいなと思っていたが、今回『「幸せをお金で買う」5つの授業』を読んで、その理由がよくわかった。

*1:実際の痛みでは後部島が、痛みの予測の場合は吻側(前側)が特に関与するらしい。

*2:行動経済学の本では、人はチョコレートを欲しがるものとされている。

*3:チャージタイプは1回の購入金額によって付与されるポイントが異なる。付与率が最も高いのは9万円以上である。

*4:レビューにデメリットが書いてあり、それが無視できないことであるのなら買うのをやめればいい。チャージしたギフト残高は他の買い物に使おう。