本しゃぶり

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生成AIを活用したアートの作り方

生成AIは強力な表現のツールである。
上手く使えば自分に足りない物を補える。

テクノロジーでアートの歴史を作れ。

表現の自由とプラットフォーム

ちょっと前、埼玉県公園緑地協会が水着撮影会開催の許可条件を発表した。

ただ法令や条例を遵守させるにとどまらず、記事のタイトルにもある通りNGポーズをイラスト付きで示している。Twitterでは主にNGポーズがネタとして消費されていたが*1、一方で「表現の自由」の問題として論争も起きていた。まあ、いつものことだ。

許可条件を見ると*2、まず法令・条例に抵触する行為を禁止している。加えて18歳未満のモデルに対してはさらに多くの法令・条例が適用されることを述べている。そして「撮影場所等について」では、周辺の遮蔽に努めろと、ゾーニングすることも求めている。以上を踏まえた上で、服飾やポーズに対しても制限を課しているわけだ。

これに対してNGポーズ肯定派は「管理者が求めているのだから指示に従うべき」と言っている。もちろん肯定派もあらゆる制限、例えば人種などを認めることは無いと思う。だが、こと表現に関して言えば、管理者に強い権利があると考えているようだ。

今回のは水着撮影の話なので、個人的には割りとどうでもいい。しかし、「管理者には表現を制限する強い権利がある」という話に対しては、引っかかるものがある。それは公営だけでなく民営であってもだ。なぜなら俺が気にしているのは大手テック企業による制限だからである。

例えばこの記事では、Instagramによってアートが規定されることを問題視している。この記事によればInstagramはアート界の主要プラットフォームであり、多くの作家が利用して収入に繋げている。そんなInstagramのガイドラインを見てみよう。

芸術的・創造的なヌード画像をシェアしたい場合があることも理解していますが、Instagramではさまざまな理由からヌード画像を許可していません。これには、性行為や性器、衣服を着けていない臀部のアップの写真、動画、デジタル処理で作成されたコンテンツなどが含まれます。女性の乳首の写真も対象となりますが、授乳、出産時や出産後、医療関連の状況(乳房切除手術後、乳がんの認知喚起、性別適合手術など)、または抗議活動に関する写真は許可されます。ヌードの絵画や彫刻の写真も許可されています。

コミュニティガイドライン | Instagramヘルプセンター、強調は筆者によるもの

絵画や彫刻はアートとしてヌードが許されても、その他の表現だと許されない。実際、ローラ・アギラールの写真作品をInstagramにアップしようとしたが、繰り返し投稿が削除されてしまったと上の記事では述べられている。全裸であるとはいえ、全くポルノ的ではないというのに。

Instagramを運営するMetaは民間企業であり、アーティストにはInstagramを使わない自由がある。しかし、実情としてアーティスト活動にInstagramが必須であるならば、このような表現の制限は許されるのだろうか。ちなみに、Metaが絵画や彫刻ならばヌードを許容しているのは、高尚な理由があってのことでは無いと思う。おそらくこれらのせいだろう。

Metaに限らず巨大テック企業らは、管理者の権利としてアートでも表現を制限している。最近、この問題をテーマに生成AIを活用したアートが作られたので紹介したい。

セバスチャン・ルクレールの問いかけ

セバスチャン・ルクレールはフランスを中心に活動する現代アーティストの一人だ。彼はパリのエコール・デ・ボザール出身で伝統的な分野からキャリアをスタートしたが、2010年頃からデジタルアートへと進出。2022年からは画像生成AIも使い始めた。伝統的な絵画技法とデジタル技術の組み合わせ、クラシックとモダンの調和を追求するのが彼のスタイルだ。

Sebastien Leclerc, Link

ルクレールは最新技術を貪欲に取り入れる一方、以前から巨大テック企業による表現規制に対して注視してきた。上で貼ったFacebookの件では、「表現の自由と慣習の間の緊張が今、私たちの目の前に」とツイートしている。

ルクレールのツイート, Link

おそらくこの件がルクレールの頭の中にずっとあったのだろう。今年、彼は現代の巨大テック企業による表現の制約に対する深い懸念を、画像生成AIを用いて表現した。

それがこの作品《La Liberté Assujettie à la Coutume / 慣習に従う不自由の女神》だ。

Sebastien Leclerc (2023), La Liberté Assujettie à la Coutume, Link

Facebookに掲載禁止された経歴を持つドラクロワの傑作『民衆を導く自由の女神』に、服で胸部を隠す改変が施されたものだ。色彩や形、テクスチャに至るまで原作の精神を捉え、優雅なヴェールによって女神の胸が隠されている。これまで名画を改変した作品というと、マルセル・デュシャンの『L.H.O.O.Q.』*3のように異物を付け加えるものが有名だ。今回クレールは逆であり、自然に隠す形で表現したことを批評家たちは評価している。

また本作は、過去の巨匠たちとの対話の中で現代の表現の自由に対する深い洞察を展開していると評されている。ここで真っ先に名前が上がるのはミケランジェロ、そしてダニエレである。つまり『最後の審判』の件だ。

1563年、トリエント公会議で出された法令では、あらゆる淫乱は避けなければならないとされた。それは当時すでに圧倒的巨匠であったミケランジェロの作品も例外ではなく、『最後の審判』の裸体が問題となる。ミケランジェロの死後、とうとう作品が修正された。修正したのは弟子のダニエレ。彼は師匠の傑作になるべく手を加えたくなかったが、聖女カテリーナは下半身だけでなく上半身まで服を着ることになった。

Marcello venusti, Public domain, via Wikimedia Commons, Link / Daniele, Public domain, via Wikimedia Commons, Link

この時は聖職者が表現を制限し、それによって画家が修正を行った。現代はアルゴリズムが表現を制限し、AIが作品を修正する。このような対比構造を作ることで、ルクレールは我々に、アートの自由と社会的規範、そして現代社会における表現の自由の問題への挑戦を投げかけている。

アートを生成する

この作品がどのように作られたか解説しよう。俺の認識だとアートはただ画像を作るだけではダメで、権威文脈といった要素が必要である。今回はこれらの要素についても生成AIが役に立っている。

画像生成

まずはメインである画像生成から。この手の修正は画像の一部をピンポイントで修正するInpaintingを使うのが一般的だと思うが、今回はほとんど使っていない。これくらい大きな修正をInpaintingでやると、向きが変わったりバランスが崩れやすいからだ。実際、最初はInpaintingを試してみたが、求めるクオリティに達しなかった。

おっぱいの向きが変わるのがダメ

そこでControlNetで制御しながら手修正した画像i2iで変化させる手法を採用した。

i2iで服を着せる

Lineartで形を制御しつつ、Reference-onlyで画風をなるべく合わせる。一度に大きく変化させようとすると、先のInpaintingみたいに向きが変わってしまうので、少しずつやるのがポイントだ。

ただしこの方法だと、見ての通り顔など他の部分まで変わってしまう。そこで「消しゴム」を活用する。

オリジナルだけ表示した状態

お絵描きソフトを使い、上から「加筆」「オリジナル」「i2i」でレイヤーを重ねる。そしてオリジナルから変更したい部分だけ、消しゴムをかけるのだ。すると任意の部分だけ変更された画像を作れる。これをまたi2iに突っ込む。

i2iと消しゴムの繰り返し

これをひたすら繰り返すと、いい感じに服を着せることができる。満足するレベルに達したら、元の大きな画像に貼り付けて完成。

完成

さいたまNGポーズや獣人グラビア*4でも、同じようにi2iと手修正を繰り返すことで俺は画像を作っている。なので「プロンプトを教えてくれ」に対しては、答えようと思わない。見ての通り、プロンプト以外の要素が多くを占めているからである。

人物生成

作品が生成できたので、今度はアーティストを生成する。この人の作品なら価値がある、そう思わせるようなアーティストにしたい。

アーティストに必要な要素が分からないので、まずそこからChatGPTに相談する。

アーティストのプロフィールに必要なもの

この回答を元に、ChatGPTにアーティストのプロフィールを作ってもらう。こういうもっともらしい設定を作るのはChatGPTの得意分野だ。

プロフィールを作って

今回、アーティストをヨーロッパの男性としたのは、この後にプロフィール画像を生成するためである。おそらくアーティストの画像は欧米人が多いだろうという判断と、女性はいかにもAI製に見えやすいためだ。作りやすさと見慣れなさのバランスを取ったというわけだ。残念ながら今の生成AIはバイアスがかかった画像の方が作りやすい*5

プロフィールが完成したので、このプロフィールを元に画像生成用のプロンプトを作る。もちろんChatGPTを使って。

ルクレール生成のプロンプト

これを突っ込んだらルクレールの誕生というわけだ。

よく見るとおかしい箇所がちょくちょくある

批評生成

最後に批評の生成である。これはアーティストの生成とほとんど同じである。まずChatGPTに批評に必要な要素を尋ね、それから批評を生成してもらう。

批評の生成

後は俺が頑張っていい感じに書き直して記事にする。完成。

終わりに

最近は露出度の高い画像ばかり生成していた。これはこれで面白いのだが、さすがに水着画像は飽きてくる。たまには「逆」をやってみるのも面白いのではないか。低俗ではなく高尚なものを、水着ではなく露出を減らす画像を作るのだ。

こういう時に真っ先に思い浮かべるのが『民衆を導く自由の女神』である*6アレのおっぱいを隠そう。しかし、ただ隠しただけでは面白くない。そこでアーティストや文脈までセットで生成することにしたのだ。これでちゃんとアートになる。

もちろん、この程度のクオリティでは美術を学んでいる人や、東京に住んでいて文化を享受している人*7の目は誤魔化せないだろう。だが、アートの世界は、俺を含めて9割の人が知らないので、ここまでやっておけば十分ではないだろうか。創作などでアーティストを登場させたいならば、今回紹介した手法が役に立つだろう。

ChatGPTの共有リンク

今回、あまりにも売るものが無い。仕方がないので記事を書くのに使ったChatGPTの共有リンクを売ることにした。この記事を購入すると俺がどのようにChatGPTへ指示し、どんな回答を元にこの記事を書いたかが分かる。

この続きはcodocで購入